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かけくん

ぼくは、かけくん。





3歳。





布団が広い。





朝、

目覚めると
となりに寝ているはずのパパが
いない。





「パパ、どこにいるの?」

と叫ぶ。





すると、

隣の部屋であったり
トイレであったり
下からであったりするけれど、

「おうっ、かけ、起きた?今いく」

と声がきこえる。





ガサガサだったり、

カラカラのときもあるし、

タタタッと、階段を駈け上がる音がすることもある。





すぐにきてくれたときは
ぼくはパッと手を伸ばし、

抱きかかえられる。





なかなかきてくれないときは、

ぼくはちょっと
不機嫌になってしまう。





「かけ、パパのこと大好きじゃない、あっちいって」

といってしまう。





パパに

「あ、かけくん、プップ(車)で一緒に遊ぼ」

とか

「きのう、おもしろいテレビ録画したよ」

だったり

「内緒でお菓子ちょっと食べる?」

なんて
言われているうちに、

いつの間にか
ぼくは
ニコニコになってしまう。





パパとママはお仕事に行って
ぼくは保育園。





弟は自転車の前、

ぼくは後ろにのる。





ママに
〝バイバイタッチ〟
して、

ガタガタの道を通って
保育園にむかう。





パパがゴミ収集車の歌をうたい出す。





「ゴ〜ミ〜しゅーしゅーしゃ、みんなのおっともっだち〜」

ぼくも一緒にうたう。





















あるとき、

ぼくはお熱になってしまった。





パパとママが
「お熱、ぜんぜん下がらないね」
と言う。





病院にいった。





その後、

もっと大きな病院にいった。





病院の自動販売機に
りんごジュースがある。





ぼくが
「かって」
といったら、

パパが
「いいよ」
と言った。





パパがポシェットから、

もたもたと財布を取り出し、

やっとボタンをおして
ジュースが出てきたところで、

「かけくん」

白い服を着た人に
呼ばれてしまった。





パパと
白い服を着た人が
お話をしている。





いきなり
白い服を着た人に、

ぼくは奥に連れていかれた。





「パパ、どこにいるの?」





叫んだ。





…。





お返事は、ない。





「パパ、きて」





…。





…。





きてくれない。





…。





手と足に注射をされる。





お腹にシールを貼られる。





手をつかえないように、

包帯でクルクルまかれる。





柵に囲まれたベッドに、

運ばれる。





もう
何がなんだか
わからない…。





















気づくと、横にパパが立っている。





ぼくに話しかけるけれど、

何を言っているのか
よくわからない。





「抱っこして」





抱っこしてくれた。





ぼくはギュッとだきついた。





















毎日、

パパかママがあいにくる。





プップのおもちゃを
持ってきてくれる。





プップのおもちゃで
一緒に遊ぶ。





たいへんなお風邪が
はやってるみたいで、

すこしすると
行ってしまう。





「いっちゃダメ」
と言っても、

行ってしまう。





そんなとき
ママはいつも泣いている。





















早い時間に
パパが来た。





空っぽの
大きなバッグをもっている。





「かけ、おもちゃしまって。お家に帰るよ」
と言った。





荷物をつめこんでいる。





「かけくん、がんばったね。お家に帰れるよ」と、先生が言った。





首に、
折り紙でつくったメダルをかけてくれた。





手をつないで歩いていると、パパがポシェットからりんごジュースを取りだした。





「はい、これ」

「ありがとう」

ぼくは両腕でかかえて
家までもって帰った。





検査で病院にくるたび
りんごジュースを買ってもらう。





ぼくはニコニコ笑顔になる。





















何年か経って
ぼくは小学生になった。





先生は
「うん、もうだいじょうぶ。お外でいっぱい遊んで、好き嫌いしないで何でも食べて、夜はたくさん寝ること。それが大事だよ」
と言った。

もしサポートしてくださるようなことがありましたら、近所の自販機にある大容量コーラを子どもに買ってあげたいとおもいます