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【ネタバレ】すべての人間たちに光を!/「哀れなるものたち」

こんばんは、瓶宮です。
今年に入ってからの映画を観るペース、いい感じになっております。もう5本観れた。私の中では早いです。よっしゃい!


哀れなるものたちを観たぞ!

日本で公開される前から、いろいろ賞にノミネートされていてすごい!のと、R18指定の映画ははじめて観るぜ!というので、どんな物語になるのかほとんど予測がつきませんでした。だって、胎児の脳を死んだ女の人に入れて蘇生させるんだもん。どういうこっちゃ。一方で、ポスターなどで見られるビジュアルの良さにも心打たれます。ごちゃまぜになった状態で、観るぜーーーーー!!!!

以下ネタバレあります!!!!!






映画『哀れなるものたち』のレビューを書きました! | Filmarks(ネタバレあり)
https://filmarks.com/movies/109937/reviews/168403238 #Filmarks #映画 #哀れなるものたち

なんだかわからないけど、観終わった後、無性にゾクゾクしている。とりあえず、パンフ買うか……となりました。

冒険と称して、なんでもやるな!ほんとに、なんでもやるな!通俗的な、一般的な意味を排除して、ただ自分にとって何をもたらすのか、自分と対象だけの世界を生きるベラを見て、「ひとりの人間が人生を獲得していく話」だ!と興奮していました。こういう物語はとても大好きです。その人がどんな経験をしてアイデンティティを手に入れていくのか、そこに人間をやることの楽しみを見いだせるので。

最初は白黒の映像の中でベラは生活を送っていましたが、「外の世界を見たい」という欲求のもと、ロンドンの家を飛び出していきます。彼女がリスボンの地を踏んでから、色がついた映像に変わりますが、これがまあ綺麗。水槽を覗くシーンでの青の透明さ、すごくないですか。ホテルを出てからサングラスをかけていたベラですが、ここで青い水を泳ぐ魚を見るために外しています。ついに、外の世界を知れたということでしょうか。めちゃめちゃうまいエッグタルトを好きなだけ食べて、ベランダで女性が弾いているギターの音に惹かれ、見晴らしの良い風景を見ながらゲロを吐いちゃうベラ。最高です。なんとなく、サルトルの「嘔吐」を思い出しました。自由な自分を身体いっぱいに感じたのかな。


しかし、個人的にラストシーンについてすごい考えてしまいました。めちゃくちゃ話したい。
冒険をしていく中で、最後に前世のとき(ヴィクトリアと呼ばれていたとき)の夫であった将軍のもとへベラは出向きました。将軍、めちゃめちゃ嫌なやつでした。すぐ人を銃で脅すし、妻であるベラを所有している領土だとまるで人間扱いしてないし、クソのカス。優しさは退屈らしいですけど、おまえが言うとなんかやだわ!といった具合で、ヘイトが溜まります。そんな将軍を、ベラはうまいこと拘束してなんと彼の頭にヤギの脳を入れてしまうのです。「進歩」のために。

このラストシーンを観て、これでよかったんだろうと思う反面、これでよかったのか……?という疑問が残りました。

まず、ベラは帰郷した際に、自分の出自についてはじめて知りました。ヴィクトリアが宿していた胎児こそがベラであり、本来死んでいたはずだったのがゴッドの手によって、同意なく生まれ直す形になっていたのです。死を選んだヴィクトリアの意思を無視し、動物として実験するかのような非人道的な行為に、ベラは憤慨し「モンスターども」と罵りました。しかし、彼女もまたヘイト将軍に対して同意なくヤギの脳を移し、これを人間の進歩であると捉えます。将軍がよりよくなるためにヤギとして生きることが進歩になる、人間はよりよくなるために進歩していくとベラがこれまでの旅で学んできたことがうかがえます(もしかしたらここ間違った見方をしてるかもしれないが)。そして、ベラたち権力を持たない者が権力を持つ者に勝つという意味で、ハッピーエンドになっています。ですが、結果的にやっていること自体は自分が「モンスターども」と罵った人たちと同じですから、このハッピーエンドを手放しで賞賛してもよいのだろうか?と思ってしまいます。

また、こうした物語に触れるとき、私はいつも権力を持たない者として権力を持つ者に屈服せずに抗い続ける視点でいることがほとんどです。多くは主人公に感情移入したり、物語を全体的に見て「こんなのありえないよ、作者〜なんとかしてくれえ〜」と思ったりしてます。けれど、「同意のない脳交換」をされるのは映画の中の悪役だけではありません。被害者として物語を見ている私にも差し迫る可能性がまったくないわけではないからです。もしかしたら、自分がそっち側にいるかもしれない。被害者でありながら、別の視点で見れば私は加害者になりうるかもしれないからです。というか、なってると思います。迷惑をかけずに生きられる人間はいないと思っているので……。

そして、私がこうしたラストシーンの見方になったのは、女性の解放としての物語というよりは、あらゆる人間へのプラスな方向の可能性をはらんだ物語だと捉えたからだと思います。今回は、男性の所有欲が垣間見られることで、抑圧された女性の姿が描かれていました。こうした抑圧する/される関係は男女に限らないし、ベラという人物が男女の視点でつくられたキャラというよりは抑圧から解放されるあらゆる人間の姿として描かれているように感じました。良識ある社会はクソ、そうだよねえ……。

長文でグチグチ書きましたが、この作品大好きです。ひとりの人間が人生を、アイデンティティを獲得していくのって良くても悪くてもロマンチックに見えます。最初はカエルを殺して何事もなかったかのようにアハハ!と笑うベラが、いや〜な将軍を助けるようになるの、どんな経験があったのだろうと興味深くなりませんか。みんながベラみたいに生きたら、どんな社会になるのだろう。とってもおもしろい映画でした!なんか賞とってくれーーー!!!

それでは!瓶宮でした!

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