キスの話
私は顎関節症である。病院にかかってはないけど。
口を縦に2センチくらい開けると
耳元の関節がガコッと音を立てる。
更に言えば、左右でガコッとなるタイミングがちがう。ズレている。いろいろと。
私は顎関節症である。多分。
しかし他人にわざわざ伝える事でもないし、
そうそうバレる事でもない。
日常生活に弊害が生まれることも無い。
口を開けるとガコッとするだけである。
大学四年生で初めて彼氏ができた。
とても大人な人だったから、とても緊張した。
その人が私に合わせてくれたのか、
付き合ってからも手を繋ぐのに1ヶ月かかった。
周囲はもうキスしただの、もうヤッただの
話で溢れていて、申し訳ない気持ちになった。
2ヶ月が経った。
初めてお部屋に行った。
パソコンの画面が沢山あってびっくりした。
びくびくしながら床に座った。
その日初めてハグをした。
思っていたよりその人の背が高くて、
顔に胸のボタンが当たった。
くすぐったかった。
その日の帰り際にキスをされた。
その人は初めての度に1つ1つ私に了承を求める。
ハグしてみませんか、キスしてもいいですか。
その度に私はどうぞと返した。
そこから1週間が経った。
お散歩をする時は大丈夫なのに、
お部屋に行くとそわそわとしてしまうのが不思議。
ハグをしてキスをして。
その人は言った。もう一歩進んでみませんか。
どうぞ、と言いながら硬直する。
もう一歩って何ですか、聞かないけど。
口開けて、って大抵のときは2人でも敬語なのに。
ガコッ
聞こえてないよな、と微かに不安になる。
応えるのに必死になって次第に何も聞こえなくなる。
舌出してって言われても、舌の出し方が分からない。
目を閉じることも出来なくて、
されるがままにその人の顔を見ていた。
「そんなに口開けなくていいんですよ」
やっぱり聞こえていた。穴があったら入りたい。
「そんなに開けてるつもりはないんです」
そもそも縦に2センチで顎がなるのだ。口を開けた段階で避けようがないのだ。
「でも、なんかガコガコいってたから」
百年の恋も冷めそうである。
ムードもクソもない。
笑い出さなかったその人はどんな気持ちだったのか。
おかげで私は余計に緊張するようになった。
しかして、私が出した結論は、
さっさと口を開けてガコッと鳴らして仕舞えば
その後はなんとかなるということである。
さて顎関節症について調べてみると、
最悪顎の機能がダメになってしまうこともあるらしい。怪しいなと思った方や、キスをしたとき相手から
ガコッと音が聞こえた人はぜひ
病院に(連れて)行ってほしい。
顎関節症は主に歯科が扱っているそうだ。
ガコッ
私も病院行こうかな
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