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【6】 バーベリン・ホテルの出迎え / アーユルヴェーダ in スリランカ 〜人生を変える医療~


ホテルの玄関の池にはスリランカの国花でもある蓮の花が青紫色を帯びて咲いている。

蓮の花は仏教においてとても大切にされている花で、泥水の中から美しく咲く蓮の花を”苦しい人生だからこそ美しい花が咲く”という例えで表現すると聞いたが事がある。それに蓮の花の開花してる期間は確か4、5日間だったはずだけれども、もしもこれが勘違いでなければ、彼らのこの姿は僕を出向かえてくれているのではないだろうか。朝日に包まれ戯れ咲く蓮の花達は僕を再び夢の中に誘い込んだ。すると突然僕の眼の前に一輪の大きな白い蓮の花が現れた。

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「 Welcome to Barberyn resort 」

(ウェルカムトゥー・バーベリンリゾート)


鼻先に甘い香りを感じる。その白い蓮の花の茎の先には眩いオレンジ色のサリーを着た可愛らしいスリランカの女性が微笑みながら立っていた。

そっと彼女が僕の鼻先に差し出す白い蓮の花は、思ったよりも爽やかな甘さで、その爽やかさを帯びた甘さが僕の鼻の奥を優しく包み込んだ。それはゆっくりと寝不足と緊張で倒れてしまうそうな僕の身体に染み渡り、ほんの少しだけ身体の疲れを癒してくれる気がした。

彼女はそっと僕の右手にその白い蓮の花を手渡すと、こちらです、と言うかのように右手でチェックインフロントを指し示した。

潮の匂いを含んだ柔かな風がどこからともなくフロントで佇む僕の頬を打った。この風の行くヘを阻む僕の反対側の遠くの先に青い海が広がっているのが見える。どうやらロビーを含むこの建物全体が横に吹き抜けになっているようで、時折ビュッと強い海風が建物全体を通り抜けるのを感じる。天井もまた所々吹き抜けになっているようで、その隙間から差し込む朝の強い日差しが真っ白な壁に反射して優しい光の色に姿を変える。まるで空間全体を包み込み部屋の色彩を1トーン上げているようだ。それに所々に飾られた極彩飾の熱帯の花々が香り立ち、辺り一面を覆う真っ白な壁をキャンバスとして絵画のように佇んでいる。

でも今ここで僕が感じている”美しい”と感じている感覚にはまだ何か足りないようだ。

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僕は遠くで見える海が波打つ姿を見つめた。大きくうねる波が砂浜を叩く。そして波が波をさらっていく。その繰り返される姿を背景に耳の奥には波の姿に呼応したリズムもまた繰り返し刻まれる。波が砂浜を叩く音、波が波をさらう音。そしてまた砂浜を叩く音。月のリズムを反射する海の音が僕の中で鳴り響いた。


波のリズムを察知して、チチチとチュチュチュと動物達が鳴き声がホテルの庭でこだまする。鳥なのかリスなのか、波のリズムを背景に、時折ビュッと通り抜ける風の音に乗せられて彼らの歌声が僕の元にも届けられる。
ここには多くの自然の音が存在する。自然の音色が存在する。ここでは色は目に見えるものだけではなく、聞こえるものとしても存在するのか。

ただこうしてロビーに立っているだけでもとても心が穏やかになって行くのが分かった。


「来て良かった。」


着いて間もなく僕は既にそんな気持ちになっていった。東京で耳を澄ましても聞こえてくる音は車が走る音や人々の雑踏ばかり。僕の身体もそんな音を遮断しようと耳に意識を向けることはなかった。でも美しい自然の音が広がるこの場所では、身体もその音色を捉えようと意識が、耳が、勝手に音に向いていくのを感じる。自然の音色がこんなに心穏やかにしてくれるのだと始めて知った気がした。バーベリンホテルは、景色と匂いと音色で僕を出迎えてくれた。


ハスの池



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今回僕がお世話になるのはBAEBERYN AYURVEDA RESORT (バーベリン・アーユルヴェーダ・リゾート)という名のアーユルヴェーダ施設だ。BARBERYN AYURVEDA RESORTは僕が滞在する REEF(リーフ)という名のホテルとBEACH(ビーチ)と言うなのホテルをスリランカの西側と東側にそれぞれ構え、スリランカ初のアーユルヴェーダリゾート施設として歴史のあるホテルでもある。


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http://www.barberynresorts.com


僕がここにした理由は、ウェブサイトが日本語の対応をしていたのと、日本語を話せるスタッフ在中していると記載してあった為、何かと便利だろうと思ったからである。それに単純にスリランカ初めてのアーユルヴェーダ施設というブランドに惹かれただけであった。

リーフとビーチ、2つある施設のうちどちらでも良かったのだが、僕は予約は宿泊の一週間前の急な予約だった為、リーフの部屋しか空いておらず自動的にこちらの滞在となった。片方はビーチと言う名ではあるが、両施設とも海に面しており、バーベリン・リーフが最初にできたホテルで後にバーベリン・ビーチが新たに建設されたようだ。しかしバーベリン・リーフも最近リニューアルしたようで古さは全く感じない。


バーベリン・リーゾートホテル(以下 : バーベリン )ではホテルという名ではあるが、基本的には病院のような滞在者の身体の治療や療養を目的とした施設だ。その為にアーユルヴェーダの効果を発揮する2週間以上の滞在と言うのが最低の滞在に日数と決められているが、増加傾向にある日本人客に対応して1週間から10日間も滞在も最近受け入れるようになったらしい。欧米人は最低2週間~1ヶ月の滞在者がほとんどなのだ。僕はここで3週間滞在することになっている。


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僕がロビーでチェックインを済ませると白い制服を着た恰幅の良いおじさんが僕の横に現れた。彼はこのホテルの支配人だと名乗り、おじさんはロビーに置かれた大きな椅子へ僕を案内しこのホテルでカリキュラムを説明し始めた。


「えぇーと、貴方は患者番号3番ですからね。この番号だけはしっかり覚えておいてくださいね。」


僕はまず彼が放ったその最初の言葉に驚いた。僕は病気で苦しんでいるのは間違えないのだが、このリゾートホテルの佇まいをしたこの場所でまさか患者扱いされるとは思ってもいなかった。と言うより、ホテルに着いて予想以上にモダンで綺麗なホテルの建物にここに来た意味を見失っていた。ここはあくまで病院なのだ。そんな驚いている僕に脇目もふらず、彼は説明を続ける。

「まず患者の皆さんには初めに担当のドクターに診察してもらいます。その診察で、自身の体質体調に沿った治療方法、薬、食事内容が決められ、それを滞在中受け続けてもらいます。その間も定期的に担当のドクターに診察してもらい、状況をアップデートしてください。身体の反応を見ながら治療を方針を決めて行きますので。貴方は3週間の滞在の為、それに合わせたメニューになります。貴方は日本人なのに珍しですね。日本人は皆さんは1週間とか10日を希望するのでそれなりに効果が薄まってしまいます。アーユルヴェーダは2週間から本来の効果が発揮されますからね。貴方はラッキーですよ。」


そう言えば、事前のメールでも2週間以上の滞在を推奨しますと書いてあった。そりゃあビジネス的にも客に長く滞在してもらったほうが、経営する側にもメリットは大きいが、実際に来た人にもこう何度も2週間という言葉を意識させるには何か深い訳があるのだろうか。1週間と2週間、一体その違いはなんのだろうか。アーユルヴェーダの理論において2週間で人間の細胞が変化すると考えているであろうか。アーユルヴェーダに対して無知すぎる僕は、その2週間と妙に意識付けされる言葉の意味が気になった。

それぞれの患者に治療(トリートメント)の時間が割り当てられ、僕の治療の時間割は、午前中にアーユルヴェーダの治療、午後からは鍼の治療に当てられるようになった。トリートメント以外の時間は基本的に自由時間になる。トリートメント以外のリラクゼーションとして毎朝と毎夕のヨガのクラスがあり、その他にも太極拳のクラスや、スリランカの僧侶を招いての瞑想のクラス、アーユルヴェーダの知識を勉強できるクラス、それに近隣の川でのボートトリップや近くの街までのツアーも等、様々なカリキュラムも用意してあるというのは驚きだった。


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しかし詳しく話を聞くと、それはホテルが提供する以上のアクティビティーはしないでと暗に示していた。それにトリートメント中はあまり日光に当たる事も推奨しておらず、日光もできるだけ午前中だけと限定されてしまった。「午前の光は人間に活力を与えるが、午後からの光は治療中の身体へのダメージになりかねない」と。それは海に入るのも午前中だけど言う事になり、ホテルの外への外出も基本的には推奨していない。それに多くの人がまいるのが、携帯やコンピューターもできるだけ触らないで欲しいとの事だ。治療に専念したいのであれば、本は良いがデジタル機器はあまり触れないで欲しいと言われた。完全なリゾート気分で来る人はこのあまりにも多い注意事項に面を食らうだろう。

そして支配人は付け加えて言った。

「シロダーラと言う治療の中盤に行うトリートメントでは脳に強い刺激を与えますので、シロダーラの最中には風にも当たらないでくださいね。」

「じゃあ、何すればいいの?」という僕の問いには「眼をつむって部屋で瞑想でもしていてください。本も駄目ですよ。」と。

僕はとんでもない所に来てしまったようだ。


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耳鳴りがしてきた。


支配人の言葉がだんだん頭に入らなくなってきた。僕の身体は限界に達していた。到着時のホテルの雰囲気とスタッフの心地良さに一瞬気が紛れていたが、ホテルに到着し気が抜けはじめた今、一気に身体の力が抜け落ちそうだ。僕はその場に倒れ込みそうになった。


常にある身体中の痛みに加え、前日から寝ていない意識が朦朧とする中で、つどむりやりな緊張感を身体に与続け意識を絞って自宅からの道中を進んできた。普段の東京での生活ではコンビニにジュースを買いに行くだけでも一苦労で、普通ならばスリランカに来れる身体の状態ではなかっただろう。しかし何故だか僕はスリランカに行きアーユルヴェーダを受ければ病は回復すると信じてここまで来た。正直、何故そう思ったのかその理由は分からない。


藁をもすがる思いといえばその通りだった。今その目的のホテルに着いて緊張の糸が切れようとしている。それを察したのか支配人は話を早々に切り上げ、ポーターに僕を部屋に連れていくように伝えた。


部屋に着くと同時に僕はベッドに倒れこみ意識を失った。


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