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地獄の面談


気になるお店”ニュー盆栽”

 ある日の帰り道、気になるお店を見つけた。そのお店は盆栽のようなものを販売していた。実際には盆栽ではないのだけれども、あまり詳しく言うと特定できてしまいそうなので、”ニュースタイル盆栽”とでも言っておこう。略して”ニュー盆栽”。

 わたしは盆栽をやっていることもあり、どうしてもそのお店が気になって入ってみることにした。人が3人くらい入れる狭い店内で、スタッフと思われる女性が窓ふきをしていた。

 その女性に”ニュー盆栽”ついて質問したり簡単な自己紹介などをしていると「もうすこし”詳しいもの”がおりますので、連絡先を教えてくれませんか」という流れで連絡先を交換することになった。そしてその店をあとにした。

地獄の面談の始まり

 そして後日突然知らない番号から電話が鳴った。それはニュー盆栽に”詳しいもの”からであった。
「ぜひ面談させてほしい。」ということだった。

”面談とはどういうことだろう”とは思ったが、わたしもニュー盆栽について知りたいことがあったので、早速翌日の正午過ぎに会うことになった。

 火曜日の午後二時五分前。お店に着いた。
誰もいなかったので
「こんにちは~」と言う。返事がなかったのでもう一度
「こんにちは~!」と言う。こういう場面では何故か躊躇うことなく声を出すことができる。

 しばらくしてニュー盆栽に”詳しいもの”が出迎えてくれた。軽く挨拶をして二階へと案内された。彼は竹田さん(仮名)というらしい。
「どうぞ座りください」と竹田さんが言ったので、椅子に座る。
すると彼はぼーっと突っ立ている。

 わたしは
”なぜ彼は座らないのだろう”と不思議に思ったが、すぐに
”あっ名刺交換か!”と彼が立っている理由を理解した。一応こういう時のために用意しておいた名刺(電話番号が以前のままになっている)を彼に差出し、そして彼の名刺を受け取った。ビジネスマナーというものを避けてきたわたしにとって、こういう場面は大の苦手である。


一方通行な会話

 そしてようやく席に着いた。席に着くや否や、竹田さんは自身の経歴を話し始めた。前職のこと、役職のこと、部下に慕われていたこと。森喜朗氏が「女の人はよくしゃべる」という発言をして物議を醸したが、そんなことはない。おじさんもよくしゃべる。

 カップラーメンが軽く15個くらいできそうなくらい時間が経ったころ、ようやくわたしが自己紹介する流れになった。
「大学を卒業して東京で就職し….」と話し始めると、竹田さんは
「うちの息子が東京で働いていて…」と息子の話が始まった。たまにいる会話泥棒だ。息子の話が終わると娘の話が始まった。そして子どもの話が終わると

「こんな時間に(平日の昼間)に、自由な時間があるということは今何もしていない(ニート)ということだと思うんですけど」「くすぶっている時間は短い方が良いですよ。」

と説教じみたことを言い始めた。

 そして極めつけに
「今彼女は?そろそろ所帯を持つ年齢なんだし」と”若者に嫌われる会話術”という教科書があれば絶対に載っていそうな話ばかりしてきた。

 高田純次さんが「説教・昔話・自慢話はしないようにしている」と言っていたのを思い出した。全おっさんはこれを参考にした方が良い。


本当の面談理由

 竹田さんがわたしと面談したかった理由は説教したかったわけではなく、”ニュー盆栽”一緒にやろうというのが主な目的のようだった。わたしは盆栽の知識もあるし、ある程度英語ができて一応まだ若い。海外をターゲットにしている”ニュー盆栽”にとっては適任だったというわけである。

 しかし、竹田さんから”ニュー盆栽”について話を聞いていると、とにかくお金儲けがしたいという印象を受けた。もちろんお金を稼ぐことは大事だと思うが、それが前面に出ていて正直わたしは共感できなかった。”ニュー盆栽”の値段は普通の盆栽の相場を知っているわたしからしたら高すぎる値段で売られていた。

 お金が好きでないと言ったら嘘になるが、お金のためだけに働くということにはどうも拒絶反応が出てしまう。必要以上にお金を稼ぐということに元々そんなに興味がない。”これだからゆとり世代は”と説教されてしまいそうだがこれはいけないことなのだろうか。


地獄の面談からの学び

 二時間弱の面談が終わり、やんわりと誘いをお断りしておいた(京都人らしく)。これでよかったのだ。人の話を聞かずに、一方的に自分の話をし続けるのは相手にとってストレスになるということを身をもって理解することができた。

 また相手の気持ちや状況を勝手に思い込みで判断してはいけない。求められていないアドバイスもただの余計なお世話になる。
少なくともこれが学べただけでもよい面談だったということにしておこう。
ありがとう竹田さん(仮名)。

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