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100文字物語という表現技法

100文字物語とはVS190さんが考案した表現技法である。簡単にいえば「100文字ピッタリで」「10字×10行の原稿用紙」に書く物語だ。
ジャンルは人それぞれ。私は今のところ随筆・エッセイの類いを書いているが、フィクション(SF・ホラー・ブラックユーモア)やナゾナゾもある。
100文字物語という新たな表現技法に出会って私が感じたことを述べる。

▼ 100文字物語erの祖、VS190さんの作品集 
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TwitterやInstagramにはさまざまな画像が溢れるなか、シンプルな原稿用紙に広がる世界の大きさには目を見張るものがある。

限られた字数で伝えるということ──俳句・短歌との共通性

私の小学校の担任の先生は短歌や俳句を嗜んでいる方であった。国語の授業では比較的多くの時間を短歌に割いていたように思う。現代語もおぼつかないような年齢ながら和歌や古典、名作文学の暗唱にも取り組んでいた。

中学・高校の国語は面白くなかった(入試のテクニックを教える授業であり本来的な意味での国語学習ではなかった)が、小学校では大変多くのことを学んだ。『竹取物語』『雨ニモマケズ』など、あのとき暗唱した名文は今も覚えているし、何かにつけ私の生きる指針となっている。

「俳句」は最近、テレビ番組でも脚光を浴びている。古き良き日本の伝統を若い世代にも紹介する面白い試みだと感じる。けれども俳句という表現技法(5・7・5の定型、季語など(字余り・字足らず、自由律、無季もある)は比較的新しい。学校の国語の知識しか私にはないが。

「短歌」は俳句に比べてより自由度の高い表現技法で、5・7・5・7・7が基本(他の型もある)だ。現代語でも短歌は多くの人々に楽しまれているが、その源流はかなり古いようだ。
中学・高校の国語では、奈良時代の万葉集から平安時代以降へと連なる和歌の世界を学ぶ。当時の人の生活や気持ちを窺い知れる素晴らしい和歌が多く残されている。現代との違いも多々ある一方で、同じ人間・日本人なのだとハッとさせられる和歌も多い。
古語と現代語という違いはあれど現代の私たちも古代の人々と同様の表現技法で言葉の世界を楽しめること。日本語という言語が微妙に姿を変えながらも脈々と受け継がれてきたという事実。これらは実に素晴らしいと感じる。

わずかな文字数で感情や情景を伝える、わび・さびの世界は確かに私たちの文化として根付いている。その魅力に触れた小学校での原体験があってこそ、私は100文字物語という新たな技法にも魅了されたのかもしれない。

現代における言葉の力

自分の思いを表現するにはさまざまな技法があり、特に現代ではその数は爆発的に増加している。写真はおろか印刷機もなく紙すら貴重であった時代から動画や音声も含めリアルタイムにやりとりできる時代へと移りかわった今でも短歌という技法が残っている事実、そして100文字物語という新たな技法の誕生は「言葉」のもつ力が依然として大きいことを意味しているように思う。

ここで、現代において短歌を読むということの意味とは何か、さまざまな表現技法がある中で短歌の良さとは何かを考えてみる。まずは5・7・5・7・7というリズムの心地よさ。実際に声に出して読む(詠う)ことで短歌の魅力は最大限に引き出されると感じる。内容はもちろん音の面白さ・耳触りの良さも鑑賞のポイントになる。
また俳句よりかは少し字数が多く、季語などの制約も少ない。この点で短歌は子どもからお年寄りまで幅広い方が気軽に創作する楽しみを味わうのにうってつけだ。私も小学校の恩師の授業でこんな歌を詠んだ。

たんぽぽの 花が綿毛にかわったよ
  飛んでいきたい わたしもいっしょに

あれは小学4年生のときだったか。今でもよく覚えている。自分の詠んだ短歌の情景を文字とともに画用紙に描く。そんな一風変わった、国語と習字と図画工作のあいだのような授業。幼い私の子どもらしい歌に拙い文字。画用紙いっぱいの水彩絵具の青空にそよぐ雲とたんぽぽの綿毛。
自分で考える・書く・描く喜びを感じたとても大切な思い出だ。それはただの絵ではなし得なかった。短歌という心地良い音をともなう言葉の力があってこそのことだと思う。
中身も深みも何もない、ただただ自然の美しさと不思議さを率直に詠んだ歌。
短歌がなければ思い出に残ることのなかったであろう、幼い私の純粋な心。そんな体験をくれた恩師と短歌に感謝。

論理とか科学とかにこの十数年は傾倒してきたけれども、あの歌を覚えている限り私の根っこは腐っていない。このタイミングで100文字物語という新しくも、古き良き日本の伝統と言葉の力を感じさせる表現技法に出会えたのも何かのご縁だ。
生きていると意外とまだまだ発見があるのだなぁと、また一つ、生きる意味を感じられた出会いであった。

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