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エッセイ288. センチメンタル・ヴァリュー

荷解きをすればするほど、物が膨れ上がり、
床の上に堆積するという、この引っ越しの謎。
これが解明できればノーベル賞ものだと言われています。

このアパートに住み始めてやっと8日目。
箱の半分程が空き、ベランダに、バラした段ボールの山が少しずつ高くなっていっています。

アート引っ越しセンターさんは、
「空いた段ボールを引き取るサービス」
をしています。空き箱の量がどのぐらいであれ、
また、引き取りが何回にわたろうと、
「1回引き取りに来て3000円」だそうです。

最初は、

え〜、また物を捨てるのにコストが?
・・やなこったい!

と思ったのですが、
空き箱のゴミが増えていくのを見ると、
好きなだけどっさどっさと出すのも憚られる。
アパートのゴミ集積所に少しずつ出したら、どれだけ時間がかかることか。

あの名古屋からきた夫婦、やたら捨てるなぁと思われるのが恥ずかしい。

なぜ身バレしているかというと、調布市では、
包装プラスチックゴミは、透明か半透明ならどんな袋を使ってもよいために、
我が家は、名古屋から持ってきた「名古屋市」と印字してある袋を今もまだ、せっせと使っているからなのです。・・なんてまた、自意識過剰か。誰もゴミ集積所のゴミ袋の印字まで見ていませんて。

結局まあ、ほとんどの箱が空になったら、
やっぱりアートさんに引き取りをお願いすることになるでしょう。
アートめ、なかなかビジネス上手ですね。

さて、夫が東京の事務所に通勤を始め、コロナが増えてきてはいるけれど、毎日行きたいと言っています。
だから日中私は1人。
そう、咳をしても1人、山頭火・・・😕

土日祝日に、お喋りの夫と喋りながらならいいのですが、平日に1人で黙々と箱を開けていると、なんだか同じところをぐるぐる回っているような気分になってきます。
目を覚ましても目を覚ましても未開封の箱に囲まれているという、悪夢のようです。

そんな今日、Sentimental Valueとマジックで書いた箱の一つを開けました。

センチメンタル・ヴァリューとは、実際に要るかというと、要らないのですが、思い出としての価値があって捨てられないもののことを、こう名付けるらしいです。

荷造りをしながら、

捨てよう!
捨てなければ。
物を減らすなら今・・

と言いながらも、夫のところへ行って、

「これ見て〜。どうしても捨てられない。
貴殿なら捨てられる?!」

とよく訊いていました。

「捨てられなくてもいいじゃない?
そういうのがセンチメンタル・ヴァリューってものさ」

と、決まって返事が返ってきました。

この言葉を免罪符とし、実家に預けた箱の数々、また。こっちに持ってきてしまい、少しずつ覚悟を決めて捨てていこうというものも4、5箱あります。

あ〜あ、本当に馬鹿。

今悩んでいるのが、裁縫箱。3つもあるのです。娘たちが小学校で1つずつ買いましたので、自分のと合わせて3つ。

要るものだけ取り出して一つにまとめる!

と思ってガバ、と立ち上がるのですが、娘たちはろくに使ってはいませんから、全てのものがちまちま揃っていて、無駄に悩んでしまって、握り鋏で試し切りをして、

(おお・・・よく切れる)

と感動し、また箱にしまってしまうのでした。

捨てられない子供の作品や服などは、写真に撮って捨てる、という断捨離の王道があります。
でも、目の前に、昔込めた思い入れに満ちているものがあり、「捨てるの?」と、目で訴えかけて来られると、捨てるのって本当にむずかしい。

この巻尺。なんと自分が5年生の時に使っていたのですって。

私が最後に裁縫をしたのは、長女のために甚平さんを縫った時だと思います。あとはもう、雑巾ひとつさえ、100均のものでした。
このときは、途中でミシンが壊れ、おぼつかない手つきで手縫いにしたのでした。
これは、着ている本人たちの写真があるのだから捨てても良いのに、
捨てられない。
特に一着目はマンボウの柄ですが、うちの長女の最初の言葉は「マンボウ」でした。

ある日長女が、こっちを ひた・・・と見つめながら、

ま・・
ま・・

と言うので、

えっ? なに? ま? ま? 言ってごらん?!

と言ったら、

まん・・まんぼう!

と言った。
その記念に、マンボウの絵の生地を探して、縫ったのでした。

引っ越しの多かった我が家、引っ越しのたび、

だめだ!
捨てられない!

と唸っては、箱に詰め直してここまで持ち越してしまいました。
さすがに、いつか誰かが・・孫とか・・できて、そしたら・・とは思っていませんが、楽しいことや苦しいことがいっぱいあった若い時代に、面倒くさがり屋の私が手縫いでと思うと、なんかこう、うわ〜・・ぁぁぁ・・・

なんですよね。

私みたいな人は多いと思いますが、私と夫ほどひどい人はなかなかいないと思います。

これが昔縫った甚平さん。余りぎれがやたらと出てきて、そっちはさすがに目をつぶって捨てました。


ああ、消耗しますね!

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