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あはき柔整広告ガイドライン(案)におけるSNS投稿の規制は実名での学術・臨床議論を萎縮させるおそれがある。

厚労省の広告検討会で、あはき柔整の広告ガイドライン(案)が公開されたのはすでに書いたとおり。

あはき・柔整広告ガイドラインに記載する内容(案)[PDF]


ネットは原則として医療広告ガイドラインに準じた規制

国家資格者に対する広告規制案だが、ネットに関してはおよそ医療広告ガイドラインに準じたものとなっている。
具体的に挙げると

  • 症状に関する体験談掲載の禁止(p37)

  • ビフォーアフター写真の原則禁止(p35)

  • 比較優良広告の禁止(p36)

といった感じである。

あはき柔整広告規制と医療広告規制における認知性の違い

医療広告の規制対象は

  • 患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)

  • 医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)

を満たすものであり、下記の要件を満たした場合には広告可能事項の限定解除がされる。

  • 医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること

  • 表示される情報の内容について、患者等が容易に照会ができるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること

  •  自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること

  • 自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

詳しくは下記ページ掲載のPDFを参照のこと。

後述する、あはき柔整広告の用語を使って説明するなら「認知性」が無いことが医療広告の限定解除には必須である。

医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第4版)[PDF]ではSNS投稿も限定解除の対象にしていることから、医療法ではSNS投稿を「患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告」と認めている、言い換えれば、SNS投稿には認知性が無いと認めている、と言える。

医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書 (第4版)p59

一方、あはき師法第7条及び柔整師法第 24 条の対象となる広告は

  1. 施術者又は施術所が、自ら又は第三者をして利用者を自らの施術所に誘
    引する意図があること 【誘引性】

  2. 施術者の氏名又は施術所の名称が特定可能であること 【特定性】

  3.  一般人が認知できる状態にあること 【認知性】

を全て満たすものである。
認知性の有無が医療広告との大きな違いである
そしてあはき柔整の広告規制には広告規制の限定解除という考えが無い。
認知性が無ければあはき法、柔整師法の規制対象では無い。
今までウェブサイトは認知性が無いということで広告規制の対象でなかったし、本件ガイドライン(案)でも同様である。

(6) インターネット上の情報提供に関する基本的な考え方
インターネット上の施術所等のウェブサイト等は、当該施術所等の情報を得ようとの目的を有する者が、自らURLを入力したり、検索サイトで検索した上で閲覧するものであるため、本指針第Ⅱの1に掲げた③の「認知性」を満たさないものとして、従来より情報提供や広報として扱ってきた。これらについては、引き続き原則として広告とは見なさないこととする。
ただし、本指針第Ⅵに記載のとおり、バナー広告等(本指針第Ⅵにおいて定義する。)や SNS での書き込み等については、本指針第Ⅱの1に掲げた①から③までのいずれの要件も満たす場合には、広告として取り扱うこととする。インターネット上のウェブサイト等に関する考え方等については、本指針第Ⅵを参照されたい。

広告ガイドライン案p10

SNSの投稿は認知性を満たすと言う考え方

広告ガイドライン(案)ではSNS投稿に関し、

イ SNS での書き込み等
SNS での書き込み等については、公開範囲が限られていないものと、公開範囲が限られているものがある。
公開範囲が限られていない場合には、公開時から一般人が認識可能な状態であることから、本指針第Ⅱの1に掲げた①から③までのいずれの要件も満たす場合には、広告として取り扱うこと

公開範囲が限られている場合に関しても、公開時においては公開範囲に含まれる者のみが閲覧することとなるが、SNS の性質上、公開範囲に含まれる者が自ら当該書き込み等の情報を求めるものではない上、閲覧者が、当該書き込みについて何らかの反応を起こすことで、2次的、3次的に伝達されることから、本指針第Ⅱの1に掲げた③の要件を満たすものであり、さらに第Ⅱの1に掲げた①及び②の要件を満たす場合には、広告として取り扱うこと。

広告ガイドライン(案)p32

と、SNSの投稿は認知性を満たすとしている
筆者としてはこの考えは肯定できない。

SNS投稿は実際に認知性を満たすのか?

まず前述したように、医療広告ではSNS投稿に関し、認知性を認めていない

SNSで投稿が確実に表示されるのはフォロワーのみである。
Twitter(現X)では「おすすめ」のタイムラインでフォローしているユーザー以外の投稿も表示されるが、投稿側はこれを無償でコントロール(投稿の強制表示)することができない
プロモーション広告であれば意図的にユーザーの属性・地域などを指定して表示させることが可能であり、この場合には認知性を認めることが相当と考える。
しかし通常の投稿は前述のとおりであるから、ユーザーの投稿を見たいと思う者のみがフォローしていると考えるべきだろう。

「2次的、3次的に伝達される」というのはSNSのシェア機能(RTなど)によるものであろう。
しかしシェアを行うのは閲覧者である。投稿者がコントロールできることではない。「拡散希望」などと書いているのであれば不特定多数へ表示させることを意図していると言えるが。

閲覧者が共有することができることを理由として認知性を認めるなら、通常のウェブサイトもリンクを貼る形で共有可能なのである。
院内パンフレットも利用者が知人に渡すこともできる。

施術者の氏名で特定性を満たすことについて

広告ガイドライン(案)では

② 施術者の氏名又は施術所の名称が特定可能であること 【特定性】

広告ガイドライン(案)p5

と「施術者の氏名」が特定可能であることをもって特定性を満たすとしている。
「施術所の名称」とセットでならともかく、氏名のみで特定性を満たすとした場合、あはき師や柔整師の、実名でのSNS利用に著しい制限を設けることになりかねない。
また実名でのSNS利用の場合、勤務先や所属を公開して利用している人は多い。施術所併記のみを制限するとしても、一般人よりも著しい制限を受けることになる。

誘引性の有無をどう判断するか。

あはき法上の広告は誘引性、特定性、認知性のいずれも満たす場合のみ規制対象である。なので実名でのSNS投稿において、誘引性のある投稿をしなければ良いのではないか、という考えもわかる。

しかし施術等について論じる場合、誘引性を客観的に否定できるだろうか?
とりわけ自らが行なって効果があった施術方法を投稿する場合、例えそれが学術や研修を目的にしていたとしても施術者や施術所が特定可能な場合、誘引目的が無いとは判断しづらい。

(1) 学術論文、学術発表等
学会や専門誌等で発表される学術論文、ポスター、講演等は、社会通念
上、広告と見なされることはない。これらは、特定の施術所等(複数の場
合を含む。)に対する利用者を増やすことを目的としているとは認められ
ず、本指針第Ⅱの1に掲げた①から③までの要件のうち、①の「誘引性」
を有さないため、本指針上も原則として、広告に該当しないものである。

ただし、学術論文等を装いつつ、不特定多数にダイレクトメールで送る
等により、実際には特定の施術所等(複数の場合を含む。)に対する利用者
を増やすことを目的としていると認められる場合には、①の「誘引性」を
有すると判断
し、①から③までの要件を満たす場合には、広告として扱う
ことが適当である。

広告ガイドライン(案)p9

フォロワーをコントロールできない

Facebookのように、相互承認型であれば友達を限定することも可能であるが、通常の人であれば広告規制を意識して友達を限定することなんてしない。

またTwitterでは公開アカウントの場合、フォロワーを選ぶことはできない。誘引性を否定するためにフォロワーを制限することができない。

これが施術所のアカウントであれば誘引目的とみなしても良かろうが、施術者が自然人として運営しているアカウントの投稿まで認知性を認め、施術等の投稿について誘引性があるとみなすのは如何なものか。
もはや憲法21条違反では無いのか。

まとめ(弊害)

本ガイドライン(案)にそって、SNS投稿を認知性があると判断した場合、あはき法の広告規制違反(刑事犯)になることを恐れ、SNSにおける実名での学術や臨床の議論が萎縮する恐れがある。

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