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パン屋での出来事「取られたー」と言う女

先日、あるパン屋に行ってきた。そのパン屋はクリームが入ったクロワッサンが有名で土日には長い列ができる。最近はどこで知ったのか外国人観光客の姿も多く見られるようになった。

わたしは普段平日にそのパン屋に行くのだが(列に並ぶのが嫌なので)、その日は日曜日に行ってしまった。長い列を見て「しまった今日は日曜日か」と少し悩んだが、どうしても食べたいパンがあったので並ぶことにした。

そのパン屋は自らトングで取るのではなく、店員さんが取ってくれるタイプのパン屋だ。ケーキ屋さんをイメージするとわかりやすいかも。だから少々時間がかかる。

次々とショーケースにあるパンが減っていき、人気のクロワッサンは残り1つとなっていた。10分ほど並んで、次がわたしの番というところまできた。そしてわたしの前に並んでいるおばさんがクロワッサンを買ったことにより、ショーケースから人気者がいなくなってしまった。

こういうことはよくあることだ。わたしはこの時クロワッサンを買おうと思っていなかったので(もしあったら買っていたかもしれないが)、特に「残念」とは思わなかった。

だがわたしの後ろに並んでいた若い女性が「ああー取られたー」と、周りに聞こえるか聞こえないか際どい声の大きさでそう言った。

わたしはこの”取られた”という言葉がどうしても気になってしまった。

”取られた”ということは、あのクロワッサンはその女性の所有物だったということである。売れる前のパンは当たり前のことだが誰のものでもない(強いていうならパン屋のものだ)。だがその女は買う前からもうすでにクロワッサンを自分のものと思っていたから、”取られた”という発言が出たのである。

(いやいやあなたのではないですよ。あのおばさんはちゃんと並んで買ってるし、そもそもそんなに買いたかったのならもっと早く来て並んでおけばよかったのでは

と心の中で正論をぶちかまし(できたら聞こえるか聞こえないかくらいの声で言いたかったが)、わたしは目当てのベトナム風サンドイッチを購入した。

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