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ユベントスの守備に関する考察

21-22シーズンのユベントスの守備について。現代サッカーでは当たり前とされている猛烈なハイプレス、即時奪回、ストーミングと呼ばれるものには見向きもせず、淡々とポジションを取って相手が使えるスペースを消していくユベントス。アッレグリが何を考えて今季の守備を構築したのか、考えてみたいと思います。

ユベントスの守備の特徴

今季のユベントスは、4-4-2か4-3-3をベースに戦うことが多かった。ただし、4-3-3で戦うときも右ウイングに入ることが多かったクアドラードが中盤に下がって4-4-2で守備をしていた。これから先は4-4-2をベースに守備を行う前提で話を進める。

ハイプレス

ユベントスがハイプレスに出るときは、基本的にはマンマークでつく。相手のビルドアップ隊に対して中盤から人を上げてマンマークにつき、後方の選手はボールの位置に合わせて逆サイドの選手は捨てて後方の数的優位を確保しつつ、捨てた選手以外には距離を離さずマークにつく。

ユベントスのハイプレスが特徴的なのは、ハイプレスに出る前線の選手が相手のビルドアップ隊に対してそこまで厳しくプレスに出ないことだ。リバプールや最近の多くのハイプレス戦術を駆使するチームように相手から時間を奪うことを狙ってはいないのだろう。一定の距離まで近づいたらドリブルでの前進を止めるためにボールホルダーの前に立つ。このポジショニングによって相手からドリブルの選択肢を奪い、取りうる選択肢をパスに限定する。ただし、ボールホルダーがパスを出せる選手にはユベントスの選手がマンマークについている。不用意にパスを出せばカットされてしまう可能性が高い。ロングボールを蹴ったとしても、デリフト、キエッリーニ、ボヌッチ、ルガーニがロングボールを蹴ると分かって競り合いに行く。不意をついたロングボールではなく、ロングボールとわかった上で競り合うなら、ユベントスのCB陣は強さ、高さで競り勝つ確率は高い。相手のビルドアップ隊からドリブルの選択肢を奪い、パスやロングボールを蹴らせてマンマークでついてボールを奪う。ユベントスのハイプレスはこのように設計されている。

ミドルプレス

上記のハイプレスを仕掛けた結果、パスカットができない、あるいはロングボールを跳ね返したセカンドボールを相手に拾われたケース。もしくはハイプレスには出て行かずに中盤で待ち構えるケース。いずれの場合でも4-4-2の陣形をハーフウェイラインとペナルティアークの間に敷いてボールの前進を止める。ここでもユベントスの選手が行うのは、ボールホルダーの前に立つこと。ボールが相手の足から離れるなどボール奪取の機会が巡ってくればボールを取りに出るが、そうでなければボールの前進を止めることを優先する。ボールの取り所は相手が守備ブロックの中にボールを入れてきた時だ。スペースを消し、相手の選手にもマークについているため、中へボールを出された時にはCBが飛び出してタイトにマークについてボール奪取を試みる。さらに中盤もプレスバックしてボールを奪う。

また、サイドにボールを出されることは全く問題はないと考えているようだ。サイドにボールを出されたら、サイドバックがマークにつく。守備組織全体もスライドしてスペースを消す。アーリークロスならばボールとマークを同一視しやすい上、ボヌッチ、キエッリーニ、デリフト、ルガーニならば跳ね返せるという計算だろう。ミドルプレスでは徹底して中を閉めてボールの前進を許さず、それでも中への侵入を試みてきたところで厳しくマークについてボールを奪うか、クロスを跳ね返す。ボールを奪える状況、タイミングが来るのをじっくりと待って、守備のやり直しも厭わない。これがユベントスのミドルプレスの特徴だ。

ロープレス

ミドルプレスでは、サイドにボールを運ばれることは許容しているユベントス。必然的に自陣深い位置までボールを運ばれることも多くなる。その際は、主に右ウイングのクアドラードを一時的にディフェンスラインまで下げて5バックで相手のクロスボールに対応する。その際に左ウイングが中盤まで下がってきていれば見た目上は5-4-1になり、下がってこなければ5-3-2で守ることになる。ディフェンスラインはペナルティエリア内に設定され、ゴール前を固めてゴールを許さないことが最優先。ゴールを守る中でボールを奪えればいいという感じだろう。

5バックで守るのは、サイド深い位置にボールを運ばれた後の選択肢を潰すためだ。具体的には、①ニアサイドのハーフスペースを取られてショートクロスを折り返される、②ファーサイドへのハイクロス、である。①はマンチェスター・シティの18番の攻撃であり、近い距離からのグラウンダーのクロスをワンタッチで流し込む。距離が近い分クロスの精度も高く、グラウンダーのボールであればインサイドで合わせやすい上、ゴール正面でかつゴールを目の前にシュートを打てる。ゴールを奪うには最適なシチュエーションと言える。この攻撃を防ぐには、ハーフスペースに選手を立たせて埋めるしかない。しかし、そうするのであれば②ファーサイドへのハイクロスに対して4バックでは対応できなくなる。クロスを上げる選手にSBがつくとすると、ニアサイドのハーフスペースを埋めるためにユベントスはCBが出て行く。中盤をセンターハーフタイプの選手を多く起用していることから、中盤の選手はそのまま中盤に残しておきたいという意図があるのかもしれない。とにかく、サイド深くまで侵入された時、ディフェンスラインがスライドして対応するならファーサイドがどうしても空いてしまう。そこに飛び込まれたらフリーでシュートを撃たれてしまう。実際に今季4バックのままクロスに対応したシーンでは見事にファーサイドから決められてしまっていた。だからこそ、クアドラードを右WBの位置まで下げて5バックで守ることでニアサイドのハーフスペースを埋めつつ、ファーサイドへのハイクロスにも対応できる人数をディフェンスラインに揃えるのだ。ニアサイドのハーフスペースを狙う攻撃とファーサイドへのハイクロスに両対応できる。

守備で試合を支配する

単にうまく守備をして相手にチャンスを与えないことで試合をコントロールできるんだ。

とは、アッレグリの弁である。いかにもアッレグリらしいセリフだ。今季のユベントスの守備を見ていて、真っ先にこの言葉が浮かんだ。今季アッレグリは、シーズン前半に守備の再構築の必要性を強く訴え、守備を強化してきた。目指したのは守備で試合をコントロールすることだったのだろう。

いわゆるカウンタープレスや相手から時間を奪うタイプのハイプレスは「カオス」の状態を作り出すことにつながる。相手を素早く囲い込み、相手から時間を奪うことでボールを無理矢理離させる。相手は判断する時間が与えられないままボールを離すため、アバウトなボールを蹴ることが多い。それは、敵味方どちらに渡るのかわからない。クロップのリバプールが意図的にカオス状態を作り出すことを武器としてきた。通常、カオス状態は結果としてどちらに有利に運ぶかはわからない。だからカオス(混沌)なのだ。ドルトムント時代のクロップはそのカオスを味方につけるためにスカウト段階からフィジカルに着目して、徹底的に鍛え上げた。さらにリバプールではサラー、マネ、フィルミーノを擁してフィジカルの強さに加えて技術的な優位性も手にしてますますカオス状態を味方につけることに成功した。そんなリバプールに太刀打ちできるのは、同じくフィジカルと技術で渡り合えるだけの選手を揃えたマンチェスター・シティとレアル・マドリーくらいだった。プレミアではここ数シーズンはシティとリバプールが覇権を争っている。CLにおいてもリバプールはマドリー以外にはほぼ負けていない。

さて、翻ってアッレグリのユベントスは、このカオスを徹底的に嫌っているように見える。

一つは試合のコントロールを失う可能性があるからだろう。アッレグリは「試合の流れを読む」「試合を支配する」と言った表現をよく使う。試合全体をコントロールすることが勝利に近づく道だと考えているのだろう。少なくとも基本的な戦術として一か八かの賭けには出ない。つまり、相手から時間を奪って試合の展開を意図的に速くして、読みにくい試合にはしたくないはずだ。むしろ試合の展開を落としてじっくりと自分たちの計画通りの守備をする方がいいと考えているはずだ。

二つめは、ユベントスの選手はそもそもカオス状態を味方につけるだけのフィジカルを備えていないと見ていたのだろう。ディバラ、モラタ、ブラホビッチはボールを追いかけて走り回るタイプには見えない。ロカテッリやラビオ、クアドラードもそうだ。クロップのリバプールにいてもあまり違和感を感じないのは、キエーザとマッケニーくらいか。アッレグリは選手を中心に戦術を練るタイプの監督だ。選手に適性がないと見れば、激しいハイプレスは不採用にするだろう。

というわけで、ユベントスに所属する選手の特徴も考えて、相手にボールを持たせても守備で試合をコントロールして、トランジションフットボールのカオスに極力巻き込まれないようにする。これが今季のアッレグリが目指した守備の形だったのではないだろうか。

アッレグリの実験?

なお、今季のユベントスの守備を見ていて不可解だったことがある。ブラホビッチとモラタを前残りさせたことだ。ミランとの直接対決など、重要な試合ですらフォワードを前残りさせていた。守備の人数が減り、失点のリスクを負ってまでブラホビッチとモラタを残したのは、現代フットボールのセオリーに反する。全員で守備をするのは当たり前で、サラーやマネ、ジェズス、スターリング、ベルナー、ハフェルツも守備のフェーズでは自陣まで戻って守備に当たる。

にも関わらず、アッレグリがブラホビッチらを前に残したのは何故か?

加入間もなく、単に守備をサボっていた可能性もあるが、アッレグリが相手の出方を窺っていたのではないかとも思う。つまり、セリエAで得点王を争うブラホビッチを前に残した時、ブラホビッチを相手が放っておくのかどうかを試したのではないか。ブラホビッチを放っておくなら、守備のリスクは増えるが、カウンターでフリーになっているブラホビッチに得点のチャンスも増える。ブラホビッチにマークをつけるなら、その分相手の攻撃の人数も減るわけで、ブラホビッチを前残りさせても守備で数的不利に陥ることはない。ブラホビッチのボールを収める力は高く、カウンターの起点として機能するだろう。ブラホビッチを守備のために戻らせるよりも前残りさせることの方がプラスなのではないかという計算を、ピッチの上で答え合わせをしていたように思う。後半戦はボヌッチの不調もあって失点を重ねたために答え合わせができたとは言い難いが、面白い考え方だったように思う。強力なフォワードを敢えて前残りさせることで失点のリスクを得点の期待値で上回る、もしくは前残りさせたフォワードにマークをつかせることで攻撃の人数を削らせて少ない人数でも守ってしまいカウンターの起点を作るという考え方だ。これは全員守備が当たり前の現在、一周回って新しくなっているのかもしれない。

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