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日本語教師日記その17.いたたまれなかったあの夏の日

写真は、本文と関係なく、昨日 中級の生徒に「三白眼」を教えたときの参考資料です。
その生徒は 日本の小説を一人で、授業では「日本の歴史」を私と一緒に読んでいる人で、面白い質問がどんどん出てきます。

授業中は、お互いに編集できるGoogleDocを使います。1

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以上が枕でした。

今日お話ししたいのは、ある夏の2週間のことです。


話を始める前に。

コロナウイルスの蔓延をきっかけに、技能研修生問題や、
国に帰れない外国の人々の話題も知られるようになりました。
真面目に頑張っている日本語教師と、
希望を持って渡ってきてくれた生徒たちがいながら、
日本語教育に内在する問題は なかなかいい方向に進んでいないようです。


私が経験した苦い経験は、以下のお話です。

ある年の夏休み前に、同僚の日本語教師から、
夏休みの2週間だけ、特別クラスを受け持たないかと誘いがありました。
それは、彼女が勤めていた学校の一つで、
当時も時間講師の我々は、いくつもの学校のかけもちが普通でした。

生徒たちは1ヶ月の短期の予定で来るそうです。
午前中の3時間は学校で日本語を学び、
午後や週末はいろいろな所に連れて行くという、夏だけのコースでした。
行く場所は、秋葉原、中野ブロードウェイ、原宿や浅草。
週末の小旅行では富士山など。
プランとしては なかなか魅力的ですよね。

クラス授業は好きでしたので、ありがたく引き受けました。

それは初心者のクラスでしたが、他の教師とチームで教えるので、
決められた進度で教えてくださいとのことでした。
そこまでは当然ですので、何の疑問も持ちませんでした。

けれども、教え始めて驚きました。
その30人ぐらいのクラスでは、初めて日本語を学ぶ人から、
今で言うと、日本語検定試験N3レベルの人までいたのです。

そのクラスは、始まってから数日経っており、
私が入ったときに、雰囲気がどんよりしていました。
何事かと思いましたら、その理由は、
レベルの違う人たちが 一つのクラスに詰め込まれていたからでした。

1日目の授業が済むと、すぐ一人の生徒が私のところへやってきました。

「先生、入学前にプレイスメントテストをしたのに、
このクラスは私のレベルと違っています。
他の先生にもお願いしたのに、学校からは何もありません。
お願いですから、私に合ったクラスに変えてください」

日本語で流暢に このように訴えます。
愕然としました。

スタッフルームに戻って、教務担当の方に話しましたが、

もう決まったことなので動かせません。
その子は何度も言いに来たけど、
まだ初級で復習した方がいい部分があるので、
そのクラスで良いと言ってあげてください。

とのことでした。

翌日、それを伝えますと、涙ぐまれてしまいました。
日本アニメとコミックが大好きな台湾の子でした。

授業ははっきり言って、教師にとっては針のむしろでした。

生徒の気持ちは、ちゃんと対応してくれない学校=先生、に向かいます。
当然だと思います。

初級者の質問を答えさせられて、白目を剥いてうんざりして見せる生徒。
初級レベルの生徒は、ただならぬ雰囲気を感じて小さくなっているようです。

なんとか少しでも楽しいようにと、机を離れてもらって、
レストランやエレベーターに乗るロールプレイをしたりしました。

しかし、

私はサンジーブです。
私はインド人です。
私はそばを食べます。

ぐらいを、3時間でやってくださいというプログラムの中で、
初心者が知らない言葉や文型を教えることは許されていません。

こっそりと、書き込んで練習できるプリントを用意し、
初心者を教えている間にやってもらったり、
定着度のテストをするとき、中級者のプリントを滑り込ませたりしました。
でも、そんな小手先のことでは、とうてい追いつかないレベル差です。
できるなら、一日中でも、生徒に合ったレベルで教えたかったです。

席は決まっていたのですが、
あるときから、目の前に座った子が、編み物を始めました。
あとは総崩れというか、内職をする生徒がどんどん増えていきました。
縫い物を目の前で続けられた時には、情けなくて駆け出したくなりました。
(ちゃんとまち針や型紙も机の上に出していました😭)

大金を払ってやってきた日本。
季節は一番暑いときです。
日本語も勉強しながら、憧れの聖地に行くのを楽しみにしていたことでしょう。

自分の無力を感じ、消耗してその2週間を終えました。

あの学校も、夏で生徒が少ないのでしょうから、
空き教室を作って、3つでも4つでも、
レベルに合ったクラスを設定できたのではないでしょうか。
それをしなかったのは単に、人件費(複数の教師に払う時給)
を払いたくなかったから? と思ってしまいました。

経営者は、日本語教師でないことがほとんどです。
講師も生徒も、お金を運んでくる駒なのかな。
勉強したい人と 教えたい人を食い物にしたい機関では、
私ももう働きたくないです。

ちなみに、これまでの日本語教師生活の中で、私が気持ちよく働けたのは、
同じ日本語学校の教師たちの作った学校一つだけでした。
今度も、日本語学校に属することは、東京に戻っても、ないかな。

私がすごいお金持ちだったら、採算度外視で日本語学校を作りたいです。
教師は全員正社員で、コマ数が少なくても生活の成り立つように。
生徒に対しては、合ったレベルで、リーズナブルな授業料で。
そういうお金だけは、あったらいいなぁと ときどき妄想しています。

どなたか、巨万の富のほんの一部でもくれないかしら、ビル・ゲイツさんでも。
ビルとは、例の「六次の隔たり」では、二次で繋がっているから。
それは無理か。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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