UCL 準決勝 1stレグ バイエルン vs レアル・マドリー 〜戦術家二人
UCL準決勝のバイエルンvsレアル・マドリーを見ました。ここ最近、ユベントスの試合を見ながら考えていたこととリンクすることも多かったので、感想を書き残しておきます。
守備から入ったマドリー
バイエルンは4-2-3-1、マドリーは4-4-2をベースに試合に入りました。開始早々、サネに決定機が来ますが、ルニンのビッグセーブが飛び出してスコアは動きません。その後はバイエルンがボールを保持し、マドリーが中盤から構えて守るという展開に。マドリーは4-4-2で守備ブロックを組んで、かつヴィニシウス、ベリンガム、ロドリゴという攻撃的な選手も守備ブロックの中の一枚として有機的に動いて守備をします。ボールホルダーへ1人が寄せ、その動きに合わせて守備ブロック全体が動いて形を変えていく。まるでアメーバのような動きでバイエルンの守備を受け止めていました。
バイエルンは4バックと2DHが後方に残る形でボールを保持。ボール保持が安定したらSBも高い位置へと移動して攻撃に厚みをもたらすという設計でした。ただ、ボール保持段階ではサネとムシアラがサイドに張って幅を取る役割を与えられていたため、中央を割る縦パスのターゲットがケインとミュラーに限定されていました。特にケインはリュディガーに密着マークされていたので、実質縦パスのターゲットはミュラーのみ。マドリーの中盤ラインも縦パスを警戒して門を閉めているので、中々縦パスを通すことはできず、バイエルンのビルドアップはサイドを経由する形が多くなりました。サイドチェンジのパスもほとんどなく、サイドを終着点としたビルドアップは時間がかかるし守備側にボールの動きも読まれやすくなります。マドリーの4-4-2ブロックは乱れることなく選手間の距離を保ってスライドして対応。それでもバイエルンはボールを運んだサイドのサイドバックが加勢して崩しにかかりますが、SBとCBの間にクロース、チュアメニが降りて守備ラインに穴を開けません。特にクロースの守備ラインに落ちてスペースを消す動きの滑らかさとタイミングは芸術の域に達していると思います。主に右サイドからウイングとキミッヒの連携でCBとSBの間を狙うバイエルンでしたが、クロースの巧みなポジショニングでスペースを消されてしまってあと一歩のところでマドリーの守備の網に絡め取られてしまっていました。
そうこうしているうちにいつものようにCBの脇に落ちたクロースのドリブルからキム・ミンジェを引きつけて裏に走り込んだヴィニシウスへスルーパスが通ってマドリーが先制。クロースが外から中へのドリブルをしていたため、左サイドへ展開する形も考えなければいけなかった場面。キミッヒは大外のロドリゴが気になって絞りきれなかったのでしょう。バイエルンはクロースに時間とスペースを与えすぎたと思います。あれだけフリーにさせるなら、守備ブロックはもう少し下げておくべきだったし、キム・ミンジェも守備ラインを維持する方を優先させるべきでした。
配置を変える 〜トゥヘル
1点のリードを許して後半を迎えたバイエルン。ホームで戦う1stレグで負けるわけにはいかないので、ゴレツカ→ゲレイロの交代カードを切って攻勢に出ます。この交代によってビルドアップ時に4バックとアンカーに入ったライマーの5人でボールを保持。前線の配置を整理して来ました。いわゆる5レーンを埋めて攻撃を仕掛ける4バック対策のテンプレです。ゲレイロがマドリーのライン間に我慢強くポジションをとったことによって試合が動きます。
ムシアラとサネという強力なウインガーがワイドに張り、ケインがリュディガーを引っ張ってゲレイロとミュラーがライン間で待ち構える。4バックではゲレイロとミュラーを捕まえきれず、ライン間へのパスが通り始めます。たまらずライン間を消すために中盤の守備ラインが下がったところをライマーがドリブルでピッチを横切ってクロースを引きつけてから右サイドへパス。フリーとなったサネがメンディとの1on1を制して一瞬の切り返しからカットインシュートを叩き込みました。さらに2分後、ライン間でボールを受けたミュラーがドリブルでレアル守備陣を中央に集めて左サイドのムシアラにパス。ムシアラのドリブルをバスケスがファウルで止めてしまってPK。
中盤の配置を変えることで5レーンを埋めてライン間と幅を有効に使った攻撃を仕掛けて瞬く間に逆転したバイエルン。ただ、アンチェロッティ監督も黙ってはいませんでした。
配置を変える 〜アンチェロッティ
マドリーはナチョ→カマビンガの交代カードを切り、チュアメニをCBに下げました。そして、ロドリゴを右ウイングに、ヴィニシウスを左ウイングに置いてベースフォーメーションを4-5-1へと変更してきました。ライン間を使わせないこと、サイドのウイングに簡単にボールを渡さないことを狙った変更です。5レーンを埋めて攻撃に来る相手への対策として5バックがありますが、1点負けていることもあり、重心を低くしたくなかったのでしょう。中盤を5枚に増やすことで門を狭くしてライン間を使わせない。さらにウイングへのパスコースにもヴィニシウスとロドリゴを立たせてムシアラとサネの仕掛けを抑制する。トゥヘルの采配に対して対応しつつ、マドリーのストロングポイントとなっているヴィニシウス、ロドリゴ、ベリンガムを高い位置に残す配置に変えてきました。
5トップ気味に攻めてくるバイエルンに対して、人につく5バックではなく、そもそもボールを通さない方向で対応しようとした応手。攻撃的な選手を減らすことなくバイエルンにカウンターの刃を突きつけたまま、トゥヘルの狙いを封じ込める。アンチェロッティの解答が攻撃の意欲を失わずにバイエルンの攻撃の狙いを潰すための守備的な対策という絶妙なバランスだったことに感動すら覚えました。最後はヴィニシウスを左ウイングに置いたことが奏功する形となり、ヴィニシウスのドリブルからロドリゴがPKゲット。アンチェロッティの応手からバイエルンの攻撃を再度受け止め、試合の流れを引き戻して同点ゴールが生まれました。
2ndレグに向けて
また、ロドリゴのPK獲得の際にSBのバスケスが右サイドからペナルティエリアに走り込んでいたことも見逃せません。現在のマドリーは全員のハードワークによって成り立っています。この時のバスケスはもちろんのこと、バルベルデは攻守にとんでもない範囲をカバーしていますし、ベリンガム、ヴィニシウス、ロドリゴの守備貢献は絶大です。あれだけの攻撃性能を誇っていながら躊躇なく自陣ペナルティエリア前まで下がって壁となっています。クロースによる守備ラインの補完がなければシティ、バイエルンにもっとやられていたでしょう。
クオリティの高い選手が必死に走ってハードワークするチームを相手に、アウェイの地でバイエルンはどう出てくるでしょうか。マドリーが引き気味に試合を進めたこともあり、ボールを保持してプレーすることはできました。ブンデスリーガではレバークーゼンに走られてしまったとはいえ、こちらも選手のクオリティでは負けていません。ノイアー、ミュラーとクラブの伝統を継承し、伝承して行くベテランもおり、中堅、若手も含めてスカッドのバランスも良い素晴らしいチームです。1stレグではバイエルンにとってもボールを保持して試合を進められていたので悪くない展開だったとは思います。しかし、一瞬の隙を突かれて2失点。少なくとも、ロドリゴのPKは防ぎたかったところでしょう。マドリーの厄介なところは全方位型のチームということです。ボールを保持することもできるし、引いて守ることもできる。トランジション合戦にも対応できる。弱点らしい弱点はありません。それでも、トゥヘルはマドリーの弱点や隙を見つけて突いてくるでしょう。マドリーは通常運転で試合に入ると思いますが、トゥヘルは何か手を打ってくる可能性が高いと思います。2ndレグは、バイエルンの試合の入り方に注目してみたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?