2022ー23 プレミアリーグ 第12節 マンチェスターユナイテッドvsトッテナム マッチレビュー~前半が全て~
マンチェスターU2-0トッテナム
得点者(TOT)
なし
得点者(MUN)
47' 17フレッジ
69' 8ブルーノ フェルナンデス
両チームのフォーメーション
チグハグプレスの結果
前節のエヴァートン戦から中3日での試合。その試合でリシャルリソンがふくらはぎを痛め負傷交代を余儀なくされている。
依然としてクルゼフスキも怪我での欠場が続いてるため3-4-2-1が使えない状態だ。そのためコンテ監督は、ビスマを中盤で起用した3-5-2採用てこの試合に臨んだ。
前回3-5-2で臨んだブライトン戦はまずまずの試合展開だったと思う。非保持では、前からプレッシングが機能していたし、保持でも広いスペースから攻め上がることが出来ていた。
しかし、あれはブライトンが3-4-2-1のフォーメーションを採用していたため、噛合わせで優位に立てていた部分が大きい。そのため、今節のゲームはそこでのズレや、逆に噛合う部分に苦戦を強いられた印象を受けた。
まずは非保持の部分から話して行く。ユナイテッドの保持はカゼミロをアンカーにし、フレッジを1枚上げてブルーノと並べた2-3-2-3みたいな形になる。それに対しトッテナムは低い位置でブロックを組むのでは無く、前から奪いに行きながら中盤は人を捕まえる形を採用していた。
アンカーのビスマをカゼミロ番にし、ベンタンクールとホイビュアがフレッジとブルーノを見る配置を取る。これで中盤を捕まえるのは成功した。しかし、問題はSB、もしくは広がったCBをどう捕まえるかの部分にあった。
特に気になったのはユナイテッドのSB。ここにWBの選手が出ていくのか、IHがマーカーを捨てて出て行くのかがハッキリしていなかったのが気になった点だ。
WBは基本的にユナイテッドのWGにピン留めされているため、そこを捨ててまでSBに出て行くのは少なめ。スリーセンターのスライドが間に合わなそうな時は出て行く感じである。
ただ、ファジーな位置で浮くSBまで出て行くとなると距離が遠い。ここはIH、WBに関わらず遠かった。そこへのプレッシングが間に合わないとSBには時間が与えられるため自由にボールを蹴れる。特にダロトからルーク ショーにサイドチェンジを飛ばされていたのは顕著だった場面である。トッテナムのプレスはこのサイドチェンジだけで空転してしまう。
ここにWBが出てくればサンチョや2列目のフレッジ、ブルーノが背後を狙うまでがこの試合のユナイテッドのやり方のように見えた。実際、カウンターからユナイテッド攻撃陣に背後を狙われるシーンはしばしば見られた。スピード勝負に持ち込まれるとなるとトッテナムDFの方が分が悪い。
空いたスペースに立つ出し手への牽制は、ペナ幅よりも開いてボールを受けるCBに対しても同じ。ここもどうやって人が行くかという部分に迷いが見られた。この試合、サイドに開いたヴァランから斜めにボールを入れられるシーンが前半の早い段階で2回ほど見られた。
1本目はブルーノがスルーしてフレッ渡った場面。もう1つは中盤の空洞化を狙われた場面である。
1本目のシーンはペリシッチが高い位置でのアプローチを試みたため真ん中にホイビュアとベンタンクールが余っていた。だが、ブルーノのスルーによって無効化された。そこから背後を走る選手にスルーパス出したのを見ても、トッテナムのDFラインに対して、かけっこで勝てる算段が有るからだろう。
2本目のシーンは、ベンタンクールが逆のSBに早めに出て行き、開いたヴァランにホイビュアが遅れて出て行ったため、中盤に大きな空洞が出来ていた。ソンもコース切りながら寄せに行くのに、切った方向にパスを通されてしまっている。正直これは酷い。
このように前からプレスに出るも、ボールを「どこで奪うのか」と「誰が誰に着いて行くのか」が終始めちゃくちゃであったことが、押し込まれてしまった原因に繋がったのだと思われる。
そこからハーフコートに押し込まれてしまえば苦しくなる。ユナイテッドの両アタッカーはかなり技術があるし、そこを追い越すSBも面倒な点。特にアントニーとダロトのコンビには手を焼いていた。
カットインで仕掛けてくるWGに対し5-4-1で守るときと同様にダブルチームを組むが、この日はスリーセンターで守っている。4枚の時は、SHの次に直ぐCHの選手がカバーに来るため、カットインされても次のカバーが早い。しかし、この試合は3枚で守っているため、そこのカバーがいつもよりも遅かった。
また、スリーセンターが同サイドにスライドしてしまうと逆サイドも空いてくる。そこを経由されてシュートを打たれる場面が多かったように感じた。ここはアーセナル戦と同じで、FWと中盤の間をひたすら横断されるパターンだ。
本来であれば、ソンやケインにプレスバックを頑張って貰ってシュートを打たせないようにして欲しいところだが、彼らはポジトラに向けて前線に残っているので8枚での守備を余儀なくされていた。そんな中でも前半を無失点で終えられたのは、ロリスのビッグセーブがあってこそだろう。
3-4-2-1と課題は同じ
お次の保持の話し。前回のブライトン戦では、ブライトン側がビスマをどうやって捕まえるのかでかなり苦労をしていた。
相手としては、ビスマのような配給力と推進力を兼ね備えている選手を真ん中に置かれると放置は出来ない。なので、まずは真ん中閉めるようになる。そうするとトッテナムは空いたサイドを使うというパターンになるはずだ。
それに加え、トッテナムのWBがブライトンのWBをピン留めしながら押し下げることでスペースを作り出し、そこにIHが出入りしたり、HVが高い位置を取ることで前進していた。
しかし、この試合は中盤がユナイテッドの4-2-3-1と噛合う形になってしまう。それに加え、開いたHVと降りてくるWBに対してはユナイテッドのWGが監視。真ん中とサイドの両方を蓋される形で守られていた。
ユナイテッドもガンガンにハイプレスをかける!という感じでは無かったが、ジワジワとボールホルダーにプレッシャーをかけて奪いに行くシーンは多かった。
こうなるとトッテナムのビルドアップ隊は機能停止する。受け手となりそうな選手が捕まってしまい前進出来ないのは今シーズン3-4-2-1でも多々見られている光景。直近で言えば、チェルシー戦がそんな試合であった。
一方で良かった場面で言えば、前半5分のベンタンクールがシュートを打った場面ぐらいだろう。
上手く浮いたホイビュアとのワンツーからベンタンクールがフレッジのマークを剥がして受けたのは良かった。この時間帯はまだ勇気を持って縦パスを入れることが出来ていた。
しかし、全体的に人がボールを迎えに行くと、ただ相手を引き連れてくるだけになってしまう。出し手もマークに遭っている味方に縦パスを入れるのを嫌ってしまい、徐々に横パスに逃げるシーンが増えていった。
そこには、起点となるケインがボールを収められない場面が目立った影響もあるだろう。収め所の頼みの綱であるケインだが、この試合はマルティネスを背負えないシーンが多かった。
チームで一番相手を背負えるケインがボールを収められないとなると難しい。他に託す先が無いからである。その結果、横パスに逃げて無理に蹴っ飛ばして失うサイクルが多かった。
前半の途中からは、ホイビュアだけが落ちて来るようになり、そこでターンして前を向けるようになった。カゼミロがそんなに捕まえに来なくなった理由は分からないが、ひとまずは前進は出来た印象だ。
ただ、ホイビュアが降りることで空いたスペースをどう使うのかが問題である。そこも有耶無耶にしていた結果、前線に良い形でボールを進めることが出来なかった。
3-4-2-1で見えていた課題が3-5-2になったとしても、ビスマとサイドを同時に封じられることで、同じように浮き彫りになったのは切ない点であった。
前半のツケが回った後半
前半を0-0で折り返して迎えた後半。両チーム共にメンバー交代無しの中、先手を取ったのはホームのユナイテッドだった。
セカンドボールを繋ごうとしたダイアーのパスをブルーノに奪われると、そこからショートカウンターを受ける。横断パスからサンチョの落としに走り込んできたフレッジのシュートがデイビスに当たってゴールに吸い込まれてしまった。
このシーンもゴール前で左右に揺さぶられてから、エリアの外からシュートを打たれての失点である。前半からあれだけの回数のシュートを浴びていたら、一回ぐらいはこういう事故が起っても仕方ない。前半から試行回数を増やし続けていたユナイテッドの勝ちである。
このゴールで勢いに乗ったユナイテッドに対してトッテナムは中々組み立てられない時間が続く。WBに対してもSBが早く寄せて来るようになり、後ろからじっくり組み立てる上でかなり窮屈になっていた。
保持から無理な攻撃は逆にユナイテッドの攻撃を助長させるだけである。そのため、先制点を奪われて以降はユナイテッドのカウンターに晒される時間が続いた。
迎えた69分にはそのユナイテッドのカウンターから押し込まれ、最後はブルーノに豪快に蹴り込まれて2失点目を浴びてしまう。この時間帯の前にはペリシッチの単独突破から幾つかチャンスを作っていただけに、そこをモノにしたかったところ。
2点ビハインドとなれば、本来であれば選手交代を挟んで流れを変えたいところ。しかし、それも82分まで行なわれなかった。クルゼフスキ、リシャルリソンという3-4-2-1にスイッチ出来て、尚且つピッチ内でも高いクオリティを発揮できる選手を怪我で欠いているのは痛い。何より今のリザーブメンバーの殆どはコンテのお眼鏡にかなっていない証拠だろう。
実際ドハティを使わないことに関して辛辣なコメントを残していたので、選手を練習からのパフォーマンスをかなり重視しているはず(それでもエメルソンよりドハティの方が格段に良かったとか言えない)。今回のメンバーを見ても及第点を得ているのはセセニョンぐらいの気がする。
なので、信頼を置けるスターターが前半から苦しめば、こういう試合展開になってしまう。結局ルーカスなどを入れて3-4-2-1にしたが時既に遅し。試合は0-2で敗れた。
雑感
個人的には前半が全てだったと思う。あれだけユナイテッドに攻めさせて、選手やオールド・トラッフォードに集まった観客に勇気付かせたのが良く無かった。
そうなったのも最初の項目で上げた、ボールを「どこで奪うのか」と「誰が誰に着いて行くのか」と、次の項目であげたビルドアップの部分が出来ていなかったことが大きかったと思う。
個人的には非保持撤退してソンとベンタンクールを5-4-1の4の端にしてガッツリ撤退しながら守っても良かった気がする。まずは不得意であるスピード勝負されるスペースを消しつつ、相手の攻撃を吸収してからひっくり返す形である。
押し込まれた時に結構やられていたのでどっち道詰んでた可能性はあるが、この試合に置けるプレスの担当を準備できないまま剥がされ続けたよりかはマシな気がする。
ユナイテッドとの噛み合わせが悪かったと言えばそれまでだが、このぐらいの強度がデフォルトになってくると、今後一方的に殴られる試合展開が増えてくるかもしれない。
そういった意味でも、このビッグマッチで、ファーストプランが崩れたときの修正力の薄さが露呈してしまったのは寂しい点である。怪我人が戻ってくればもう少し変わっていたのかもしれないが、リシャルリソンとクルゼフスキは当面戻って来なさそうな雰囲気だ。
今後も3-5-2での戦いが強いられる中、ワールドカップ開催までの残り7試合は難しい時間を過ごすことになるかもしれない。そんなチーム状況下にコンテのお眼鏡にかなうヒーローの誕生に期待がかかる。