01.終わりのない序章~STAY LOOP~
「始めてしまった物語を終わらせるには、長く続け過ぎてしまったようだ...」
※この時期に作っていた曲を再生しながら読んでいただけたら幸いです
「こんなこといつまで続けてるんだろう...誰か終わらせてくれないかなあ」
ベットに置いたノートパソコンのディスプレイを虚ろな眼で追いながらMISAKIは希望のない言葉を頭に浮かべた
空腹でネガティブな考えが頭を満たし始めたので、昼食でも作ろうかと4度は考えたが考え直して今に至る。ベッドに横たわる 25 歳。午後 4 時。昼食も夕食と一緒になりそうな時間。陽が暮れるのは待ってはくれないし、過ぎてしまった昼食の時間は取り戻せない...人生と日没とがリンクして気が滅入る。
「才能無い人は周りの人に迷惑かけるから辞めたほうが良いよ」
悪い考えが浮かんだ瞬間、昔の嫌な記憶が連動して蘇る。こんな漫画やドラマに出てくるようなセリフを発したのはMISAKIが音楽で生活していこうとメジャーデビューを目指していた時に出会ったプロデューサーだ。
「この歳で売れてないってことはこの先も売れないってことだよ」
トラウマの連鎖が止まらない。
はじめは「君たちは才能がある!一緒に CD をレコーディングしてメジャーデビューを目指そう!」なんて言ってた大手レコード会 社のプロデューサーも CD が売れず契約することができないとなると一気に言葉も態度も変わる。
結果を出せなかった自分は何を言われても反論することができな い。事実、この歳になってもメジャーデビューはもちろん音楽で生活なんてできてないのだから、そのありがたいアドバイスを受け止めて音楽から足を洗ってい るのが普通だろう。
しかしMISAKIはノートパソコンで曲を作っている。
夢を諦めきれず、ダラダラとただただ続けている。このまま続けれていけばいつか日の目をみる!という見通しもないまま、なんとなく続けて。
「やめ方がわからないよ...誰か教えて」
ベットに横になりながら作る曲なんて人を感動させることができるはずなんてないのに...。そんなことにも気づかないほどミサキは弱っていた。昔言われた暴言 を繰り返し繰り返し反芻してはネガティブの深い闇に毎日沈んでいたのだ。外にでるのもコンビニに漫画雑誌を立ち読みに行くくらいで、髭も生えっぱなし、お風呂に一週間入らないことも今や日常。
何も思わない。外見については無頓着なくせに、内面は穏やかじゃない。知り合いに会いたくないから外出は最小限に控え、 近所の人にもジロジロみられてるのでないかと被害妄想気味。
「どうせ僕は社会人じゃない」
最近頭の中に鳴り響くネガティブワード。
そんな自分勝手な被害妄想の原因は一緒にメジャーデビューを目指していたバンドのボーカル「zumiyoshi」が就職し遠くに引っ越してしまったこと。小学校の先生になるために教員採用試験を受け、合格したのだ。まさに社会人。MISAKIとは正反対。
zumiyoshiが近くにいた頃はzumiyoshiの書いた歌詞とメロディーをMISAKIがパソコンでアレンジして曲を完成させていた。zumiyoshiの作るメロディー歌詞は今、聞 き直しても素晴らしい。素直に天才だと思う。そんな才能のあるzumiyoshiの作ったメロディーと歌詞とMISAKIのアレンジが合わさった共同作業でバンドは成り立っ ていた。バンドがメジャーデビューのレールから外れた後もそれはかわらなかった。
そして、zumiyoshiが就職で遠くにいったあと、曲を作ろうかとパソコンを立ち上げてはみたもののメロディーが無い。そういえば歌詞が無い。っていうか仮にメロディーと歌詞があったとしてもボーカルがいない。
「おお...」
「マジか...」
MISAKIは今まで曲を作ったことが無い。歌詞も作ったことがない。しかも歌が死ぬほど音痴。小学校の頃に音楽の授業で一人づつ歌わされたときに声が震えてみ んなにコソコソ笑われて以来人前で歌うことはなかった。カラオケも行かない。みんなで行くことになったら帰る。即、帰る。
「なんで今まで曲を作らなかったんだろう」
「こんなことになるんだったら作詞と作曲やっておけばよかった」 っていうよりかまず「これじゃ曲作れない、どうしよう」だった。
音楽で生きていきたいのに、曲を生み出せない。根源的悩みかつ、致命的である。
それでもMISAKIは諦めなかった。ポジティブという他ないくらい諦めることを知らない。
「ボーカルが無いなら見つけるしかない」
MISAKIはメジャーデビューの挫折で疲れていた。ボーカルのzumiyoshiは最高のボーカル・作曲者だし、自分も最高のトラックメイカーだ。それは間違いない。そんな最高のメンバーでもダメだったんだからメジャーはもう無理だろう...っていうか「zumiyoshiよりいいボーカル探すの無理だろ」昔のバンド仲間でボーカルを 探すという選択肢は無かった。自分の才能を信じていて、プライドが無駄に高い。MISAKIは結構面倒くさい奴になっていた。
そんなメンバー探しに疲れていたMISAKIが見つけたボーカルがボーカロイド。なんと VOCALOID。人間じゃない。プログラミングソフト。 しかもネットで注文した。ダウンロード販売。
ボーカルが近くにいなかったからボーカロイドを買って歌わせたら大ヒット。いきなり 100 万回再生。メジャーデビュー。 そんなどこかで聞いたようなシンデレラストーリーを描いていたのかMISAKIは超メジャーボーカロイドソフト「新音イフ」を購入しインストールしていた。
「よし、これで曲が作れる!」
「やっとスタート地点だ」
無事インストールも終えて、昔バンドで作ったオリジナル曲のボーカルパートを新音イフに打ち込み直して完成!慣れない行程も楽しみながら無事ニコニコ動画にアップロード。
一週間ほど経ってニコニコ動画に行ってみると...
コメント「いい曲!」
コメント「良曲の予感」
コメント「GJ!」
コメント「期待の新人」 無名の新人でも聞いてくれるリスナーがいる。
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