長谷川潔「瓶に挿した野花」
自分の為にブーケを買うなどまず無いのだけれど、今日通りかかった花屋さんで一目惚れ。グリーンで纏められた、この店では珍しいシックな花束。家に帰って活けてみて、ハッと気付いた。
20代の頃、横浜美術館で開催された長谷川潔銅版画展で、特に惹かれた1950〜51年制作の「コップに挿した野花」シリーズがずっと頭にあった。
1891年生まれの長谷川潔は、1918年に銅版画の様々な技法を学ぶ為フランスに渡り、彼の地で生涯を過ごした。19世紀の写真の登場で廃れていたマニエール・ノワール(メゾチント)の技法を再興。黒いバックに浮き上がった鳥や花、静物の静謐な作品が素晴らしかった。
中でも足を止めていつまでも眺めていたのは、エングレーヴィングの作品群だった。正確なタイトルは忘れたが、俯いたコクリコ(ヒナゲシ)の花の、柔らかく繊細なタッチを今でも覚えている。
数年後、たまたま立ち寄った青山の骨董通りのギャラリーに、シリーズの数枚がファイルされているのを発見!原板が所蔵されているルーブル美術館の工房で刷られた、カルコグラフィの一枚を即決で購入して、ずっと壁に飾ってきた。
ブーケを見て、この絵を思い出した訳ではなく、帰宅して花瓶を置いて初めて気付いたのだ。
若い頃強く惹かれた作品のモチーフが、数十年経った今の自分のアンテナにもすっと架かってきたことが、愉快なことだった。
ただそれだけの事なのだけれど。
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