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変わらない音楽への憧憬。

レイヴェイ(Laufey)というJAZZのシンガーソングライターがいる。最近注目を集めている。はじめて彼女の歌を聴いたのはJ-WAVEのラジオだった。

そのとき流れてきたレイヴェイの歌声と音楽が、目の前の風景を変えてしまった。どのように変えたかといえば、中世のお城が浮かび上がってくるイメージだ。セピア色の城壁の前で月のあかりを浴びて、長いドレスを着たお姫さまが歌っている。音楽にAR(拡張現実)があるとすれば、こういう感覚かもしれないと思った。

バイオグラフィーを探すと、彼女はアイスランド人の父親と中国人の母親のもとに生まれたようだ。母親はアイスランド交響楽団の首席ヴァイオリニストであり、幼少の頃から音楽に浸った生活を過ごし、才能を発揮してきたらしい。

ベストセラーになった『BEWITCHED』のアルバムが欲しいなと思いながら忘れかけていたのだけれど、サブスクリプションを探してみると、なんと聴けるようになっていた。シャッフルでしか聴けない仕様がもどかしかったが、横になって早速リスニング。

彼女の歌声によって心身の緊張がやわらいでいく。ゆったりとリラックスできるのを感じた。最近の積もり積もった疲労のせいか夢の中に誘われてしまい、気が付くと眠っていた。目が覚めると、ふらふらする眩暈と頭の痛みが嘘のように消えている。心地よい目覚め。すっきり。

これはいいなあと思いながらリストを調べると、過去のアルバムも聴けるではないですか。ほとんどCD三昧の日々を送っているため、デジタルの世界を見落としていた。サブスク凄いじゃん!と思いつつ『Everything I Know About Love』を聴いた。再び瞼が重くなり寝落ちしそうになった。癒され過ぎる。いくらでも聴ける。あるいは疲れ過ぎ。

何よりも素晴らしいのは、彼女の歌は完成されていて、最新アルバムとまったく同じ世界を醸し出していることだった。音楽にぶれがない。過去のものはギターがメインになっている気がするが、最新アルバムとシャッフルしても、ほとんど違和感がないだろう。何よりも歌声に圧倒的な存在感がある。伸びやかな低音のヴォイスから、艶のある高音へと流れていくメロディが身体に沁みる。コーラスや弦楽器もいい。

レイヴェイには、このまま10年ぐらい変わらずに音楽を作り続けてほしいものだと考えながら思い出したのは、ジャック・ジョンソンである。

ジャンルは違うのだけれど、ジャック・ジョンソンはハワイ出身のシンガーソングライターだ。サーフミュージックを作り続けている。プロのサーファーでもある。

彼もマイ・フェイバリット・アーティストのひとりであり、どのアルバムを聴いてもまったく同じ印象なのだ。ドラムの音が大きいとか、ギターではなくてウクレレを使っているとか、細かな違いはある。違いはあっても、あまり気にならない。8枚の主要なアルバムのうち7枚まで持っていて、全部通しで聴いても飽きない。いくらでも聴いていられる。海から吹いてくる風のような空気に浸れる。めっちゃ癒される。

ジャック・ジョンソンの新作アルバムに新しさがなかったことから、手抜きやマンネリだとして「進歩のないアーティストはダメだ」という一般消費者による批判を読んだことがある。しかし、アーティストは進歩しなければならないのだろうか。むしろ「えっ。そのぜんぜん変わらないところ、がつがつ進歩や成長をしないところがいいじゃん!」と思った。

古典的なバンドでは、ビートルズは新たな音楽の開拓に挑戦して変貌を遂げてきた。そういうアーティストがあっていい。ただ、売らんがために次々とスタイルを変えるミュージシャンは、創造的というよりも軸足が安定していない気がする。変わればいいってものじゃないでしょう。

ビッグネームにも関わらず、愚直なぐらいに自分の世界を守り続けるジャック・ジョンソンは逆に凄くないですか。なかなかできることではない。

だいたい人生や人間関係もそういうものだ。手を変え、品を変え、目新しいことばかりを追いかけ、注目を集めることだけに躍起になる人間より、コツコツ自分の道を信じて努力を続ける人間のほうが信頼できる。

若い頃には奇抜な変化を求める考え方を持っていたが、年を取るにつれて経験を積み重ねる生き方の尊さが分かるようになった。地道な努力家が急に方向を訂正するようなことがあっても、築き上げた信頼は変わらない。

あらためてレイヴェイが1999年生まれの24歳であることを知った。20代とは思えない成熟した大人の音楽であり、これから楽しみである。10年後の未来にも、古城のお姫さまのような曲を歌い続けていてほしい。

2024.01.24 BW


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