【神奈川のこと15】太古の丘にたたずむ蕎麦処(海老名市)

平成22年(2010年)頃から、毎年のように通っている蕎麦屋がある。

母校、東海大相模高校陸上競技部OBOG会の幹事会が開かれる場所。

13期上のOBOG会長、10期上の会計担当の両先輩と共に年に1,2回訪れる。

その名は、「国分寺そば」。

海老名駅から徒歩15分ほどの丘の上にある。

場所、料理、酒、人、皆良い。

行き始めた頃は、慣れぬ海老名という土地に少々まごつき、駅からの道を間違えたりしたが、今はもう、目をつぶってでもたどり着ける。

昨日は職場から行ったので、新宿駅から、最近開通したJR・相鉄線直通の「特急海老名行」に乗り込んだ。空いている車内では、地元の図書館で借りた、瀬戸内寂聴の「美は乱調にあり」を読みながら静かに過ごす。

約1時間ほどで終点、海老名駅に到着。改札を出て、左側の階段を下り、相鉄線の線路沿い、かしわ台方面に戻るように歩く。途中、居酒屋から漂う焼き鳥の匂いが、ビールへの想いをかき立てる。堂々と建っているラブホテルの前を通ると、背後から、JR埼京線の車両が自慢気に「特急新宿」と行先を誇示するように、ゆっくりと追い越していく。その向こうを小田急ロマンスカーが、涼しい顔をして優雅に新宿方面へ走っていくのが見えた。

丘を登る。正面に大きな入道雲。9月なのに、まだ空は夏だ。登り切ったら、路地を右へ折れる。するとそこから世界が少し変わる。路地は、かなりの昔から存在している道を舗装したと思われ、右手には、敷地内に朱色の鳥居がある大きな旧家、左側は家やアパートが建っているものの、台地が広がっていることがうかがえる。何か「太古」を感じさせる雰囲気がこの辺りにある。道沿いの少し先に大きな木が立っていて、ひときわ緑が多くなっている。そこに「国分寺そば」はあり、そこだけ時が止まったようにたたずんでいるのだ。

蚊取り線香がたかれた外の待合では、17:00の開店前でも、すでに複数名のお客さんが待っていた。

時間となり、入店。秘伝大豆をつまみにエビスビールで乾杯。そばサラダ、そばがき、玉子焼き、ごぼうの天ぷら、鱧の天ぷら、鴨ねぎ、湯葉の刺身などを肴に、キーンと冷やした地酒の「いづみ橋」で喉を潤す。この「いづみ橋」がここで飲むと絶妙に旨い。そして、なぜか、これらの肴に合う、赤ワインも一緒に頼んじゃう。めくるめく酔いの心地よさと、10年来のお付き合いとは言え、高校の大先輩たちと一緒にいるあらかじめの緊張感が同居する。もちろん、最後はそばとそば茶で締める。

黒いユニフォームを身にまとった、女性の店員たちは独自の雰囲気を持っている。凛とした日本女性の強さとしなやかさ、そして美しさを感じさせるのだ。

私たちがいた2時間余りの間も、お客さんが入れ代わり立ち代わりあって、常に満席。多くのお客さんがこの店を愛していることが分かる。

帰りの相鉄線では、いつも熟睡し、天王町か西横浜を通り過ぎたあたりでたいがい目覚めるのだ。

一週間の仕事の疲れと、この時期に外食することへの慣れない緊張感からか、昨日はいつもより酔った。

帰宅したら、妻から「海老名の方は雨大丈夫だった?」と言われ、その優しい気遣いに嬉しい気持ちとなったのも束の間、「ところでお土産は?」と言われて、返す言葉もなく、酔っててよく分かんないという仕草をして自室に逃げた。





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