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ヴィクトリアシークレットの「闇の少女達」 の行方

    香港の逃亡犯条例反対デモ鎮圧に中国マフィアの新義安(サンイーオン)組員が駆り出されているという話があった。新義安は共産党政府寄りで14K(サップセイケイ)は国民党寄りという話もあるが、実際にはどちらも一路一帯政策に組み込まれ官憲の下働きをしている。その詳細はともかく、中国マフィアは彼等のように日本人にも分かりやすいものばかりではなく、れっきとした企業体を為しているものも多い。

    私の見た限り、日本のヤクザは兵隊が商売をしている感じ。それ以外の国のマフィアは商売人が兵隊もしている感じ。中国マフィアはまさにそれで、金があってモラルがなければ出世出来る業界のようだ。兵隊が必要なら警官を雇えばいいし、本物の兵隊だって金を積めばなんとかなる。それってタイの裏社会のことでは?と言われればその通り。その代表が潮州系華人で元風俗王のチューウィット氏だが、彼は自著「黄金のバスタブ」で警察のたかり体質を暴露し、最終的に風俗業界から足を洗うことに。現在彼所有のソープランドは少なくとも表向きは無いのだが、2018年1月12日、元々彼のものだった「ヴィクトリアシークレット」が未成年管理売春で摘発された。以下、当時のタイ語記事拙訳。

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    DSI(法務省特別捜査局)主体の合同部隊がソープランドのヴィクトリアシークレットを捜索し、113人の女性従業員を拘束、12歳のミャンマー人少女に売春を強要していたエージェントを逮捕した。捜査官は同店舗に即刻閉店を命じ、書類及びコンピューター全てを押収した。今回の捜査は売春、外国人不法就労、そして麻薬取締及び防止という政府の方針によるものだが、NGOから、「チアケーク(ソープランド内で客に嬢をあてがう役目を負う)が処女を客に紹介している」という旨の報告がDSIに寄せられていたことが直接のきっかけとなった。
    タイは米国外務省の人身売買状況評価でランクを下げてしまっているが、これも取り締まり強化の動機とされる。
    なお、所轄署の署長は、「まだ文書の報告を受けていない。知る限りでは18歳未満の少女はまだ見つかっていない」とコメントしている。

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    12歳の処女がバンコク都心部で売られていたという報道について。2016年に摘発された、少女売春で日本人に人気だったナタリーでもこんな報道は無かった。ヴィクトリアシークレットに日本人客が群がっていたという話も無し。代わりに聞こえてきたのが中国人観光客の処女爆買い。処女崇拝の強い中国系金持ちからの注文を受けて処女を密かに揃えていた模様。

    とはいっても近年法整備の進んだタイ国内では処女12歳の調達は難しい。保護された外国籍者の内訳を書くと、ミャンマー国籍96人、ラオス国籍11人、中国雲南省西双版納タイ族自治州出身2人。タイ人はわずか4人だった。後にミャンマー国籍96人について全員がシャン族と判明。2016年のナタリー摘発時より追及は厳しかった。何故なのか。当時の私は首をひねった。


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※保護された風俗嬢達。帰国してもまたタイに戻ってくる者も。


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※所轄が機能せず、かつタクシン派潰しに関連するとき活躍する印象のDSI。


    当局がヴィクトリアシークレットの書類等を調べたところ、代金割引用帳簿が見つかり、首都警察、所轄署、入管捜査官がサービスを受け、無料や半額等の接待を受けていたことが明らかになった、というところはナタリーの時と大体同じ。しかし、シャン族少女がマレーシアの健身中心と呼ばれる置屋に転売されていた実態が報道されるなど、少女と麻薬搬送ルートが重なることが「珍しく」判明してゆく。

    しかし同年1月30日、米財務省による「ジャオ・ウェイ多国籍犯罪組織」の資産差し押さえについてのプレスリリースがあった。それによればラオスのボゲーオ県にあるゴールデントライアングル経済特別区のデベロッパーであるマカオのKings Romans Group自体が犯罪組織であり、そのボスが黒龍江省生まれのジャオ・ウェイ(趙偉。1952~)。彼等は麻薬売買、人身売買、保護動物売買を行い、経営するカジノで資金洗浄を行っているということだった。


    上記リンクにその詳細はあるが、もちろん米財務省職員が身分を明かして現地調査を行った訳ではないだろう。ヴィクトリアシークレットと同じく「某NGOや人権団体」が調査を行ったがその詳細は伏せられている、と言ったところか。


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※同年2月2日、タイメディアでヴィクトリアシークレットの元オーナー、チューウィット氏が米財務省のプレスリリースについて解説。


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※番組内容は明らかにプレスリリース前に周到に用意されたもの。チューウィット氏は2013年3月1日に中国雲南省昆明で死刑になったシャン族マフィアのノーカムがジャオ・ウェイを激怒させ、ノーカムは中国とラオスの罠にはめられたとも解説。

 ノーカムとジャオ・ウェイの暗闘については下記リンクに詳細を書いたが、何故シャン族少女が売られるようになったのか大体想像はつくだろう。ノーカムは悪党なりに同胞の女子供を異民族から守っていたのだ。


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※ゴールデントライアングル経済特別区のボスで黒竜江省出身とされるジャオ・ウェイ。中国の中央電視台の番組に出演したことも。


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※米財務省が、「これがジャオ・ウェイ多国籍犯罪組織の全貌」とした組織図。


 ゴールデントライアングル経済特別区とタイ国内での中国人の犯罪は結びついていることも多いのだが、あまり直接的には報道されていない。以下、再び私のタイ語記事拙訳。

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 2018年5月10日、チェンライ地元警察は中国人のゾウ・ウェイ(25)を逮捕した。同容疑者はメーファールワン空港の入国審査ゲートで自身の荷物が疑われ、X線再検査を受けている時に突然表に走り出してタクシーに乗り込み空港から立ち去った。ゾウ容疑者の荷物を詳細に調べると出てきたのは覚せい剤約2㎏。チェンライ入管は国境の検問係員に同容疑者の画像と防犯カメラ映像を送り注意を喚起。そしてチェンセン入管捜査官はターウォン検問でラオスボゲーオ県の中国経済特別区に行こうとしていた同容疑者を発見し拘束した。
 ゾウ容疑者は嫌疑を否定し、「鞄は確かに自分のものだが麻薬は誰のものだか知らないし、何故鞄に入っていたのか分からない」と自供。捜査官はもう一度詳細な自供を取るとした。

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「ラオスボゲーオ県の中国経済特別区」がゴールデントライアングル経済特別区なのは言うまでもない。2㎏の覚せい剤密輸となると明らかに販売目的で、タイの法律に従えば終身刑に値する重罪なのだが、続報は無い。 


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※ゾウ・ウェイ容疑者(画像左)。ゴールデントライアングル経済特別区内の中国人観光客向けの商品を運んでいたと思われる。同年6月にタイ側で麻薬組織「マントゥックメット」組員が多数摘発されたが幹部は既にタチレクのワ州連合軍支配地域に逃亡していた。


 しかし、中国人ばかり責められない。何故なら、2018年5月9日、資金洗浄防止委員会はヴィクトリアシークレット事件において日本人の資産も差し押さえているから。

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