知らないおじさんと、温泉で1時間語り合った。
知らないおじさんと書いたが、5、6回喋ったことがあった。
ただ名前は知らない。分かっているのは、52歳、白髪のポニーテール、農業をやっていて、サッカーが大好きということだけ。
初めて会ったのは、去年の秋ごろ。
湯に入ろうとすると、横からやけに視線を感じたのでチラッと見ると、そのおじさんが僕を見ていた。
「その足、サッカーかなんかやってる?」
これがキックオフの笛だった。
そのあとにも、会うたびに、僕自身のサッカーの話、日本代表やW杯、お米の魅力など、様々な話題を語り合った。
おじさんとの会話は楽しかった。
口先だけで話していないというか、目力、相槌、発する言葉の節々に力強さを感じ、惹きつけられるものがあった。
そして先日も、「三笘やばいね〜」と声がしたので、振り向いたら、いた。
その日はなんだか、深い話が多かった。
おじさんが26歳のとき何をしていたか、どういう経緯で農業をやることになったかなど、生い立ちから現在まで、なんだかんだ1時間くらい喋っていた。
その中で、こんなことを話してくれた。
これを聞いて、僕はこう答えた。
「すごく分かるんですが、売上が悪い時は、危機感を『持たざるを得ない』ように感じました。では儲けがある時には、どうやって危機感を持つようにしているんですか?」
するとおじさんは、少し考えてからこう言った。
「そういうときは、野菜たちの『命』を感じるようにしている。商品ではなく、『生き物』として接すると、サボるなんてことは一切考えなくなる。野菜を育てることに必死になる。それは危機感なのと同時に、楽しさでもあるんだ。」
なるほど。
そして数日間、それについて考えた。
「危機感」を持つ方法は、2つ。
危機の状況に陥ってしまうか、危機を自ら作り出す。
気づいたら危機にいる場合と、芸人さんたちがよく言う、「家賃が高い家にあえて住む」などは、危機を自ら作り出している場合。「プレッシャーをかける」とも言う。
要するに、危機感というのは、誰でも持つことができる。
大事なのは、危機じゃない時にどうやって危機感を持つか。
結論から言うと、危機じゃない時に危機感を持つことはできない。なぜなら、危機じゃないから。
そういうときに持っておかないといけないのは、危機感というより、「楽しむ心」なんじゃないか。
好奇心とか、向上心、探究心。
その作業、状況に没頭し、のめりこむ。
それらの心を持てれば、調子の良いときも、高いパフォーマンスを継続できるような気がする。
濃い1時間を過ごさせてもらい、おじさんには感謝しています。
読んでいただきありがとうございました!