見出し画像

日本語教師日記88.法則がわかれば怖くない(19)色の教え方で悩む

私の生徒の中には、在外で、公立校やオンラインで日本語を教えている人が何人かいます。
そうした皆さんからは、日本語教師ならではの悩みもいろいろ聞きます。
ネイティブ日本語話者で日本語教師である私でも、
生徒たちから思いもよらない質問を投げかけられ、
即答しかねることもありますので、みなさんの苦労がよくわかります。

今回は、超初心者、10歳児のクラスを教えている生徒の、
お困り事相談になりました。

このクラスは20人ほど。
ひらがなが20ぐらい入っている。
あいさつのフレーズがいくつか覚えられた。
自己紹介ができるようになった。

こういう段階だそうです。

次の授業で、色を教えるのですが、
日本語の色を表す言葉が意外にややこしいため、彼女は悩んでいます。

なぜかというと、[名詞的に使う/い形容詞/使い方に要注意物件]
というものが色の言葉に混在しているからです。


日本語の色は、このように分けられると私は考えます。

①名詞として扱う= 「・・の 」または  「・・・色の」の形で、外来語も含む
         緑の森・ベージュのコート・ピンク色の表紙 

②い形容詞=「・・・い」です。
          茶色いどんぐり(茶色の、もあり)、黒い手帳

③  ①と②の両方にありますが、「〜い」「〜の」「〜色の」をつけないもの


特にややこしいのが③です。

赤ワイン・白ワイン
赤信号・青信号
赤ペン・黒ペン

などのグループです。

これは、それがその色であることが前提の場合に使います。

例えば、「赤いワイン」というと、落ち着きませんね。
それは、「赤い」という言葉が、次にくる名詞を修飾しようとする形容詞だからで、それを使うと、青いワインや緑のワインもありそうに感じます。
色が限定されて、そのどれかであるのが昔から定番であると、
赤ワイン・白ワイン・ロゼ(ロゼワイン)
という方が自然です。

赤い信号、青い信号も、同じ理由で、そうは言いませんね。
必ず赤信号・青信号です。

赤ペンと黒ペンは、本体の色ではなく、インクの色を指しています。
今のように様々な色のボールペンがなかった時代に定着した言い方でしょう。

赤いインクの出るようになっているペンは、ペン本体が何色であっても赤ペン。
黒ペンも青ペンもそうです。

赤いペンとわざわざいうのは、インクではなく、軸が赤いわけです。

A:机の上のペン、とってくれる?
B:どれ?赤いやつ? 黒いの? 
A:ピンクのない?
B:あるよ。ピンクのが要るの?
A:そう、ピンクのやつ、放ってくれる?

明らかに、このときはインクではないですね。

教科書でサクサクとやっていく場合は、最初に「あかい車」「白い靴」のように、い形容詞の紹介のときに、色の言葉も混じり込ませています。

しかし、 初級者ではなく、途中でレッスンを始めてくれた人、
特に日本に住んでいる人たちですと、
外来語の色もよく使われていることをすでに知っています。

ですので、私の教える順番は以下のようになっています。

① 他の「い形容詞」とともに、赤い・白い・青い・黄色い・黒い・茶色い
ぐらいを教える。

その日のレッスンのうちに・・・


②必ず「赤いワイン」と言い出しますので、このように言います。
「赤と白とロゼに決まっているワインでは、
赤ワイン・白ワイン・ロゼと言ってください」

「同じように、赤信号・青信号・黄信号または黄色い信号・黄色信号です」

「赤ペンはインクが赤いです。ペン全体が赤いのは、赤いペンです」

このときに必ずのように、

purpleは日本語でなんですか? greenは?

と出てきますので、一緒に教えてしまいます。
(そうする理由は、色の出番はそうそうないため、
言おうと思う時には忘れていたりします。
そこで復習ができるため、教えて、メモしてもらっています)

次に、名詞のような色の名前です。

③ green は 緑です。
そのときは、「・・・の」、または「・・・いろの」と言ってください。
例えば、
purple は  紫の、紫色の
green  は   緑の、緑色の 
です。
外来語も同じです。
オレンジ色のタオル
ピンクのキャップ

こんなふうに使ってください。


それから、日本語にない色があり、これも聞かれることがあります。

honey color hairは?  
直訳の「蜂蜜色の髪」だと、べたつきそうですね。
私はいまだに実は悩んでいます。

その他 やはり髪の色ですが、「ginger は?」と質問されます。
赤毛のことだそうです。

目の色で、「先生、 hazelはなんですか? 」という質問もありましたね。
ヘーゼルナッツチョコ、というのは食べますが、
ナッツ色としか思い浮かばないので、困りました。
辞書には、「ハシバミ色」と出てきます。
ヘーゼルナッツは、「ハシバミ」、漢字では「榛」だそうで、
日本人には馴染みのない「実」なので、色も形もイメージできませんね。

子供の頃 童話を読んでいて、たまに、
「ハシバミ色の目をした」「亜麻色の髪を三つ編みにして」
などにぶつかり、どんな色かわからなくて困っていたのを思い出します。

ちなみに、悩める生徒が、そのとき使っていたドキュメントに画像を貼り付けてくれました。
その蜂蜜色の髪と、ハシバミ色の眼ですが、見れば見るほど、余計に言葉が見つかりません。
私、まだ困っています。

存在したり、意識にのぼらないものの名前は、適当に日本語を充てるのも難しく、無理があるものだなぁと思ったことでした。

画像1


さて、10歳児を教えているこの生徒には、

超初心者の10歳児に、名詞だ、い形容詞だ、と使わない方がいいと思います。

とお話ししておきました。

そして、二人で一緒に、生徒さんたちの髪と目の色にどんなものがあるか、
考えてみました。

こんなふうになりました。

黒い・黒の
緑の・緑色の
茶色・茶色の
青い・青の
グレー・グレーの
赤い・赤の
ブロンド・ブロンドの
(染めている場合は)パープルの、ピンクの・・

このぐらいあることがわかりました。

考え込んでいた彼女の出した結論は、このように教えると言うことでした。

私の眼は(黒・緑・茶色・青)です。
私の髪は(黒・ブロンド・赤・アッシュブロンド・ハニー・パープル)です。

と、「い形容詞」としては紹介しないことにしたそうです。
それも、提出順として、ある意味、なかなかいいと思いました。

その後レベルが上がり、復習としてまた、色を勉強する機会があったとき、
実はあのときは言わなかったけれど、こういうこともあります、
と「告白する」ことにしたとか。


告白・・・・あるあるです。
まさに、「一度に全部教える必要がない」メソッドをとっている私も、

(ごめんなさい、あとで必ず教えるので、今日はここまでで)

と心の中で謝っていることがあります。


日本語教師をしている外国人の生徒とは、

あれって教えにくいですよね?

ね〜?!

と、よく盛り上がるので、とても楽しいです。


サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。