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セリエA 第16節 クレモネーゼ vs ユベントス 〜飛び道具の必要性

ワールドカップ中断期間を終え、セリエAも再開しました。ユベントスはアウェイで昇格組のクレモネーゼと対戦。90分にミリクのフリーキックが決まって1-0でユベントスの勝利となりました。この試合を見て思ったことを書いておきます。

一人相撲のユベントス

ユベントスは5-3-2でスタート。先発はシュチェスニー、スーレ、ガッティ、ブレーメル、ダニーロ、コスティッチ、ファジオーリ、ロカテッリ、マッケニー、ミレッティ、ミリク。守備では明確に引いて5-3-2で構えた。スーレはアタッカー色が強く、守備ではポジショニングやボールに行くタイミングなどが不安定で、特に前半はスーレのサイドを狙われた感じがある。攻撃時は3-1-5-1のようなポジションを取って、コスティッチとスーレがアウトサイドから仕掛ける。ミレッティはライン間にポジションをとってボールを引き取って中央からの崩しを狙う。ファジオーリは広範囲に動き回って局地的な数的優位を作りにかかっていた。ミレッティ、マッケニー、ファジオーリは流動的にポジションチェンジを繰り返していたが、残念ながらパスミスが多かった。パス交換でクレモネーゼのプレスを掻い潜るまではよかったが、その後スペースへ出すパスがズレたり、引っかかってカウンターのカウンターを喰らうケースが多かった。クレモネーゼが得た決定機はユベントスのパスミスやクリアボールの処理を誤ったところを拾ってからのものがほとんどで、ユベントスの一人相撲を見ているようだった。

ただし、3バックのところでは数的優位を確保できていたし、ロカテッリの手助けもあって後方でのボール保持は安定していた。ミレッティがライン間でボールを受けた時には素早いターンで前を向き、クレモネーゼのディフェンスラインを下げさせながら攻撃を仕掛けることができていた。前半19分にはライン間で受けたミレッティからスーレにボールが渡ってカットインシュートでチャンスを作った。また、左サイドからもミレッティ、コスティッチが際どいミドルシュートを放っている。彼らがフリーでゴールを向いた時に、ショートパスを受けて裏を取りに行く動きをできる選手がいると、さらにチャンスは広がる。後半にはミレッティがライン間で受けてキーン→キエーザと繋がって決定機を迎えている。この時はミレッティがボールを受けた時にキーンがミレッティの前でショートパスを受けられている。さらにキーンの左をダニーロが駆け上がり、キーンの後ろからキエーザがフォローしていた。ライン間にボールを差し込んだ時には、できるだけボールの周りに選手がいた方がいい。「ライン間」なので、当然相手選手も周りにいる。素早く中央を崩し切るためには、長くても10m程度までのショートパスでパス交換できる距離に味方がいないと囲まれてしまう。キエーザのシュートシーンではこれが実現できていた。ライン間にボールが入るタイミングをチーム全員が見極め、「ここだ」というタイミングで一斉に動き出す。そんなシーンを増やしていけば、ボール保持からの攻撃の脅威も格段に上がっていくだろう。

ユベントスはパスの精度を上げる、互いの意図を合わせてコンビネーションを高めていくことが必要だろう。中盤でのパスのズレからカウンターを喰らう回数を減らしていく必要がある。オフサイドになったりはしたが、クレモネーゼにも少なくとも3回は明確な決定機を作られていた。アッレグリも試合後のコメントで話していたように、技術的なミスを減らしていく努力をしなければならない。まあ、この辺りは昨季から引き続いた課題ではある。

また、特にトランジションの際の動き出しの速さはクレモネーゼに上を行かれていた。せっかくカウンターのチャンスになっても前線まで走り込む選手が少なく、効果的なカウンターを打てない場面もあった。中断前はカウンターの場面で4、5人が相手ペナルティエリアまで走り込んでいた。ワールドカップへ出場した選手も多く、コンディションが良くない選手もいたかもしれない。トレーニングでパスの精度とコンビネーションを磨き、コンディション不良の選手は調整に力を入れる。ウディネーゼ戦まで時間はないが、出来る限りの準備をして次節に臨みたい。

各選手について

・ミリクは裏は中々狙ってくれないが、とにかく中盤までプレスバックしてくれるところがありがたい。ここまでクリーンシートが続いているのはミリクの守備意識の高さと無関係ではない。ブラホビッチが復帰した時、これだけの守備をしてくれるだろうか。同じ左利きのストライカーとして、ミリクの守備意識は学んでもらいたい。

・やっぱりロカテッリは守備でめちゃめちゃ効いていた。カウンター対応は相変わらず絶品で、中央を使わせずにサイドに追いやってシュートコースを狭めながら下がってスピードを吸収する。コーナーキックの時に1人残ってカウンターに備えて、簡単にチャンスをやらないのだから、ピッチにいてもらわないといけない選手だ。他にもバイタルエリアを埋め続けて相手のミドルシュートに対して必ずシュートブロックに行っている。ユベントスの縁の下の力持ち的な存在になっている。

・スーレはやっぱりアタッカーだと思う。ドリブルのタイミングをズラしてスッと左アウトサイドで切り込むカットインはロッベンを見ているようだった。そこから左足で巻いてファーを狙うシュートもロッベンを彷彿とさせる。あとは決め切るだけ。シュートの速さと精度が上がれば右サイドで点を取れる面白い存在になると思った。

・ミレッティは10番タイプ。ライン間でボールを受けて前を向いてチャンスメイクするプレーが魅力的で、前後半ともにミレッティの間受けから決定機を生み出している。守備にも走れる選手で、もっと出場機会を与えてほしい。ボールを受けた後、ボールと相手の間に自分の体を入れる技術を身につけてボールを奪われないようになると一気に化けると思う。現状、ボールを取られる場面も少なくない。ボールを取られなくなったら、プレミアのチームが動き出すかもしれない。

・ファジオーリは8番タイプ。広範囲に動き回って攻守に貢献できる。アジリティ、スピードともに水準以上で何なら中盤の右サイドを1人でカバーできるだろう。スーレのフォローで守備に奔走した上で、攻撃時には逆サイドやゴール前まで顔を出す。足元のテクニックやパスの選択も悪くない。マルキージオやネドベドの系譜の選手だと思う。クレモネーゼ戦ではパスが合わずに相手のカウンターを呼び込んでしまう場面が多かった。考えすぎず、素直にプレーすればいいのにと思うシーンも何度かあった。ロカテッリ、ファジオーリ、ミレッティで組む3センターはとても魅力的なセットになるだろう。

・ガッティとブレーメルは肉弾戦を制するフィジカル型のディフェンダー。対人戦で無類の強さを誇り、守備を引き締めている。ガッティは前に出る意識が強く、中盤でフリーになりそうな選手を早めに捕まえてくれるが、その分裏も取られやすい。ブレーメルの鬼カバーが何度となく発動していた。この2人、縦パスを入れることが少なく、ビルドアップの貢献度がそんなに高くない。この課題を克服できたら、素晴らしいディフェンダーになる。

飛び道具の重要性

さて、クレモネーゼは5-3-2で守ってきた。中盤の真ん中の選手がロカテッリをほぼマンマークで消しにかかり、2トップはユベントスの3バックに対してパスラインを切りながらプレス。5バックからも選手を強気に前に押し出してプレスをかけてきた。ユベントスはうまくプレスをいなしてサイドを変えたり、プレスを掻い潜ってボールを進めるが、5-3-2の守備ブロックは堅く、時には2トップも守備に戻ってきたりしてゴールを守るクレモネーゼに対して中々ペナルティエリアまで侵入できなかった。若くフィジカルに優れる選手を集めた中堅〜下位のチームは攻守に必死に走り回って硬い守備ブロックを形成してくる。しかも、5バックを採用するチームも増え、守備の強度は増している。特にゴール前の人数はしっかりと揃えられており、簡単にはゴールを奪えない。ゴール前に人数をかけて守られると、いくらボールを保持していてもゴールを奪うのは難しい。ワールドカップのスペイン戦では日本が支配率17%で5-4-1の硬い守備で守り勝った。かつてのモウリーニョは「バスを停める」守り方でゴールを封鎖して競り勝っていた。ユベントスもゴール前に人数をかけて守る戦い方を得意としている。

ゴール前を人数をかけて固める相手からどうやって点を取るのか。ミドルシュートとセットプレーがカギになりそうだ。

クレモネーゼ戦で決定打になったのは、ミリクのフリーキックだった。他にもコスティッチのコーナーキックからキーンがゴール右の至近距離からシュートを打ったシーンもあった。セットプレーはゴール前を固める守備ブロックは関係なくなる。守備側はボールを蹴るキッカーから9.15m以上離れなければならない。ノープレッシャーで蹴ることができる。コーナーキック独特の守備陣形が設定されるし、フリーキックならば壁に人数を割かなければならない。どれだけ硬い守備ブロックを組んでゴールを守っていても、セットプレーでは違った守り方をする必要が出てくる。ユベントスには、コスティッチを筆頭にミレッティ、ブラホビッチら精度の高いキッカーが揃っている。セットプレーで点を取れるなら、人数をかけて守る相手に対する有効なカードとなる。

もう一つはミドルシュートだ。クレモネーゼ戦ではスーレ、ミレッティ、コスティッチらが惜しいミドルシュートを放っていた。守備ブロックを組んでゴールを守っていても、その外からゴールを撃ち抜いてしまえば問題ない。ミドルシュートを警戒して前に出てきてくれれば、守備ブロックに綻びができ、そこをついて中央突破を狙うチャンスが見えてくる。元々サッカーはゴールが決まりにくいスポーツだ。0-0で終わる試合も少なくない。相手の守備ブロックを引き出すためにも、決まる可能性がある位置やコースからなら積極的にミドルシュートを狙っていくのもいいだろう。

もちろん、相手が守備ブロックを組む前に攻め込んでしまうカウンターも有効であることに違いない。

これらの攻撃ルートを駆使してユベントスは点を取ってきている。ハイプレスとポジショナルプレー全盛の昨今、セットプレー、ミドルシュート、カウンターは時代遅れのサッカーとして嫌われているような感じはあるが、トレンドは車輪のように移り変わっていくもの。ポゼッションからの得点も可能性は高まってきているし、若手の成長も期待できる。次節以降も、現在のスタイルを貫いていけばいいと思う。

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