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日本語教師日記41.法則を知れば怖くない③ 「は」の乱暴な教え方


教科書を見ていると、作った人のことが思われます。

助詞の「に」の機能、他のものより多いですが、
方向性・動きをともなう動詞と共に使う、という働きがあります。

【行く・来る・着く・帰る・帰す・返す・戻る・戻す・着く・乗る・会う】
などです。

「へ」も同じですが、乗る・会う には使えませんので、
「へ」を出さない初級者向け教科書はあります。
執筆者の、その気持ちはわかります。
「に」で足りる、と思いたい。
「へ」を出すと、「どう違いますか攻撃」があります。
普通に聞く助詞ですから、無理もありません。


私が駆け出しの頃から長い間人気のあった ある教科書では、
分厚い1巻の終わりから3分の1ぐらいで、やっと辞書形が出てきました。
それだけです。

1巻全部、いきますから、いきませんから、いきましたから・・
と、ほぼ、ます形で押し通す。
こうしておきたい(執筆者の)気持ちもわかります。
ただ、生徒のためにはなりません。
日常会話では、到底これではすみませんから。


ちなみに辞書形とは、日本語の辞書に出てくる形。
行く・飲む などのことです。

日本語ネイティブの人には意外でしょうが、
学習者はこの辞書形から始まって、
全ての動詞の変化を、一つ一つ習わなければなりません。

辞書形、ないの形、ての形(たの形)、なかった
ている・ていない・ていた・ていなかった・・
たいの形もありました。

ますの形をやっと覚えたら、次々に伏兵が押し寄せてきて、
圧倒されてしまうわけです。

あっぷあっぷな生徒を励ましたり、相談に乗ったり、
どうしても日本語だけではわからないとか、
そこまでは教科書に載っていないことについては、
英語が有効です。
プライベートレッスンでは、じっくり教えることができます。


さてここに、私が、乱暴な「は」の教え方、と思っているものがあります。
これは、「これで一発でわかるな」と判断できた人用です。
教えたいことは、一つ前の記事、「は」と「が」について、と同じですが、
近道をします。


日本語教師の皆さんは、いつまでたっても、

妹「は」来ますから、成田に行きます。

のような、「は」「が」の使い方のあやふやな人

に会うことが多いでしょう。

また、

「わたし」「あなた」は、日本語では言いません。

と強く擦りこまれたか、そう思ったままでずっと来てしまい、
そのためでしょう、それに影響され、
誰のことを言うにしても、(「私」「あなた」以外でも)
全然「彼・彼女・あの人・・」と、
その人を指す言葉を言わない人が結構います。

成田に行きます。妹は来ますから。寿司が好きです。
タコは食べません。

・・・・ごめん、全然わかりません。
でも、こう言う人がたまにいます。

先生に、「日本語はそれを言わない。上級者は言わない」
と習ってきた人にも、会ったことがあります。
先生それは、やめてあげて!?

いやいや、レベル関係ないです。
危ない危ない。
かなりの中上級者でも、
誰のことを言っているのかわからないことを言っている人は結構います。

もちろん、初級のうちは覚えることが多くて、
あまり枝道に入りすぎると
せっかく習ったことが出ていってしまうとか、
(ところてんの法則)
嫌気がさしてしまうこともありますので、
気になりながらも ぐっと我慢ということはよくありますよね。

でも、いつまでもこのへんを放置はできません。
そこで、ある日ストップをかけるわけです。



乱暴な「は」の教え方実践編:

生徒:先生、来週は両親「は」東京に来るので、キャンセルお願いします。

私:はい、ちょっと待ってください。
  「明日は両親・が」です。

生徒:なぜですか?

私:この文の中に、誰がいますか?

生徒:両親です。

私:それだけ?

生徒:(?_?)

私:あなたと、ご両親がいますよね。

生徒:そうですか?

私:そうです。キャンセルしたいのはだれ? ご両親?

生徒:あ。

私:言わなくても、隠れていても、
  「私は」、明日・りょうしん・が・来るので、キャンセルしたい。
  と言いたいわけですよね?

生徒:そうです。

私:「は」の前にいる人が、この文で行動しています。
  この場合は、行動は、「キャンセルを希望しています」です。
  文の主体には、「は」をつけましょう、でしたね。

生徒:そうです。

私:私が、私以外の「誰かについて」話したい時は、
  私「は」の私、の、次に出てくる人には、「が」を使ってあげてください。
  人でなくて、物でも同じです。

生徒:なるほど〜。
   ・・・・・え?😶

私:こう考えてください。
  あなたは、この文では、「は」を使い切っちゃったんだから、
  もう、「は」のストックはない、と考えてください。

生徒:「は」は使っちゃった・・

私:そうです。今日の分の、手持ちの「は」はもう、ない!(嘘ですけど)
  「は」を使っちゃったら、残るのは「が」です。
  とりあえず、そういうことで!

生徒:はい!


乱暴だな〜とは思うのですが、これで実は、かなり間違いが減ります。

もちろん、伏兵はいつもいます。
日本語学習は地雷原ですから。

生徒:でも先生、【私はいいですけど、彼はだめです】はいいですか?

私:来ましたね。来ると思いました。これは、いいです。

生徒:いいですか? 先生は今、二人目には「が」と言いました。

私:よく気がつきました。日頃お友達の日本語をよく聞いていますね。

  これは、ハイライトの「は」です。

  AとBがあり、Aについてはこれこれだが、Bについてはこれこれだ、
  というときに、AとBをあなたはいちいち「指差して」います。
  ハイライトを当てています。
  そのときは、いちいち、「は」を使ってください。

  【すし「は」大好きだけど、たこ「は」無理です】

生徒:あ〜、こういうの、聞きます。

私:でしょ? じゃ、練習ね。テニス、見る、やる はいどうぞ。

生徒:テニスを・・見るは好きけど、やるは好きくないです。

私:はい、惜しい。いや全然惜しくない。
  この前やりました。いい復習ですね。
  「見る・の・は」ですね。

生徒:あ、そうでした。

私:はい、思い出しました。素晴らしい。
  じゃ、もう一回どうぞ。

生徒:ひ〜・・テニスを、見る・・のは・・好きけど・・

私:ごめんストップ。
  「好きけど」はちょっと違うかな?
  「好き」は、「な形容詞」でしょう?
  はい、もう一回。

生徒:はい。え〜・・テニスを、見る・・のは好き・「だけど」、
   やる・・の・・は、好きくないです。

私:はい、あと二つだけね。それで完璧になります。
  まず、テニス・を・します はいいんですけど、
  この場合、「テニスについては」と、言挙げをしているわけです。
  だから、テニス「は」で始めましょう。
  先生が何を言ってるか、わからないでしょう?
  わからなくていいです。
  これはあとで練習しますよ。
  今は脇に置いておいてください。
  
  そして、二つ目、「好きくないけど」は、大丈夫ですか?
  な形容詞の現在否定形は?

生徒:あ、そうでした。「好きじゃないけど」。

私:いいねぇ。天才です。
  じゃ、全文をもう一回言ってください。

生徒:え〜と・・・
   テニスは、見るのは好きだけど、やるのは好きじゃないです。

私:完璧です。やっぱり天才です。(パチパチパチパチ・・👏)


注意する点は、教えたなら練習をたくさんしてもらうこと。
宿題でバックアップすること。

日本語を読んで聞いて、だいたい解るというレベルに来たら、
復習を兼ねて、「その人の発語したこと」を、
間違いがあれば、すかさず どんどん直していきます。

最初はふむふむいいですね、と言っていたとしても、
日本語の腕力がついてきた人には、どんどん直してあげるのが有効です。


分け行っても分け行っても青い山 by種田山頭火


生徒の皆さん、頑張ってください、先は長いです。




サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。