【神奈川のこと38】初恋はラッタッタに乗って(鎌倉市手広⇔津)

先週書くつもりだったが、所用で書けず。

バレンタインデーなので、初恋の話を。

昭和53年(1978年)4月、横浜のセント・ジョセフ・インターナショナルスクールから、鎌倉市立西鎌倉小学校に転校。

クラスは2年4組。

朝、図工教室に転校生とそのお母さんたちが集められた。同じクラスとなる亀ちゃんも一緒だ。彼は確か、タイ王国からの帰国子女だった。

ひとしきり説明を受け、担任の伊藤幸子先生に連れられていざ、教室へ。

ガラッと扉が開き、教室に入る。

「わ~、かっこいい」

と第一声、巨匠美術家の孫、たまきが後ろの方の席から言う。

たまきらしい一言だ。インターナショナルスクールの制服であるブレザーに赤いネクタイをしていたからだろう。あいさつ代わりに両手を上げてガッツポーズをした。

伊藤先生に促されて、亀ちゃんが黒板にチョークで自分の名前を書いた。「よし、俺も書くぞ」とチョークを手に取ろうとした時、伊藤先生が、「びっくんは英語の学校から来たので、先生が書きますね」と黒板に書いてしまった。「名前ぐらい漢字で書けるのに」とちょっとだけ悔しかった。

伊藤先生が自分の名前を書き終わるのを見届けた私は、振り返って、クラスを右手、ちょうど中庭に面した窓がある方から、時計回りと反対にぐるりと見まわした。

大きな目をしたやっこ、大人びた表情のすみ、ケーキ屋の娘ひろこ、そば屋の娘ゆみ、後に大学まで学歴が同じとなるゆきちゃん、西鎌倉のマドンナまあちゃん、やんちゃ坊主のどいとすっちゃん、人気者のおっくん、ゆたとうしおの鎌倉山コンビなどクラスメートとなる顔、顔、顔が、自分に向けられている。

そして、ぐる~っと見回した最後の最後、左手の廊下側から2列目、前から2番目の席。

そこに、天使はいた。

キリッと立ったポニーテールに、ブルーのワンピースを身にまとっていた。

静かな笑みを浮かべ、光り輝いていた。

そのまぶしさに、一発でノックアウトされた。

それが、ゆきえちゃんであった。

まるで転校してくる私と出逢うために、運命の光が包んでいるかのようだ。

数日後、「俺は〇〇〇が好きだ」とクラスのみんなの前で、ゆきえちゃんに向かって言った。〇〇〇とは彼女の苗字だ。当時はそう呼んでいた。

すると、ゆきえちゃんも「私もびっくんが好き」と迷いなく言ってくれた。

初恋成就。

遠足では、背の順かあいうえお順に並んで歩いているにも関わらず、伊藤先生が、「びっくん、前にいらっしゃい」と呼んでくれて、先頭を歩くゆきえちゃんと手を繋いで一緒に鎌倉山を歩かせてくれた。もはやクラス公認となった。

3年生以降、ゆきえちゃんとはクラスが別々となる。

西鎌倉小学校の校舎は、中庭を挟んでコの字型をしているが、いつもゆきえちゃんのクラスは中庭を挟んで反対側であった。だから、校内では滅多に会わない。

稀に廊下ですれ違う時には、即座にゆきえちゃんに気付き、「ドキッ」とするが、お互い恥ずかしいので無視し合う。恥ずかしさをごまかすために、一緒にいる友達と変にはしゃいだりして、全く気にしていないそぶりを見せた。

そして、2月14日。

「ピンポーン」と自宅の呼び鈴が鳴る。2階の自室の窓から外を見下ろすと、そこにはゆきえちゃんが、お母さんの運転するラッタッタの後ろに乗ってやってきた。チョコレートと手紙を携えて。

玄関で母親同士が世間話をする。その横でゆきえちゃんが、チョコレートと手紙を渡してくれる。家には上がらずに玄関で数分、話した。

翌月、3月14日のホワイトデーには、地元の洋菓子屋「ハニーグレース」でお返しのクッキーを買い、自転車で、鎖大師の目と鼻の先にある手広のゆきえちゃん家を訪れた。

学校では一切話さず、年に2回、2月14日と3月14日だけ、お互いの恋を確かめ合う。それは、3年生、4年生、5年生と続いた。

6年生になると、思春期の入口で、恋愛や異性に対して強い興味関心があるくせに、男友達の前で「俺はもう〇〇〇は好きじゃない」なんて言ってしまった。本当はそんな気持ちはなかった。ゆきえちゃんも何かを察したか、6年生の2月14日には、ラッタッタが自宅前に来ることはなかった。

あれは確か5年生の時だった。3年生以降になって一度だけ、学校の中でゆきえちゃんと話した。

運動会のリレーの選手に選ばれると、昼休みの前に選手だけの練習があった。校庭に向かうため、誰もいない昇降口に降りると、そこに体操着姿のゆきえちゃんがいた。いつものように「ドキッ」とした。周囲をさっと見渡せば、誰もいない。そのことをお互いが素早く確認した。

「びっくん、リレーの選手になったんだね」

「うん、〇〇〇も?」

「そう」

「がんばろうね」

「うん、〇〇〇もね」

昭和53年(1978年)4月の運命の出逢いから、4年間続いた初恋。

地元の洋菓子屋「ハニーグレース」はもう無くなってしまった。ただ、あの優しい味わいはいつまでも記憶に残っている。初恋の思い出と共に。

♪When you wish upon a star. Makes no difference who you are.♪




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