2019-20シーズン ブンデスリーガ第27節 ヘルタベルリンvsウニオン・ベルリン マッチレビュー~ダービー文化を根付かせるために~
ブンデスリーガのマッチレビュー2回目はヘルタvsウニオンのベルリンダービーについて書いていく。
昨年でベルリンの壁崩壊から30周年を迎えた。そしてこの記念すべき年に、ブンデスリーガでは実に42年振りとなる「ベルリンダービー」が行なわれたのだ。
最後に行なわれたベルリンダービーは1977年。その当時は、ヘルタベルリンと現在5部に位置する「テニス・ボルシア・ベルリン」の対決だった。そのため、ウニオン・ベルリンとヘルタベルリンがブンデスリーガで戦うのは今シーズンが初となるのだ。
そもそもの話として、国ではなくひとつの街が東西に分離されることは極めて異例だ。そのため、同じベルリン市内でも、この両クラブは全く違う歩みを進めてきた。ブンデスオリジナルメンバーとして旧西ドイツで活動をしていたヘルタベルリン。そしてウニオン・ベルリンは、旧東ドイツに籍を置きながらも、社会主義独裁政権に反対した労働者階級が中心となって1966年に発足されたとされている。
そんな背景からウニオンのサポーターは、ヘルタが東欧圏で試合をした際は、スタジアムにまで駆けつけ「ヘルタとウニオンはひとつの国」という応援バナーを提示し、旧東ドイツの当局を困らせていたという話しもある。
その後、東西が統一し、ヘルタが1部と2部を行き来するようになった時期には、何度か対戦をしていた。そこからお互いライバル意識が芽生えてきたわけだが、ウニオン・ベルリンはなかなか1部に昇格することが出来なかったのだ。
元々旧東ドイツのチームはなかなか昇格を果たすことが出来ない。現在ブンデスリーガに所属するクラブは、ほとんど旧西ドイツに位置している。実際、東西統一する前から活動していて、今シーズンブンデスに所属するクラブはヘルタとウニオンだけだ。(ライプツィヒは2009年に創設)。
これには、財政的な背景もある。ヘルタが首都に本拠地を構えるクラブながらも、力が無かったのもそのためだと言われている。そして、ウニオン・ベルリンは何度も財政難に瀕していた。それでも、幾度となるピンチを乗り越え今に至るわけだ。
そして、昨シーズンを3位で終えると、シュツットガルトとの入れ替え戦にアウェイゴールの差で勝利し、念願の1部昇格を達成。度重なった財政危機の果て、ついに1部の舞台を手にした。それが奇しくも、ベルリンの壁崩壊から30年後の出来事にである。
そんな、ベルリンの壁崩壊から30周年かつ同じ街の東西に本拠地を置いていた2チームによるベルリンダービーは、後半45分にウニオン・ベルリンがPKを獲得。これをセバスティアン・ポルターが決めて1-0でウニオン・ベルリンが勝利を収めた。
果たして2回目のベルリンダービーはどのような試合になったのか。前置きが長くなったが、たまにはこういうスタートも悪く無いだろう。ここからようやくレビューの時間だ。
では行こう!
両チームのスタメン
ホームのヘルタは前節から1人メンバーを変更。対するウニオンは、前節のバイエルン戦から中4日での試合。メンバーを3人変更して臨んだ。
出口の見えない前半
ウニオンはバイエルン戦同様に3-4-2-1のフォーメーション。「まずは守備から」を軸に5-4-1のブロックを組んで、前線の3枚に素早くボールを預けようとする。一方のヘルタはボールを保持。スタートはCBが大きく開き、SBがやや高い位置を取っての組み立てになった。噛み合わせだけみれば、ウニオンの方がやや有利な立ち上がりに見える。
ヘルタの立ち上がりに配置としては、中を使うというよりかはサイドに目一杯開いて、そこを使うような動きをしていた。その際、幅を取る係は基本的には両SBが担当。しかし、これだとウニオンは守りやすい。大きく開いたSBにはIHが着いて行き、CHにはCHが対峙すれば良いのだ。そのため、ヘルタは相手の出方を伺いながら、最後尾でパスを繋ぐようなシーンが多かった。
すると、前半3分過ぎからビルドアップの形に変化が見られた。
右サイドから組み立てる場合は、CHのシェルブレッドかグルイッチがサイドに流れ、右SBのペカリークが押し上げられる形で、高い位置を取っていた。そして、トップ下のダリダが積極的にボールを受けに顔を出すシーンが増えたのだ。これだけ見ると、オーバーロードっぽい感じがした。そして、逆サイドは左SBのブラッテンハルトが高い位置を取って、アイソレーションっぽい形になっていたのだ。
逆に左サイドから組み立てる場合は、左SBのブラッテンハルト+2CBがビルドアップ隊となる。この際は、CHが落ちてきて、左SBを押し上げるような形は見られなかった。
この形になって早々には良い動き出しからゴールへと迫るシーンがあった。縦横無尽に動き回るダリダがシェルブレッドに展開し、スルーパスにルケバキオが抜け出しチャンスを演出した。ただ、前半見せたオーバーロードからの崩しはコレだけ。そのため、効果的だったかと言われると難しいところである。
これ以降のヘルタは「密集地帯を作って、そこから崩す」というよりも「ロングボールを使う」という手に出た。密集地帯で5バックのギャップを作り出してから裏に抜けたり、アイソレーションのサイドを使おうという意識は見られたモノの、効果的だったとは言いにくかった。
対するウニオンは、配置での利点を活かした組み立てを行なおうと試みたが、ヘルタのプレスバックの速さに太刀打ち出来てなかった。そのため、押し込んでいる時間帯の起点は3バックからのロングボールがスタートとなる。
両チームとも試行錯誤しながらも、攻撃に困りながら前半の45分を消化。堅い試合と言えば堅い試合なのだろうが、正直互いの意図がなかなか掴めない前半だった。
突然開いた門
後半もこの調子が続くかと思われたが、その考えは開始早々に変わった。
前半から高い質のボールを配球していた、左CBのトルナリガからズバッとトップ下のダリダに縦パスが入ったのだ。しかも、ダリダはフリーでターンし、クーニャ→ルケバキオと繋いでフィニッシュまで持って行き、後半開始早々に決定機へと繋げた。
この仕組みには、トリメルが戻りきれず一時的に4バックになっていたことが原因だったと感じる。また、イビシェビッチとルケバキオが2CBをピン留めしていたことで、前に出てこられずダリダがフリーでターン出来たのだ。そして、このトルナリガ→ダリダのホットラインが先制点を伏線になる。
(GIF画像:5秒で変化)
試合が動いたのは後半6分。
このシーンでは、ブラッテンハルトがイングバルトセンをピン留め。そしてプロメルは、シェルブレッドに寄せに行ったまま、コースを消すことが出来なかった。その結果、再びトルナリガから素晴らしいパスが供給され、ダリダが前を向くことの成功する。
そして、ダリダがライヒェルを剥がし、大外駆け上がってきたブラッテンハルトがクロス。これをエースイビシェビッチが決めてヘルタが先制に成功する。そして、そのわずか1分後にヘルタが追加点。後半開始10分以内で2-0となり、ウニオンは厳しい立ち上がりを強いられた。
4-4-2と4-2-3-1の守備
ここまで、ヘルタのビルドアップの配置について述べてきたが、ここではヘルタの守備についても触れていくことにする。
ウニオンのDFラインがボールを保持した際は、4-4-2の陣形を保ちながら、人に着いていくような守備をしていた。
剥がされてもプレスバックでサンドしてボールを奪ったり、SBが釣られてもCHがチャンネルをカバーしてスペースを消す動きが見られていた。全体的にインテンシティも高く、「組織」で守っているように感じられた。
そして、ある程度押し進められても
4-2-3-1でコンパクトに対応。誰かがチャレンジに行っても直ぐさまカバー出来るような距離感を保っていた。
ウニオンも前線に人数をかけて攻撃を仕掛けようとしたが、効率的な攻撃が出来ずに終わってしまう時間が続いてしまったように思える。
このような守り方は、レヴァークーゼンが前節ブレーメンに対して行なっていた守備と似たような印象を受けた。昨年、筆者の最推しである川崎Fも4-4-2の陣形を保って前から奪いに行くようなシーンは見られたが、ほとんど空回りに終わってしまっている。やはり、これだけプレスバックやCHのタフさが無いと4-4-2で前から奪いに行くような守備陣形は難しいと感じた。
総評
試合は、ヘルタが2得点を挙げて4-0で快勝。前半の試合展開からは予想も着かない試合となってしまった。
ウニオンも2失点してから、ウジャを投入しトルナリガに楔を入れさせないような策を取るも、GKを使っていなされたり、長いボールを蹴って逃げられたりと全てが後手に回ってしまった印象を受けた。やはり、「ある程度0-0を推移した後に仕留める」をコンセプトにするチームにとって、出鼻を挫かれるのは厳しくなってしまうというのが筆者の意見だ。
一方のヘルタは初見だったが、とても面白いチームだったと思う。
攻撃時はポジションという概念にとらわれず、各々が決められた立ち位置を入れ替わりながら攻撃を組み立てていた。そして、最終ラインに足元の技術に優れた選手がいるのは、この戦い方をする上で欠かせないだろう。今回、先制点の起点となったトルナリガや、GKのヤシュティンの蹴る技術の高さには本当に驚かされた。また、左SBのブラッテンハルトはこの試合2アシスト。彼のクロスも大きな武器である。
逆に守備時は組織的でチャレンジ&カバーをベースにボールホルダーに奇襲をかけていた。もちろん、剥がされたらピンチを招くリスクはあるが、この試合ではそれが感じられない、良い守り方をしていたように思える。
この結果を受けてウニオンは13位に後退。降格圏との勝ち点差は6にまで縮まってしまった。
来シーズンも、ブンデスの舞台で「ベルリンダービー」を続けるにはここが踏ん張り所と言えるだろう。
元ベルリン市長であるクラウス・ヴォーヴェラは「Berlin ist arm,aber sexy(ベルリンは貧しい、でもセクシー)」という言葉を残している。今では独自の進化を遂げたベルリンだが、以前までは目立った産業が無く、富裕層が多くなかった背景があるそうだ。
そんなドイツの首都にも、首都の覇権を争うダービーマッチのチャンスがようやく巡ってきた。他国同様「首都でのダービーマッチ」という新たな文化をドイツの地にも根付かせても良いのではないだろうか。
ヘルタBSC4-0ウニオン・ベルリン
得点者
後半6分 19イビシェビッチ
後半7分 28ルケバキオ
後半16分 26クーニャ
後半32分 20ボヤタ
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