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フラム分析Ⅱ

〜パーカー監督プレミアリーグ月間最優秀監督ノミネート記念〜

直近7試合で3勝3分1敗。勝ち点12を獲得し、降格圏脱出まであと少しと迫ったフラム。好調の要因は、パーカー監督の決断にある。その決断とは、ゲームモデルの変更だ。ウェストハム戦以降は1月までのフラムとは全く異なる試合運びをしている。どのようなモデルで試合に臨んでいるのか、書き記しておきたい。

新しいゲームモデル

・攻守ともにボールに対してアグレッシブにプレーし、試合の主導権を握る。

攻撃…ボールを保持してポジショナルな攻撃を展開する。

守備…4-4-2で構えてミドルプレスで前進を許さない。

攻→守…ハイプレスをかけて時間とスペースを奪い、無理なパスを蹴らせてボールを回収する。

守→攻…カウンターを狙う。縦を防がれたらポゼッションを確立して攻撃のフェーズへ移行。

システム変更

ゲームモデルの変更に伴い、システムも変更された。攻撃時3-2-5は変化はないが、守備時は5-3-2から4-4-2へと変更された。理由は幾つかあると思う。5-3-2⇄4-4-2の可変を行なっていなかったため守備時に相手を引き込む形になってしまっていたこと、中盤のサイドにポジションをとる相手を誰が見るのかが曖昧になってしまっていたこと、引いて守る守備が選手に合わなかったこと、などが主な理由ではないだろうか。4-4-2で守備をすれば、両サイドハーフを置くために相手のサイドの選手に対しても高い位置からプレスをかけられる。相手のウイングは SBが、その後ろに位置する選手は SHがマークをすればよく、マークが曖昧になりにくい。高い位置からプレスをかけることで引いて守るシーンを減らすこともできる。4-4-2は前半戦フラムが抱えていた課題を解決しうるシステムだと言える。

選手起用の変化

システム変更に伴って、選手の起用法にも変化が見られる。

GKにはアレオラ。そのセーブで幾度となくチームを救ってきた、絶対的守護神である。

4バックの人選については、アンデルセン、アダラビオヨ、オラ・アイナは不動。ここにテテとロビンソンが併用されている。テテは右SB、ロビンソンは左SBでの起用となるため、彼らが起用された逆のSBにオラ・アイナが入ることになる。オラ・アイナの対応力には驚くばかりだ。

中盤センターでは、ハリソン・リードが不動。彼のパートナーにレミナとアンギッサを併用しているが、序列はレミナの方が上だろう。先発起用が増えているし、安定した守備とミスの少ないパスワークで若いチームに安定感をもたらしてくれる。その上、最近の試合ではドリブルによる持ち運びや前線への飛び出しなど、チャンスメイクにも一役買っており替えの効かない選手になりつつある。

両サイドと2トップには、マッジャ、ロフタスチーク、デコードバ・リード、ルックマン、カバレロが様々な組み合わせで起用されている。マッジャはFW固定だが、その他の4人はサイドでの起用もされている。ロフタスチークは強靭なフィジカルとテクニックを駆使したキープで時間を作れる選手だが、スピードの面では他の選手に劣る。対戦相手に応じて使い分けているのだろう。さらにミトロビッチがスーパーサブとしてベンチに控えている。

個性豊かな選手が揃っており、選手起用についてもパーカー監督は頭を悩ませているはずだ。

以下ではおそらくは現段階でのベストメンバーと思われるトッテナム戦のスターターをベースに記事を書いていくことにする。

vsトッテナム

アレオラ

オラ・アイナ、アンデルセン、アダラビオヨ、ロビンソン

カバレロ、レミナ、ハリソン・リード、ロフタスチーク

マッジャ、ルックマン

(4-4-2)

攻撃フェーズ

攻撃フェーズについては大きな変更点はない。アンデルセン、アダラビオヨ、オラ・アイナの3人で3バックを形成、さらにハリソン・リードがアンカーポジションに入って後方の数的優位を確保してポゼッションを確立する。必要があればレミナもサポートに入る。

左SBのロビンソンはポジションを上げて5レーンのうち左アウトサイドレーンを埋める。右サイドレーンはカバレロが埋め、中央レーンと左右ハーフスペースをマッジャ、ロフタスチーク、ルックマンが埋める。

基本的には後方の数的優位を活用してフリーになった選手が縦パスやドリブルでボールを運ぶ。5レーンを埋めて数的優位と位置的優位をとっている前線にボールを渡してポジショナルな攻撃を仕掛けるというのが基本的なプランとなる。また、アンデルセンの右足という飛び道具も持っており、ビルドアップが手詰まりになってしまっても、ロングボールで局面を打開することができる。特に3バック化した後、右CBの位置から対角に放つサイドチェンジは極上で、左アウトサイド高い位置から1対1を仕掛ける場面を演出してしまう。

カバレロ、ロビンソンは主に両サイドからドリブルで縦に突破してクロスを狙う。ルックマンはスピードと小回りの効くドリブルでの仕掛けでシュートを狙う。マッジャは主に中央で待ち構え、ロフタスチークはやや低い位置でボールを引き出してチャンスメイクに関わることが多い。また、裏を狙う意識も高まっており、サイド深い位置をとってクロスを折り返すシーンも増えてきている。最近の試合では、このポジショナルな攻撃にレミナが飛び込んできて攻撃の厚みと意外性をもたらしている。

最後のパスがズレたり、無理なシュートに行ってフリーの選手を使えなかったりするシーンは散見されるが、得点の可能性は試合を追うごとに高まってきていると感じる。

なお、レミナは飛び出しのチャンスを窺いながら、こぼれ球やプレスの準備のためのポジションを取っている。ハリソン・リードとボールサイドのCBもこぼれ球やプレスに行けるように予防的なポジショニングを意識している。

守備フェーズ

大きな変更があったのは守備フェーズだ。4-4-2を採用して、ミドルプレスをベースに中盤からプレスをかけて前進を許さない守備を行うようになった。

2トップはアンカーポジションをとる選手へのパスコースを消しながら相手CBへプレスをかける。中盤の守備ラインも細かくスライド、ポジション修正をしてCBから中へのパスラインを警戒する。中央へのパスコースを切りながらプレスをかけることでボールをサイドへ誘導する。ボールがサイドに出たら、同サイドの SHがプレスをかける。基本的には縦へのパスコース(SB→ SH)を切りながらプレスをかけ、中央へのパスはCHが狙う。さらに相手SHには同サイドのSBが前に出てマークにつき、縦へのパスが出たら強く当たって前を向かせない守備を行う。この守備でサイドを封鎖して奪い切るのが第一のプラン。

サイド封鎖で前進を阻まれた相手がバックパスを選択したら、そのバックパスをトリガーにハイプレスを仕掛ける。2トップはアンカーポジションへのパスコースを切りながらバックパスを受け取るCBへプレスをかける。狙いは時間とスペースを奪って認知→判断の正確性を落とすこと。チーム全体を押し上げ、ボールから近い選手をマンマーク気味に捕まえてパスコースを限定。苦し紛れのパスは読み切ってカットする。バックパスを受け取ったCBが横パスでもう1人のCBに逃げてもマンマークでプレスをかけ続ける。どのパスターゲットにもフラムの選手がマークについているので、逃げ場はない。無理なパスにはマークについている選手が強くあたってパスカットを狙う。ロングボールを選択させれば、高さ、強さを兼ね備えたCB陣が跳ね返してボールを回収する。

相手がボールをGKまで下げた時は、GKまでプレスをかけることはしないが、ショートパスのターゲットになる選手にパスが出たらプレスをかけられる距離までは詰めてプレッシャーをかける。ロングボールを蹴られても、フラムのCB陣は競り合いでは負けないという計算があるのだろう。高い守備ラインを維持してハイプレスを継続する。時間帯や点差によっては、GKまで下げられたらセンターサークルの先端に2トップが位置する程度まで4-4-2の陣形を下げて、上記のミドルプレスで待ち構えることもある。

押し込まれた時には中盤の守備ラインが下がりすぎる傾向はある。しかし、ディアゴナーレのポジショニングや危険なスペースを早めに埋めるなどの危機管理もできるようになってきており、守備の強度も上がってきている。

ネガティブトランジション

ボールを保持して相手を押し込んだ攻撃ができていれば、5レーンを埋めるポジショニングに加え、レミナが前線への飛び出しを伺う位置におり、同サイドのCBも高い位置をとっている。ボールを奪われたとしても、その周りにはフラムの選手がボールに近い位置でポジションを取っている。ボールに近い選手が素早くプレスをかけて即時奪回を狙う。

このハイプレスを掻い潜られたらピンチになってしまうが、ボールより後ろにいる選手がボール保持者にプレスに行きながら時間を稼ぎ、味方の戻りを待つ。場合によっては戦術的ファールで止めることもある。

ボールを奪われた位置がセンターライン付近から後ろだった場合は、守備ブロックを構築を優先する。ボール近くの選手がボールの前進を阻むポジショニングからプレスをかけて時間を稼ぐ。その間に味方が戻って4-4-2の守備ブロックを組んで守備フェーズへ移行。ミドルプレスをかける、もしくはゴール前にバスを止めてゴールを守る。

ポジティブトランジション

ハイプレスがうまくハマって高い位置でボールを奪った時は、ショートカウンターを狙う。縦にボールを送り込み、前線の選手が駆け上がる。ただし、無理はせずボールを繋いでボールを保持して攻撃フェーズへの移行を狙うことも多い。

ボールを奪った位置が低い場合は、相手の守備陣形の状況によって対応が変化する。相手を引き込んで低い位置でボールを奪った時など相手守備陣形が整っていないケースはロングカウンターを狙う。この場合はルックマンやカバレロが単独でドリブルで駆け上がるパターンや、数本のパスでハイプレスを外して裏へロングパスというパターンがある。

一方、ロングボールを回収した時など、相手の守備陣形が整っているケースは、ポゼッションの確率を優先する。後方の選手で3-2のポジションを取り、ロフタスチークやサイドの選手も下がってきてポゼッションの確立に努める。相手がハイプレスを諦めて引いたら、攻撃のフェーズへ移行する。

まとめ

パーカー監督は自分たちのボール保持に自信をのぞかせている。4-4-2を採用してミドルプレスをベースに守備フェーズを見直したことでより高い位置でボールを押し留めることが可能になった。つまり、ハイラインを敷くことが可能になり、試合を通して相手を押し込むことができるようになった。4局面全てでボールに対してアグレッシブに関わって主導権を握るという、およそ降格圏を彷徨うチームとは思えないゲームモデルをピッチで表現している。

パーカー監督が2月期の月間最優秀監督にノミネートされたことも当然と言っていいと思う。次節、マンチェスターシティ戦が楽しみだ。

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