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【神奈川のこと83】雨の十二所(鎌倉市/アルペなんみんセンター)

ゴールデンウィーク前半の5月1日。自宅から十二所に向けて歩き出した。

よってこれを書く。

十二所とは「じゅうにそ」と読む。小学生の時分、鎌倉駅に行くと地元西鎌倉では見られない様々な行き先のバスが見られた。中でもちょっと読み方が難しいのが、「九品寺」「太刀洗」「桔梗山」そして「十二所」だった。「くほんじ」、「たちあらい」、「ききょうやま」とそれぞれ読み方を覚えたが、「十二所」はいつまでも「とにしょ」と勝手気ままに読んでいた。きっと違うだろうなとは分かっていたのに。「じゅうにそ」という呼び方は時に「じゅうにそう」とも言いたくなる、いやはや難しい読み方の珍しい地名だ。

朝比奈峠へと続く金沢街道が通る。交通量は多いものの、周囲を山々に囲まれていつもひっそりとした佇まいという印象だ。また、二小二中(鎌倉市立第二小学校と第二中学校)の学区で、何と言うか、仮面ライダーでいうところ「2号」のような、やや地味ながらもどっしりとした存在感のある場所だ。

鎌倉が海と山の街ならば、ここ十二所はそれを象徴する山の街なのだ。

この日、朝の天気予報では明確に午後から雨。傘マークは午後3時からとなっていたので、曇り空を見て午前中の内に出かける。

鎌倉山、笛田、常盤、佐助、御成を通り、八幡様と鎌倉シャツ本店を横目に、ガシガシと東へ向かって歩みを進める。岐れ道(わかれみち)の信号を過ぎて、西鎌倉小学校2年時の担任で大好きだった伊藤先生や高校大学の同級生、A葉が住んでいたことのあるオークラハイツが右手に見えた辺りで、ポツリと来ましたよ。ポツリ、ポツリと来ましたよ。まだ午前11時過ぎですよ。「天気予報の嘘つき」と悪態をつきたくなりましたが、そこをグッとこらえて、「そんなこともあろうかと思って」と独り言を言いながら、背負っていたリュックから折り畳み傘を優雅に取り出しましたよ。

一瞬、もう引き返すかという考えがよぎったが、ええい、ままよでそのまま傘を差しつつガシガシ歩く。朝比奈峠へと続く金沢街道。歩道が狭い。

本日のお目当ては、アルペなんみんセンター(イエズス会日本殉教者修道院)である。所属しているカトリック大船教会の信者である有川さんが同センターの事務局長をしている。タウンニュースや鎌倉朝日と言った地元の新聞にこの有川さんの記事をたびたび見かけたので、いつか訪れたいと考えていたのだ。

このセンターは、かつて、「黙想の家」と呼ばれていたが、現在は内戦などで祖国を逃れて日本にたどり着き、難民申請中の外国人たちが身を寄せる国内最大のシェルターとなっている(文章参考:鎌倉朝日2021年12月1日号より)。

ようやく入口の門までたどり着くことができたが、そこから先がひと苦労。曲がりくねった急坂を上る。ええい、ままよでガシガシ登る。

ようやく建物が見えてきた時に、ちょうど有川さんが外でたばこをくゆらせている姿が見えた。アポなしの突然の来訪に有川さんは驚きを隠せない様子であったが、すぐに、「じゃあ、ご案内しましょう」と言って傘を持ちだして敷地内を一緒に歩き出す。嬉しいです。

建物の一角に昭和40年(1965年)建造の何とも懐かしい作りの聖堂がある。そこでは地元の合唱団が練習をしていた。休憩時間となり、代表の方を紹介してもらい、ごあいさつ。その横でアフリカから来たと思われる難民の女の子が日本人の女の子たちと一緒に、ゲラゲラ笑いながら、だるまさんがころんだをやっている。楽しいです。

ちょうど昼食が始まる時間だったので、食堂には複数の難民の方々が集まってきていた。「こんにちは」とあいさつをすると、みんな笑顔で「こんにちは」と返す。その日、会うことはできなかったが、ウクライナの戦渦を逃れてきた人たちも滞在していると有川さんは言う。

帰り道、雨は本降りとなっていた。

ええい、ままよで鎌倉駅までガシガシ歩き、横須賀線に乗って大船駅へ。こだわり店主の本屋、ポルベニールブックストアにて「現代思想入門 / 千葉雅也著」という、いかにも難しそうだがそれを分かり易く解説しているなと思わせる本を購入。

その足で近くのうどん屋に入り、キリンラガー中瓶と枝豆を頼んで読み始める。酔いが回ってくるといつも使っていない感性が鋭敏になるのか、本の文字が浮かび上がってまるで踊り出すように見えてくる。そして、著者が無邪気に語るフランスの思想家についての話が、何だか無性に面白くて声を押し殺し肩を震わせ笑った。

鎌倉の西の果てから東の果てまで、曇り空と雨の中を往く。

共助と現代思想の入口に立って。

War is over, if you want it.




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