2022ー23 プレミアリーグ 第10節 ブライトンvsトッテナム マッチレビュー~この試合の3-5-2を探る~
ブライトン0-1トッテナム
得点者(TOT)
22' 10ハリー ケイン
得点者(BHA)
なし
両チームのフォーメーション
保持から分かるスタメンの人選
前節、アーセナルとのノースロンドンダービーに敗れ、ミッドウィークに行なわれたCLではチャンスシーンを生み出しながらも、フランクフルトに引き分けたトッテナム。そんな中迎えた今節は、ブライトンとの上位対決に臨んだ。
この試合のトッテナムはこれまでの3-4-2-1では無く、3-5-2を採用。アンカーにビスマを置き、IHにベンタンクールとホイビュアが入った。
この3-5-2を見た感想を先に述べると、攻守に渡ってIHの能力にだいぶ依存した戦い方のように思えた。ビルドアップの面に関してはホイビュアの立ち位置が結構肝になっていたように感じる。彼がビルドアップの助け役となるシーンが多かった。
その背景としては、ブライトンの非保持での振る舞いがあったからのように思える。ブライトンは、5-2-3のような布陣を取りながら前からプレスに出て行く。そのため、スリーバックに対して3枚を当てる構図になっていた。
そのため、ホイビュアが助け役として関わることでビルドアップの出口を作り出していた。また、この形だとアンカーにいるビスマをどうやって消すかという部分に直面する。序盤のブライトンはそこの捕まえ方にかなり困っていた様子だった。
そのためトッテナムは広い方に揺さぶりをかけながら前進すること成功。右のシャドーに入ったグロスがビスマ番をすれば左サイドには大きなスペースが生まれる。ここはセセニョンが高い位置を取って、相手のWBを押し下げていたこともスペースが生まれた理由に繋がっている。
個人的に見ていて面白いなと感じたのはWBとIHが表と裏の動きをすること。例えば、右のドハティが下がって受けようとすれば、IHのベンタンクールはその裏に抜け出す。ブライトンとトッテナムのWBは常に1on1の状況であるため、トッテナムのWBがブライトンのWBを動かしてスペースを作るということが出来ていた。
このWBの上下動を見ると、フリーランで縦に強く出られるドハティとセセニョンは適任かなと思った。エメルソンのフィジカルやペリシッチのスキルの高さも必要だが、この3-5-2のWBで求められるのはタフさとスプリントの多さだと思う。そのため、この2人をこの試合で起用したのは理に敵っていると感じた。
そんな中で先制点を奪ったのはトッテナム。コーナーキックの流れからソンのシュートをケインが頭でコースを変えてネットを揺らした。このコーナーキックを獲得した場面も良い形でボールを動かせていた。
この場面では、ホイビュアとビスマの2CH気味になり、ブライトンのプレス隊3枚の間に立つような立ち位置を取る。そこでボールを受けたホイビュアがターンで前を向き、左で幅を取っていたデイビスにボールを付ける。そこからサポートするために下がって来たセセニョンがWBのマーチを引っ張り出し、空いたサイドのスペースにソンが流れて前進に成功する。
シュートを打ったベンタンクールも、ブライトンの2CHがスライドした脇で受けていた。これもまた非常に良い部分である。
真ん中に一度差し込んだ所からサイドに出しつつ、WBとの1on1を利用したスペースの享受は素晴らしかったと思う。これだけシームレスに組み立てが出来るなら、最初からやってくれと思った。
3-5-2の強みを怠らないこと
一方で非保持の部分についてである。ここは3-4-2-1の時よりもアグレッシブにボールを奪いに行く傾向にあった。
以前レスター戦の後半で3-5-2を試した際、筆者はスリーセンターのボールハントとカウンターについて触れていた。
実際この試合でも彼らのボール奪取能力に助けられた部分がある。ブライトンがスリーバック+GKでボールを回す際は、ケインが外が切りつつGKにプレス。その際IHのベンタンクールが1つ前に出てウェブスターを監視していた。
それに加えブライトンの2CHに対してはホイビュアとビスマが対応。これによりマンツーマンが完成した。ブライトン自体、真ん中のマック・アリスターやカイセドに預けつつ前進したい感じ見えたが、それはトッテナムの思う壺である。真ん中のパスを引っかけてそこからのショートカウンターでゴールを脅かしてた。
前進された場合でも5-3-2のブロックを組みながら対応。迷いに困っていた部分で言えば、持ち運ぶフェルトマンと落ちてくるグロスの部分だろう。グロスに対してはデイビスが着いて行き、フェルトマンはソンのスライドで対応。それで逆サイドにやり直されたらベンタンクールが出て行くという形で凌いだ。是非14:35のプレッシングを見返して欲しい。
しかし、この守り方だと縦にボールを入れられた際にしっかり潰さないと相手にチャンスを与えてしまうキッカケになる。
5-3-2で守るチームの強みはバイタルに入れられても前向きで潰せる所にある。つまりは3-2でパスコースを制限して、縦に誘導させて後ろの5枚で潰すという方法だ。
本来相手を潰すことで成り立つ形であるため、縦パスからボールを受けたトロサールやウェルベックを潰せずにピンチを招いたシーンが多かった。上記の画像の場面も、選択肢はウェルベックやトロサールのみ。となると決め打ちはしやすいはずだ。
前半の終盤は強度が落ちつつあったトッテナム。そうなるとフェルトマンのケアが出来ずにそこから前進を許して押し込まれるシーンが度々見られた。フェルトマンのこの持ち運びは面倒である。
押し込んだあとのブライトンは、左右に揺さぶりをかけスリーセンターの脇を出口にしていた印象。そこから右サイドに展開してマーチvsセセニョンの局面を作り出していた。トッテナムも5-3-2で完全に撤退して守り切り前半を1-0で終えた。
三笘が怖い
後半はブライトンが積極果敢にプレスに出るようになった。ハッキリしていなかったビスマ番はトロサールが行なう。全体的にトッテナムの左サイドに誘導してどうにかしようという感じである。
この際、ベンタンクールが気が利いていた。トロサールが釣れたスペースに落ちて来つつ、ブライトンのCHを引っ張り出して楔を入れるなど、相手を動かす工夫を凝らしていた。
しかし、時間が経つ度にトッテナムはボールを蹴り出して解決しようとするシーンが増えてしまう。そのため、セカンドボールを回収されて相手の厚みのある攻撃に耐える時間が増えてしまった。
その一番の理由としては明らかに強度が落ちてしまったからだろう。正直、この戦い方を90分続けるのは難しい。特にIHとWBのハードワークはマストになってくる。
後半のブライトンで良かった所は、スリーセンターの脇を使いながら攻撃しようとしていたこと。右サイドで作りつつ、左のスリーセンター脇に入ってくるウェブスターが凄く面倒だった。
そんな中、ブライトンはエストゥピニャンを下げて三笘を投入。三笘はかなりトッテナムDF陣に脅威を与えていた。ドリブルでいきなり間を割って切り裂いたシーンはマジで凄かった。
1-0という均衡したスコアだからこそ、三笘のドリブルで試合の展開が大きく変わる予感がした。筆者は川崎フロンターレのサポーターでもあるため、三笘のドリブルにトキメキ、何度も感動を味わってきた。
しかし、いざ敵側に回ると、こんなにも恐ろしいのかと感じた。三笘がボールを持つ度に動悸がしたのは事実である。これが今年あと最低1度あると考えるだけで震える。今まで「三笘怖い」と言ってきたJリーグサポーターの気持ちが、ようやく分かった瞬間でもあった。
トッテナムはビスマをリシャルリソンを投入。これまで慣れ親しんできた3-4-2-1のフォーメーションを変えた。
終盤もブライトンの攻撃を耐えながら何とか勝利。ブライトンに決定機が訪れるも、右WBのドハティが絞って対応。高い集中力を見せ、シュートを打たせずに守り切った。試合は1-0でアウェイのトッテナムが勝利を収めた。
雑感
いつものように備忘録記事を書こうとしていたら、文字数が3000を越えたのでレビューにしました。皆さん最後まで読んでくださり有難うございます。画像も沢山です。
この試合3-5-2に採用した意図に関しては気になる所だが、正直に言うとこれをシーズン通して戦うのは難しいと感じた。特にホイビュア、ベンタンクールのIHコンビは替えが効かない存在になっている。どちらかが欠けるだけでも大分変わってくると思う。
それとこのフォーメーションではクルゼフスキは絡んでこれないと思う。WBで使うなら面白いかなと感じるが、それも正直勿体無い気がする。
そのためオプションとして運用するのは面白いと思う。CLも3-4-2-1を使うチームが多いため、そういう相手には通用しそうだなと感じた。後はコンテがどう使い分けるかである。そこはまだまだ見えてこない点だ。
試合自体もブライトン側が準備してきたのと違うフォーメーションだったことを指揮官側が試合後に吐露している。
なので、対策をされた時にも同じように戦えるかは今後じっくり見ていきたい部分だ。
筆者としては、これからも続くシーズンの中で、フォーメーションをどのように併用しているのかを見出して行きたいと思う。
最後に
この試合が行なわれる2日前に、トッテナムのフィットネスコーチとしてトップチームの指導をしていたジャン・ピエロ・ヴェントローネが急性白血病により急死した。
そのため、この試合を戦うに向けて、メンタル面の準備を出来ていない選手が多かったはずだ。また、フォーメーションもこれまでとは違うため頭の部分も大きく働かさなければいけない。僕たちには想像出来ないくらいキツい心理状態だったと思うが、最後までファイトし、走り切った選手たちは本当に素晴らしかったと思う。
彼に鍛え上げられた選手たちが最後まで勝ちに執着したことと、ジャン・ピエロに勝利を届けられたことに嬉しく思う。
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