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インタビュー:“空気”も写すフォトグラファー、YUKI TSUNESUMIの“静かな写真”の裏側

静かな写真を撮るなあというのが第一印象でした。深呼吸する時間をくれるような。
よく言われるそうです。「空気も撮ってる」と。たしかにそんな雰囲気。
彼は今年、YUKI TSUNESUMIとして独立を決めました。フォトグラファーとして本格的に動き出した彼の、独立までの経緯や、写真撮影に取り組む姿勢など。
なぜ、彼の写真は静かなのでしょうか? その裏側を聴きました。


2020年にフォトグラファーとして独立

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常住さんは大学卒業後、吹きガラス職人になった後に、ジュエリー・ブランド「SIRI SIRI」に入社。社内でも、また社外で副業としても写真を撮るようにもなります。そこから独学だった撮影技術をおさらいしようと、2019年からは撮影スタジオでアシスタントに。2020年に独立を決めました。

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本人は「節々で、いろいろ考えが変わる。甘いですよね」と笑います。
ですが、紐解けば、そこに一本、筋が見えてきます。

ガラスのジュエリー・ブランドを追って

そもそものスタートから話を聴いてみました。

昔から、ブランディングというか世界観というか、ビジュアルを作るのが好きなんです。
大学ではデザインを学び、卒業制作でもブランディング――自分のジュエリー・ブランドを作って、それをビジュアルで見せました。

具体的には、アイテムを作り、そのロゴや商品写真、コピーなどをトータルでプロデュースするといったもの。
ジュエリー・ブランドを作る、という気持ちは卒業後も続きます。
吹きガラス職人だった時期にガラスを素材にしたブランドを作りたいと考え、それを学べると考えた会社に転職しました。

毎晩、残業時間で大量の撮影……でも楽しい

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会社はベンチャー的な社風もあり、任されることは一つに留まりませんでした。
ある日、常住さんは、ECサイト用のアイテム写真の撮影を任されます。

社会人になって、自分の作品を撮ったりするために、ニコンの一眼レフを買って。結局、iPhoneで撮ってばかりでしたけれどね。そうやって撮った写真をまとめた作品集を、面接で見せていたんです。それで「上手そうだから撮ってよ」と。

100に上るかという点数で、しかもガラスや金属など素材感にクセのあるものばかり。

ガラスなら映り込みをなくして、エッジがちゃんと出るようにとか。他にも、チェーンを、綺麗な輪にして撮るのって難しいんですよ。ちょっとでも歪むとすぐ分かります。

撮り方を教えてくれる人はいない。インターネットで調べながら、手探りで毎晩撮影。
段ボールに白い紙を貼って、いわゆる白ホリを作るなど四苦八苦。照明も一般的なデスクライトだったそうです。

一日にいくらも進みませんでした。でも、そこのブランドが好きで、「こういう世界観を見せたい」という思いがありました。だから、撮影は楽しかった。

“世界観”を作ろうという一貫性

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こうして経緯を聞くと、常住さんは“世界観”を作ろうという姿勢が一貫しているなと思いました。
卒業制作でのブランディング、ジュエリー・ブランドが持つ世界観。どちらも、“その物”だけでなく、取り巻くものも表そうとしてきました。

きっと、写真自体もそうなんだろうなと。
写真と言うと、「モノを撮る」「ヒトを撮る」というように、対象は何かということにとらわれがち。
ですが、常住さんはその周りを含めて撮影しようとする。それが、“空気”も撮ってると言われる写真につながるのかもしれません。

自然光、無作為、日本

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その場の雰囲気を大事にして撮りたい。例えばストロボを使って、光を作ると安定して撮れます。仕事としては良いのですが、それでも、自然光のほうが好きなんですよね。

自然なものに惹かれる理由はあるのでしょうか。

祖母が生け花の先生だったこともあり、小さい頃から触れることが多かった。大学生の頃は、お花とお茶もやってましたし、好きでした。
日本的な考えでは、自然はコントロールするものでなくて、寄り添っていくもの。そういう考え方が良いなと思っています。だから、光も作為的じゃない方が良いと思っていて。

日本的なものへの関心は他にもあり、先に挙げた卒業制作も、コンセプトには禅の思想を取り入れたそうです。たとえば「色即是空」などの禅に関連する用語からインスピレーションを受けて制作しました。

“静かな写真”の裏側

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最後に、常住さんに、自分の写真の印象を聞いてみました。

暗い(笑)。なんか陰気臭い。それを目指してるっていうのもあるんですけど。違う感じで撮りたいと思っても、こうなっちゃう。

もちろん「暗い」というのは、一つの物言い。
昼よりも夜のほうが暗い、けれど明るくないとは言えないのではないでしょうか。夜に自分と向き合うことで発見があったりもするし、と私は思います。

内省というか、自分の中に潜るようなものがたぶん好き。アートなら、リーウーハンやハマスホイなど。落ち着いた感じで見れるのが好きなんだと思います。
作品を見てるときの感覚は、お茶やお花をやっている感覚と似ている。
写真を撮っているときも、同じような感覚がありますね。

自分の中に潜り、写真を撮る。できるだけそこにあるものを大事にしながら。
その、ある種の奥ゆかしさのうえで、“静かな写真”が出来上がっています。

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(インタビュー:2020年11月)
(写真はすべてYUKI TSUNESUMI提供)

YUKI TSUNESUMI
https://www.yuki-tsunesumi.com


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