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セリエA 第1節 ユベントス vs サッスオロ 〜守備の狙いの違い

いよいよ22-23シーズンのセリエAも開幕しました。ユベントスはホームにサッスオロを迎えて3-0で勝利。ディマリアの1得点1アシスト、ブラホビッチの2得点、そして、なんと、なんと、ついに飛び出たサンドロの1アシストが効きました。さて、開幕戦を互いの守備に注目しながら振り返っておきます。

下がるユベントス、上がるサッスオロ

ハイプレスのサッスオロ

サッスオロのスタメンは、コンシーリ、ムルドゥ、アイハン、フェラーリ、ロジェリオ、ベラルディ、フラッテシ、トルストベット、キリアコプーロス、エンリケ、デフレル。ラスパドーリがスタメンを外れたのはナポリへの移籍が秒読み段階だからだろうか。昨季からポジショナルプレーをベースにしたボール保持からの攻撃とハイプレスを組み合わせたアグレッシブなサッカーを志向しているサッスオロ。後方でポゼッションを確立して外と中を使い分ける素晴らしい攻撃を展開していた。抜群のテクニックとアジリティを武器にライン間で躍動していたラスパドーリは中を使う攻撃のキーマンだった。チーム事情からかラスパドーリを先発で使えなかったことは痛恨だっただろう。また、スカマッカの移籍で外からの攻撃がどれだけ効果的か未知数だったこともサッスオロとしては難しくなった。実際、ボヌッチ、ブレーメルはクロスは悉く跳ね返していた。ユベントスとしては、中を閉めておけば特に問題はない、くらいに構えていたように思う。

ボール保持からの攻撃が有効に機能しづらいとなると、サッスオロの狙いはハイプレスということになる。開幕戦では、サッスオロはかなり積極的にハイプレスを仕掛けていた。具体的には、デフレルがボヌッチを、エンリケがロカテッリをマンマークでついてブレーメルにボールを持たせる。そして右サイドのベラルディが背中でサンドロを消しながらブレーメルにプレスをかける。ユベントスの前線の選手にはディフェンス、中盤の選手がマンツーマンでついてしまい、ブレーメルからしたらパスコースがない状況を作り出す。この仕組みのハイプレスがハマって無理なパスを出させてコントロールミスを誘ってロカテッリ、ザカリアから高い位置でボールを奪うことにも成功している。ウォーターブレイクまではサッスオロの狙ったハイプレスが機能していたと言っていいだろう。ユベントスも4分過ぎにサンドロがベラルディの視線が自分にない時に敢えてさらに上がることでパスラインを作ってベラルディの裏を取ってクロスまで持っていったシーンがあった。このハイプレスはベラルディが背中でサンドロを消しながらブレーメルから時間を奪い取ることがカギとなっている。つまり、サンドロがポジショニングを動かしてベラルディと駆け引きをする事でパスラインが開いたり、ブレーメルに時間とスペースを渡すことができたのだが、サンドロにそこまで期待するのは酷なのかもしれない。4分過ぎのプレーに再現性はなかった。とにかく、サッスオロはハイプレスに積極的に出て、高い位置でボールを奪うことを狙って守備をしていた。

構えるユベントス

ユベントスのスタメンは、ペリン、ダニーロ、ボヌッチ、ブレーメル、サンドロ、クアドラード、ザカリア、ロカテッリ、マッケニー、ディマリア、ブラホビッチ。前半のウォーターブレイクまでは攻守において4-4-1-1のようなポジショニングで推移していた。ブレイク中にアッレグリから指示が出たのか、その後は4-3-3でプレーした。

1点目は、この変更がズバリでサッスオロが対応しきれないうちにディマリアがスーパーボレーを叩き込んでしまった。ウォーターブレイクは全選手がベンチ前まで戻ってくることから、実質短いハーフタイムみたいなもので、ここで戦術変更の指示を出して選手に徹底しやすい。

アッレグリにそんな時間を渡してはいけない。

4-3-3へと変更してベラルディがカギとなっていたサッスオロの守備に揺さぶりをかける。クアドラードを左サイドに張らせてマッケニーの位置をハーフスペースへと調整。サッスオロのCBのマークを困惑させてフリーになったマッケニーへブレーメルからボールが渡って前進。その流れからディマリアが先制点をゲットした。ベラルディがサンドロを隠してもマッケニーへのパスラインが開いていた。外にはクアドラードがいてSBはクアドラードを警戒しなければならない。サッスオロからすると予定外のことだったのだろう。アイハンは思い切ってマッケニーまで飛び出すことが出来なかった。

ユベントスの守備は、たまにハイプレスをかけることもあるが、引いてブロックを作る意識が高かった。前半途中までは4-4-2のブロック。それ以降は4-5-1のブロック。さらにクアドラード、途中からはコスティッチが左サイドの低い位置まで下がって5-4-1に変化させていた。人数をかけて整然と守備ブロックを組んでスペースを消し、サッスオロに中を使わせない。サッスオロのシュート数は多かったが、ほとんどがミドルシュートだった。ユベントスは、ミドルシュートはシュートブロックへ入ってコースを限定させれば撃たせてOKという守備をしている。サッスオロのシュート本数は多くても、ユベントスの守備はほとんど慌てることはなかっただろう。

スタッツと守備の狙いについて

ボール保持率、パス本数、パス成功率、シュート数、枠内シュート数の全てのスタッツでサッスオロがユベントスを上回った。しかし、試合自体はユベントスがコントロールしていたと言っていいだろう。決定機の数もユベントスの方が多かった。サッスオロがボール保持率などのスタッツで上回った(ように見える)のは、守備の狙いの差にある。

サッスオロはハイプレスに積極的に出た。そのため、ユベントスは「後方でボールを保持する」というよりは「サッスオロのハイプレスを剥がす」プレーが多かった。ハイプレスを剥がせば、その前には広大なスペースが広がっており、ドリブルやミドルパスでボールをファイナルサードまで運ぶことができる。ユベントスはそのままシュートやクロスまで持っていってチャンスメイクをしていた。だからこそ、ユベントスのボール保持率は低くなっている。ハイプレスを剥がして時間と手数をかけずにゴール前までボールを運んでいたからだ。

一方のユベントスはハイプレスをかけることもあったが、多くの時間はリトリートして自陣で守備ブロックを敷いて守っていた。サッスオロは自陣ではボールを持つことは比較的容易だったはずだ。しかし、敵陣に入るとユベントスの守備ブロックがスペースを消して待っている。ブロックの外でボールを回してチャンスを窺う時間が長く、必然的に保持率、パス本数は増える。なおかつブロックの外からミドルシュートを撃っているので、シュート本数は増えるが、ペナルティエリア内で決定的なシュートを撃つには至らない。

スタッツの差は守備の狙いの差にあり、試合を左右する決定的なものにはなっていなかった。ボール保持率を譲っても、縦に素早く効果的な攻撃を繰り出していけばゴール数で上回るという試合だったように思う。

雑感

コスティッチ

正直、コスティッチという選手を知らなかったので、見るのが楽しみだった。30分程度のプレーしか見ていないが、「見えているパサー・クロッサー」と言った印象を受けた。往年の選手に例えるなら、左利きのベッカムといったところか。ドリブルで相手を翻弄することは得意ではないだろう。ただし、敵、味方、スペース、ボールの位置などは全て見えており、プレーの選択を間違えない選手なのだろうと思う。サッスオロのハイプレスに対しても全く動じずにワンタッチで叩いて動き直してスペースに侵入。別にこれくらい当たり前だろ、と言わんばかりにいとも簡単にプレスを外していた。クロスの精度についてはこれからさらにデータを蓄積していく必要があるだろうが、クロスの選択も面白かった。ブラホビッチらを囮にして軽くミレッティの前を通したショートクロスは、ミレッティがシュートを打つ気で走っていれば決定機に繋がっていたはずだ。左サイド深い位置まで下がってWBとして守備に参加していたこともあり、昨季のクアドラードがやっていたことを左サイドで引き受けることになるだろう。ディマリアの守備負担を軽くするためにも、攻守のキーマンとなりうる選手だ。
また、「見えている」選手なだけに、中盤を任せてみても面白い。特にパス回しでハイプレスを外すアイデアとテクニックは中盤でも見てみたい。底からサイドチェンジやポジションを上げてミドルシュートなど、攻撃の選択肢もバリエーションに富んでいるだろう。守備の戦術理解が進めば、中盤での起用もあるのではないか。

ダニーロ

この試合では、特に攻撃面でダニーロの活躍が光っていた。
①右サイドを駆け上がり、幅をとりつつディマリアを精力的にサポート。度々ディマリアを追い越して選択肢を増やし、チャンスに絡んでいた。仮に使われなかったとしても、すぐさま守備に切り替えており、大人なプレーを見せていた。
②CHの位置に入って攻撃をサポート。攻撃時にはザカリアもペナルティエリアに飛び込んでいく場面も多く、その分ダニーロがCHの位置に入ってバックパスを受けたり、セカンドボールに備えることも多かった。ディマリアのボレーのシーンでは、マッケニー、ブラホビッチ、ザカリアがゴールエリア付近に侵入していた。クロスを上げたのがサンドロで、ロカテッリもペナルティエリア手前まで上がってきていた。攻撃時にはリスクをとってペナルティエリアに人数をかけるのなら、被カウンター対応のための人員も必要だ。おそらく、ダニーロがその役割を担うのだろう。CHの位置にいれば、素早くボールにアプローチできる。
③3バック化してビルドアップのサポートをするタスクも今後任されることになるだろう。昨季も担っていたタスクだ。ボールの前進、状況によって①、②のタスクもこなしていくことが求められるのではないか。今季のユベントスの攻撃は、ダニーロが縁の下の力持ちになるのかもしれない。
なお、5バック化する守備に関しては、ディマリアを右に固定するプランでは、左ウイングが守備ラインまで下がるようだ。開幕戦では左ウイングに入ったクアドラードとコスティッチがその役割を担っていた。ダニーロには攻撃で多くのタスクを与える分、右サイドの守備に専念することになるのだろうか。

ブレーメル

ブレーメルは期待通りのプレーだった。フィジカルに優れており、スピード、パワー、高さとどれをとっても負けていなかった。守備のポジショニングやカバーリングも、開幕戦を見る限りでは的確に動けていたように思う。守備ではほとんど隙がなかった。改めて素晴らしいCBを獲得できたと思う。
攻撃面ではサッスオロに甘くみられたのか、敢えてボールを持たされていた。しかし、1点目はハーフスペースでフリーになったマッケニーにブレーメルが的確に縦パスを通したところからスタートしている。ロングボールの精度も悪くなかった。ドリブルでの前進も見せてくれれば、ビルドアップでの貢献度もさらに上がるだろう。

ロベッラ

ロカテッリと替わって入ったロベッラも良かったと思う。ポジショニングは的確で、ボールの動かし方も落ち着いていた。何より、ザカリアが負傷して戻ってきた時、タスクを交換してザカリアをアンカーの位置に残したことだ。それまでザカリアが担っていた動いて相手を捕まえに行く守備を自分から引き受けることで、負傷しているザカリアの負担を軽減しようとしたのだろう。なんて素敵な若者なのか、と思ってしまった。本当はベンチからの指示があったのかもしれないが、ロベッラ自身が判断して動いていたのなら、マジで感動する。ナイスガイすぎる。一躍ジャック・リーチャー賞の最有力候補に躍り出た。
課題としては、ターンの鋭さを上げていって欲しい。CBからボールを引き取ってから前を向くまでにワンテンポ遅く感じた。トラップして、ステップを踏んで2タッチ目で前を向いていた。ボールを受けると同時に体の向きを前に持っていくことができれば、一手早く次のプレーに移行できる。とはいえ、ロベッラも周りは見えているように思ったし、試合経験を積んでいけばロカテッリを脅かすだけの選手になりうると思った。

ミレッティも悪くなかったし、ソウレ、アケ、デヴィンターら下部組織出身の選手も育ってきている。昨季は苦しめられたサッスオロのハイプレスも攻略して3点とってしまった。

今季のユベントスはやっぱり面白い。

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