みんなで行動する~『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』から
『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春』については、「ナメクジは何のためにいるの?」で、引用しました。10月に子供たちの前で、生物の多様性についての話をすることもあって、もう一度読み直していました。時間はかかりましたが読み終えたところです。416ページという厚さだけでなく内容も厚い(濃い)本です。
この本では、世界的に昆虫が急激に減少していることをさまざまなデータで示し、原因に言及しています。そのうえで、昆虫が減少すると、「生命のつながり」が崩壊し、食料供給に大きな影響がでると説明しています。そのうえで、「私たちにできること」で締めくくっています。
「私たちにできること」は17~20章で4つに分けてまとめられていて、最後の21章「みんなで行動する」です。この章の最初で次のように著者は言っています。
ビオトープに関連する行動に注目した
引用した部分の後、「私たちがとるべき多くの行動について実践的なアドバイスを紹介する」として、イギリス人の視点ではあるものの十分に実行可能な行動を紹介しています。
行動は多岐にわたるので、全体を知りたい方は、本を買っていただくことにして、ここでは、特に私自身が関心のあるビオトープに関連するものをいくつか紹介します。すでに実践(行動)されていることもあると気づくと思います。
「みんなで行動する」は次の4つに分けています。
1 環境意識を高める
2 都市部を緑化する
3 食料システムを変革する
4 希少な昆虫や生息環境の保護を促進する
さらに、それぞれを行政や市民の行動に分けています。
1 環境意識を高める
自然界を大切にする社会構築には、未来の大人、子供に注目しています。
まず、中央政府の行動として、
・自然学習を担当できるように教員の研修をする。
・すべての学校が指定された緑地を利用でき、生徒に自然と触れ合える機会を与える。
・小学校に自然学習をカリキュラムに組み込み、週1回は野外授業をする。
みんなの行動として
・最も説得力のある強力な環境政策を掲げる政党に投票する。
・支持する国会議員に環境配慮型の構想を支援するよう手紙を書く。
・自分ができる方法を使って意見を広める。SNSで発信する。シェアしたり支援したりする。
2 都市部を緑化する
まずは庭から変革を始める。
園芸や市民農園の愛好家の行動として
・蜜と花粉が特に多い花を育てて、ハナバチやチョウという送粉者を助ける。
・芝刈りの頻度を減らして、芝生に花が咲くようにする。一歩進んで、野の花が咲く自分たちだけの小さな草地をつくる。
・ タンポポなど「雑草」と呼ぶのをやめて「野生の草花」と考え、生えっぱなしさせて、草刈りに使う膨大な時間を節約する。そうすれば送粉者が好む花が咲くようになる。
・池を掘り、トンボ、ミズスマシ、イモリ、アメンボがどれだけ早く住みつくか観察してみる。
・フードマイレージがゼロの健康的な野菜と果実を自分で育ててみる。
・リンゴ、プラム、アンズ、クワなどの果樹を植える。
・庭では農薬を使わないようにする。テントウムシやハナアブの幼虫が害虫を食べてくれる。
・何もせず自然のままにする「ワイルドな」一画を設けよう。自分だけの自然再生プロジェクトになる。
・切った枝や木の集積場をつくろう。腐らせればカビ、キノコが生えて木を分解する。
・堆肥を集める場所をつくり、食べ物をリサイクルしよう。ミミズやワラジムシ、ヤスデのすみかになる。
中央政府の行動
・都市部での農薬に使用を禁じる。フランスほかで見習うべき先例がある。2017年公共の緑地での農薬の使用が禁止され、2020年初めから登録された農家以外の人々に対する農薬の販売が禁止された。
・ペットのノミ駆除やアリ駆除を目的としたネオニコチノイド系殺虫剤やフィプロニルの使用を禁止する。河川から採取された水から頻繁に検出される。
・自然豊かな開発地が標準となるように新たな法律を導入する。開発計画に野生生物の生息環境の提供、生息環境どうしの接続性の向上、水管理や汚染対策、気候変動対策を効果的に行うように配慮する。
・新設されるゴルフ場すべてに生物多様性を支えるために最大限の能力を発揮できるよう、法律を導入する。在来種の花木を植えたり、花々で満ちた草地をつくる。
・広報キャンペーンを通して、家庭菜園や市民農園で育てている野菜の普及を促進する。初心者に無料の研修や野菜の種子を提供する。
・光害を減らす対策をする。必要な部分だけ照らし、それ以外に光が漏れないようにする。
地方政府の行動
・公園や草地、池など野生生物がすめる場所をつくる。
・街路や公園に在来種の花木、果樹を植える。
・道路脇の緑地帯や環状交差点の草刈りの頻度を減らして野草が花を咲かせるようにし、刈り取った草は取り除く。可能な場所では、そこに適した数種類の野草の種をまく。新設する場合は、無条件で数種類の野草の種子をまく。
・都市周辺に市民農園向けの土地を購入するか、既存の土地を市民農園にする。
みんなの行動
・各地方にあった問題に的を絞って、先に書いた「地方議会の行動」を促進するように、地方議会の議長に手紙を書こう。
・自然保護団体に加わるか、同様の団体を設立して、今まで述べた都市部の緑地を増やすように行動する。
3 食料システムを変革する
もっと多くの人を雇い、体によい食物を持続可能な方法で生産しながら、土壌の健全性を保ち、生物多様性を支える。このために 農薬の不使用や有機農法の推進について述べています。中央政府には法律や税金、補助金、情報公開など、みんなの行動として消費者としての選択など、具体的な行動を示しています。ここでは省略。知りたい人は実際に本を読んでください。
4 希少な昆虫や生息環境の保護を促進する
中央政府の行動
・昆虫保護の法令を強化する。イギリスでは、1981年野生生物および田園地帯保護法で、少数の昆虫が保護されているが、ほんのわずかの割合にすぎない。希少な昆虫も希少な鳥や哺乳類と同等に扱われるべき。
・野生生物の保護を担当する政府機関に適切な予算をつける。
・イギリスに指定地として残っている自然保護区などの自然豊かな地域はほんのわずかであり、侵してははならない
・昆虫がどこでどのくらい脅威にさらされているのか調査する。そのための資金を提供する。分類をする専門家は圧倒的に少ないので、育成支援を行う。
・気候変動と生物多様性の喪失に対処する国際的な構想で主導的な役割を果たす。特に必要なのは熱帯地域の森林伐採を防ぐ世界規模の構想。
みんなの行動
・地域の野生生物トラストか、自然保護に取り組む全国規模の保護団体の一つに加わろう。
・野生生物の記録係になり、チョウ類にモニタリングやマルハナバチ保護トラストなど、全国規模の計画に加わろう。
ここまで読んできていかがでしたか。小さなことでも、行動に移せることはありましたか。もう、いくつかは行動していると感じた方も多いのでは。読み直して、たしかに行政の役割が大きいですね。市民として要望することも大事です。イギリスは日本より行政や政治との距離が近いと感じました。市民として農家を支援することも忘れてはいけませんね。
多様な生物を育む場所としてのビオトープ。特に都市部での緑化については小さいながら、今まで自分たちと共通の行動もあり、勇気づけられた感じがしています。