台風1号のあとさき、地球の未来。

イーウィニャという台風1号の名前は、どこかアーニャ（『SPY×FAMILY』に登場する女の子）みたいな名前だなとほころんでいたが、それどころではなかった。暴風が吹き荒れ、ばらばらと強い雨が屋根を叩く。28日の夜は凄まじい嵐だった。

台風に可愛い名前を付けるべきではないと思う。といってもミクロネシアの言葉でイーウィニャは「嵐の神」という意味らしい。あなどっていたのは自分だけだったのか。フィリピンでは、洪水や倒木により大きな被害があったようだ。痛ましかった。

ちなみに台風の名前は、各国の提案から「台風委員会」が決定するとのこと。台風委員会。なんだか気になる。世界気象機関（WMO）とアジア太平洋経済社会委員会（ESCAP）が共同で設立した委員会らしいが、命名までの議論を中継してほしい。

ちなみに日本が提出した台風の名前の候補は星座にちなんでいて、コイヌ、ヤギ、ウサギ、カジキ、コト、クジラ、コグマ、コンパス、トカゲ、ヤマネコだったそうだ。

日本語による台風名の候補は、おとなしそうな動物が多い。言霊を信じる国だから、あえて勇猛な名前を回避したのだろうか。ちょっと自分でも考えてみようと、テング、オロチ、タツノコ、ツムジのようなネーミングを書き出したが、これでは被害が拡大したときに困りそうだ。いろいろ炎上するかもしれない。名前付けは難しい。

東京では29日の深夜1時ごろから風と雨が静まり、29日には夏のような青空が拡がった。上空の風が強いせいか、すじ雲のような細長い雲が見えた。最高気温は25度ぐらいにも関わらず、蒸し暑さと低気圧のせいか身体が重い。

ようやくイーウィニャが温帯低気圧に変わった31日。今度はいきなり涼しくなった。「4月並みのヒンヤリ空気」だそうだ。長袖シャツを着るぐらいがちょうどいい。半袖シャツでは肌寒い。

なぜ涼しくなるのだろう？と思って調べたら、北半球では左回りの台風が日本列島に沿って北上すると、回転によってロシアからの冷たい風を運んでくるからだそうだ。なるほど。台風は大きな扇風機のような機能を果たしていたのですね。

この巨大扇風機を猛暑のために使えないのか？と考えたのだけれど、部屋全体が暑くなったときのことを想像して、ムリそうだなと諦めた。室内の気温が高くなると、扇風機は暑い風をかき回すだけで、ちっとも涼しくならない。地球全体も同じだろう。だいたい被害を及ぼすような扇風機は要らない。であれば、地球用の冷房機はできないものか。室外機はどこに？

ところで、俳句では台風は秋の季語である。枕草子には「野分（のわき）」として「野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。」とある。しかし、年間を通して台風が発生する現在、あはれとかをかしとか、悠長なことは言っていられない。

悠長なことを言っていられないにも関わらず、人間は、よくも悪くも変化に慣れる。真夏日の猛暑や暴風雨が珍しくなった21世紀、異常気象はもはやデフォルトだ。台風がしょっちゅう発生するのであれば、その変化に適応していくしかない。適応できなければ自然に淘汰される。

ドラッグストアには、いまから猛暑対策のアイテムが目白押しになっている。地球温暖化のピンチさえ、チャンスと考える。ビジネスは、したたかである。それが人類の強さともいえる。

頻繁に台風が巻き起こるようであれば、きっと工夫を凝らした台風対策グッズが出てくる。大雨のときにはびよーんと伸びて長靴になるビジネスシューズとか、完全防水型のフード付きスーツとか。

長袖にしようか半袖にしようか今日の服装に困惑し、当たりの多くなった天気予報を調べて対策を練っているけれど、漠然とした不安がある。なんとか異常気象の進行を食い止められないのかと考える。しかし、いずれ「こういうものだ」と、おかしさな天気に鈍感になり、諦めてしまうだろう。猛暑や台風の対策に向けた商品は定番化し、コモディティ（日用品）になる。

ヒートアップし、強風と豪雨、昼夜の激しい寒暖差が当たり前になった惑星に生まれた子どもは、それが当たり前の日常を生きていく。地上の生活は最適化され、新しい技術やビジネスによってトランスフォーメーションが進んでいく。

やがて数百年後、未来人たちは2024年の古代人をうらやましがったり懐かしんだりするのだろうか。

そんな未来人のために2024年の現状を書き留めておくのだが、4月のような気温の5月、7月のような暑さの5月を過ぎて、6月がスタートした。8月のような6月になるのか、5月に逆戻りするのか。失われていく季節感に戸惑いを感じている。きっとこの戸惑いも忘れてしまう。

「台風は秋の季語です」が通用しない時代になるかもしれない。未来人のみなさんとしては「そもそも季節って何？」かもしれないし、あるいは「その問題は遠い昔に解決済みだ」なのかもしれないけれど。

2024.06.01 Bw