日本語教師日記109. 今なら困らないけれど(2)「泡は要りません」の人。
二人で一緒に喫茶店に入ったが、自分だけ注文することになった、と言う経験があります。
トライアルレッスンのために、初対面はカフェでとか、
帰国前のお土産ショッピングにつきあったとか、とにかく、
外国人に日本人が付き添っているという形になっていました。
こちらは自然、責任を感じています。
庇おうとか守ろうとか、カバーしようという
職業病的なまでのものがあったのは確かです。
一回目の時は、日本語が全くできない人で、私に向かって、
「何も要りません。水でいいです」
と言いました。
「いや、要らなくても頼もうよ」と言えるほどの間ではなく、
どうするのが一番いいのだろう
世界ではこれもありなのかしら・・などと考えながら、
結局私が2品を頼みました。
西麻布のホブソンズ、もう20年ぐらい前の話です。
別のときは、日本語がよくできる人でしたが、
注文を取りに来た喫茶店のご主人に これまた
「水でいいです」
と言いました。
ご主人は、
「皆様にご注文いただいていますので、申し訳ありません」
と言い(当然ですね)、3〜400円の飲み物のことで交渉することもないと思い、また私が2品頼みました。
一回目の時から随分経っていたのに、私の方に、
対応する力が備わっていなかったわけです。
二人とも本当にお腹がいっぱいだったりしたのでしょうが、
喫茶店は喉の渇きを癒すとか、空腹をを満たすためと言うよりも、
オープンと維持に投資した「居場所」を使うためのレンタル料、
いう面もあるでしょうから、
何も頼まないのは、どう理解したらいいのでしょう。
人件費も光熱費も維持費も必ずかかっていますしね。
飲食店に入って席につきながら、何も注文しない・・・。
自分のお国では、それは普通に通用することなのか。
日本にいて、保護者的な人とよく一緒にいるようになったため生まれた、
新習慣だったのでしょうか。
例えば、一人で喫茶店に入り、お水を飲み、テーブルを占有使用し、
なんならトイレなども使いながら、
何も注文しません。
ということができる、強心臓の人はたくさんいるのでしょうか。
同僚の日本人教師の友人たちから、
あの「お水でいいです」が出ると、ドキッとするよね。
と、聞いたことはあります。
今は激減しているだろうカフェレッスンでこれをされると、
私なら落ち着かなくて辛いです。
そうだ、今度「お水でいいです」の人と出会ったら、今度こそ直接
なぜ?
一人でもそれをやりますか?
お国ではそれは普通ですか?
ってちゃんと訊いてみよう。
もう一つは、「泡が要らない」人。
あるときレッスンで、
先生、I do not want the foam. は何と言いますか?
と聞かれました。その人によると、
日本でビールを頼むと、上から5分の1ぐらいは泡です。
私はビールをたくさん飲みたいので、泡を断りたいです。
泡にお金を払いたくありません。
そういうことをする日本のレストランはずるいと思います。
ということなのだそうです。
なるほど、自分には普通でも、違うアングルからみると、そういうことにもなるんですね。
勉強になりました。
私は他の国は知りませんが、確かにニュージーランドでも、
大きなグラス、ジョッキには、ふちまでなみなみとビールが入っていて、
泡はほとんどありません。
私は泡に口をつけ、なかなか来てくれないビールを待ちながら、
ジョッキをゆっくり傾け、冷たいビールが口に届く一瞬も好きなので、
逆に、ビールだけでいっぱいのグラスは、ちょっとつまらないです。
ビール好きの人たちは、
生ビールの泡の肌理の細かさや、
管理が良くて清潔で、毎日よく洗浄している生ビールタンクの、
そのホース経由のビールは、ビアグラスに横線を残していく、
などと言う話を嬉しそうにしたりしています。
私は自然に、泡は良いもの・愛でるものと思ってきました。
キリンシティでは随分昔から、
ビール注ぎマイスターのような熟練した人がいて、
三回に分けてビールを注いで、素敵な泡を作るということをしています。
そののメニューにも確か、
素晴らしい泡を作りますから、少し待ってください。
みたいなことが書いてあったような気もします。
考えてみると、泡とコミでグラスに入っているその量が、
その正規のビールの値段ではないかしら。
ビールを頼んだお客さん全員に、同じようにそういうビールが来ますから、
泡が要らないと言った人だけに泡を入れないで出すと、
よく考えたら不公平であることも、確か。
質問してきた生徒は、画面の向こうで答えを待っています。
私は言いました。
「今度、生を頼んだら、泡をよく見てください。
他のお客さんのジョッキもよく見てみてね。
たぶん、同じような泡の量だと思います。
日本のビールは、泡+ビール で売っているみたいです。
私なら言わないけど、言ってみたい場合は、
『泡は少しでお願いします』ぐらいではどうでしょう」
彼女の気持ちもわからなくはないので、
なんとも歯切れの悪い答えになってしまいました。
一回ぐらい、言ってみたでしょうか。
どこに行っても、生ビールには、蓋をするように厚みのある泡が載っていますから、それも込みで
ぷは〜!
日本の生ビールはうまい!
って言えるようになっているといいですね。
今 画像検索したら、泡の少ないものもありますが、
やはり全体の 1/5 ぐらいは泡ですね。
美味しそう、今すぐ飲みたい!
近頃流行りの、缶なのに泡が出てくるものなどは、
あの生徒が見たら仰天してしまうかもしれませんね。