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お酒を飲むなら、飲まぬなら。

唐突だけれど(まあ、だいたい文章のはじめは唐突なものですよね)TOKIOというグループが好きだった。

いま旧ジャニーズのみなさんを語ろうとすると、どうしてもトーンダウンせざるを得ない。しかしTOKIOは純粋にかっこよかった。メンバー個々の存在感があった。現在のメンバーは城島茂さん、国分太一さん、松岡昌宏さんの3人らしい。

バラエティ番組『鉄腕DASH』も面白い。長らくテレビを観ない生活をしているので最近のことは分からないが、ひたむきに努力する姿に打たれた。アイドルにも関わらず重機の免許を取得するなど、ごりごりの挑戦をするテーマに感銘を受けた。

メンバーに関していえば、残念なことに脱退してしまったが、長瀬智也さんは歌がうまい。歌だけでなく彼の出演するドラマがいい。石田衣良さんの原作による『池袋ウエストゲートパーク』、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』、『泣くな、はらちゃん』あたりは全部観た。ほとんどドラマを観ない自分としては例外的なハマり具合である。

しかし個人的な話をするならば、TOKIOのひそかな推しは、ベースを弾いていた元メンバーの山口達也さんだ。

不祥事が重なり表舞台から姿を消してしまったのだけれど、穏やかな顔つきのいいひとだった。彼の寡黙な佇まいにベース弾きの理想形を見た。というのは、自分もバンドでベースを担当していたことがあるからです。思い込みに過ぎないけれど、共感がはなはだしく、応援したくてたまらない。

自分目線で語るので偏見が混じるかもしれないと断りつつ、私見を述べる。ベーシストはバンドにおいて、みずからの存在感について悩みがちなポジションではないだろうか?

低音とリズムを支える大切なパートでありながら、ひとりで練習していてもちっとも面白くないし、どこか影というか黒子(ほくろではないです。クロコです)というか、裏方でバンドを支える存在である。ひょっとすると誰も注目していないにも関わらず「はたして自分はこれでよいのだろうか?ダメかもしれない」という得体の知れない不安と自責の念が強い。自分だけ?

ぺしぺしチョッパー(というのは国際的に通用しない言葉のようです。弦を親指で叩いたり、ほかの指で引っ張って音を出すスラップ奏法)を弾いたとしても、なぜか浮かばれない。自己肯定感が低い。

スラップはできるけどJAZZのウォーキングベースはできない、ピックで弾いているけど指で弾くようなグルーヴが出せないなど、どういうわけかベーシストは「できることより、できないことを考えがち」な傾向がある。性格によるのだろうか。いかがなものでしょう? ベーシストのみなさん。

ちなみに、変態が多いのもベーシストにありがちな傾向のひとつだ。『ぼっち・ざ・ろっく』に登場するふたりのベーシストも変わっていた。山田リョウは無口でとっつきにくく会話がズレていて雑草を食べるし、廣井きくりは鬼ごろしを常に手放せない大酒飲みだ。大酒飲み、ここがポイントです。

山口達也さんは不祥事後に、アルコール依存症をカミングアウトされている。5月1日のニュースで知ったが、現在はその名も株式会社山口達也を設立して、アルコール依存症に悩む方々のために、講演などの地道な活動をされているようだ。

まず、報道されていた記事を読んで、次の言葉に泣いた。

山口さんは、仕事は充実していたものの自己肯定感が低く、他人と比べて「自分はできていない」と思うことがストレスとなり、飲酒を繰り返したという。

【独自】元TOKIO 山口達也さん「“島開拓”時にアルコール依存症」「全ての始まりは不安」治療と向き合う日々を講演で語る

わかる。わかるよ。きっとベーシストだからだよね(違う)。

株式会社山口達也とはどのような会社だろうと気になってサイトを検索してアクセスすると、トップページで実のお兄さんが彼に応援コメントを寄せていた。その優しい言葉を読んでまた泣いた。

私は、兄として弟が「一生アルコールを口にしない」という言葉を信じたいと思います
弟は、依存症当事者はもちろんですが、特に依存症者の周りで苦しんでいる方々の助けになれるよう
講演活動などを中心にやっていきたいと話しております

株式会社山口達也トップページ

芸能人が不祥事を起こすと、神様でもないのに上から目線で裁いて、一生葬りさろうとするのがマスコミ、そしてお茶の間の善良なみなさんだ。

まるでモグラたたきのように、ぴょこっと出てきたら叩こうとする。しかし、もう少し再起を認めてあげてもいいのではないか。過去はなかったことにはできないが、再起を認めることはできる。未来をあたたかく見守ってあげてもいいんじゃないだろうか。個人的に山口達也さんを応援している。いつかベースも弾いてほしい。

ちなみに自分もお酒を飲む方だが、医師から「アルコール依存症では。お酒をやめたら?」と言われ、血圧も高かったことから禁酒をしたことがあった。不思議なことに、そして幸いなことに苦しむこともなく、ぱたっとやめることができた。それから2年ほど飲まなかったのだが、最近またお酒を飲み始めている。

ところが、どういうわけか以前に比べて酒がうまいと思わなくなった。安いウイスキーばかり、サイダーで割ってハイボールにして飲んでいるせいかもしれない。すぐに頭が痛くなる。年を取ってアルコールを分解する能力が弱まってしまったのだろうか。あり得る。やれやれ。年は取りたくない。

安い酒というのは、ずばりトリスやブラックニッカクリアなのだけれど、ニッカと自分は相性が悪いらしく、飲んだ途端に胸が苦しくなって困った。検索すると「ニッカやばい」という情報がみつかった。このまま人体実験を続けて、いろんな酒を試すのも面白そうだ。そう考える一方で「酒はもういいや」と諦める気持ちがある。

だいたいサイダーで割ってひとりで飲んでいると、ジュースみたいに一気飲みしてしまう。誰かと競うわけでもないのに、はいっ次!と言って、グラスを床に叩きつけておかわりをするような勢いだ。

80年代の学生じゃないんだから、そういう無謀な飲み方は卒業したい。グラスに高級な酒を注いで、まあるい氷をくるくる回して、からからんと音を立てながら鼻孔と舌で味わう。そんな大人の酒の嗜みに憧れる。

そこで考えた。山口達也さんを見習って断酒しよう。

「一生アルコールを口にしない」と宣言をした山口達也さんの顔は、とてもすがすがしい。今日から禁酒だ。でも、天気のいい休日の昼間から飲むビールは最高に美味しいですね。秒速で挫けた。

酒について考えていて思い出した映画は、マッツ・ミケルセン主演の『アナザーラウンド』である。

人生の行き詰まりを感じている高校の先生たちが、酒に活路を見出す。血中アルコール濃度を適切に保つと人生はうまくいくという仮説のもとに、酒を飲んで授業を行う実験に取り組むヤバい映画だ。

当然のことながら教育問題が深刻化している現在、酒を飲みながらの授業はもってのほかであり、ぜったいにいけません。そんな心配をするまでもなく『アナザーラウンド』で酩酊状態に歯止めがつかなくなった結末を観ると、酒をやめたくなるのではないだろうか。映画のなかで彼らは、それでも酒を飲むのだけれど。

最後に付け加えておくと、お酒だけでなくあらゆるものに依存症がある。アルコール依存症に苦しむひとたちにとって、お酒はもはやお酒ではない気がしている。それはたとえば、重度のうつ病が「今日は何だか起きられないんだよね」という気分の問題ではないように。

その苦しみを想像しつつ、だからといって、お酒を飲むひとは気兼ねをせずにお酒を楽しむことが大切ではないか。うまく言えないが、全方位的に気遣いをしていると疲れてしまう。それが優しさではない。

酒は飲んでも飲まれるな。飲むのであれば美味しくいただきましょう。
ということで、乾杯。そしてお酒に、完敗。

2024.05.03 Bw


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