いぬのふぐりに引き寄せられて
新学期が始まった。娘たちはそれぞれの新しい学校で緊張した日々を過ごしているようだが、何にいちばんドキドキするかと言えば、学校や勉強がどうのこうのというより、「友達作り」に神経を尖らせているようだ。
2人揃って「入学直後に仲良くなった友達は親友にはならない説」を唱える。「みんな最初は自分を見せないからね~」と警戒。これには私も一票。島育ちの私は、よちよちから高校卒業までほぼ同じ仲間と過ごしたので、初めて友達作りを経験したのは大学に入学した時だった。最初に仲良くなった二人の名前は完全に忘却している。
子どもたちが飛び出すように学校へ出掛けると、家の中の音が消える。やれやれと犬を連れていつもの公園へ。散歩の時間も自然と長くなる。
今年も桜は春霞の空にほの白く咲き乱れ、そして可憐に儚く散っていった。薄ピンク色に染まった地面から飛び出す萌黄色の草は新たな始まりを告げる。犬はひとしきり草の匂いを嗅ぐと、鼻は次のターゲットを捉えながらその場で片足を上げて放尿。おしっこがかかった葉は、やさしい春の日差しにキラキラと反射する。
ついこの間までカサカサに乾いた黄土色のイチョウの落ち葉を踏みつけながら歩いていたのに、今はポケットから落としてしまったマーブルチョコのように、小さな色とりどりの花々があちこちに散りばめられている。白、黄色、ピンク、紫、青。犬も一つひとつ丁寧に鼻を近づける。
春の花の色が鮮やかなのは虫たちに自分をアピールしているからだとか。虫たちは、色や匂い、蜜が吸い易い構造であるかなどの観点から己に適した花を選ぶ。赤を識別できないミツバチは、いちばんよく見える黄色い花に集まる。赤が識別できるアゲハチョウは赤い花に集まる。虫たちは花蜜と花粉を花からもらう代わりに花粉の媒介をして植物の再生産を助ける。こうやって互いによい影響を与え合うwin-winな関係が生まれるという自然界の仕組みだ。
娘たちが学校から帰ってきたら教えてあげよう。心配しなくていい。自分らしくしていれば自ずと気の合う友達が近寄ってきてくれるのだ、と。
ちなみに私は黄色や赤よりも、青い花に目が留まる。特に星屑を散りばめたような小さな青いオオイヌノフグリが好きだ。名前の中の「イヌ」はさては「犬」のことだろうか、とさっそく家に帰って調べてみた。オオイヌノフグリは漢字で「大犬の陰嚢(ふぐり)」と書くそうだ。それが私を引き寄せたと思いたくはないが。(1000字)
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