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日本語教師日記 134.雑学としての落語

1時間のレッスン中、常に集中していることは難しいものです。
1週間ぶりに会う生徒がほとんどですから、
「この1週間、何かありました?」
と始めるのはいつものことで、楽しかったこと大変だったことをお話ししてもらいますが、途中で息抜きに、
そういえば・・
と脱線することもまた、ままあることです。

日本語教師は、話がどちらに向けて転がって行っても、専門的な知識までは求められないにしても、ある程度対応していきたいものです。
朝早く授業が始まる日がほとんどですが、さらっと新聞の見出しぐらいは眺めておこうとするのも、そのためです。

知らなかったことは、(まあまあ)謙虚に受け止め、
教えてもらうのも楽しみです。
上級者には、
「すみません、日本語で読んでもよくわからないので、
幼稚園の子供が聞いてもわかるぐらいに、優しい日本語で説明してください」
とリクエストすることも多いです。
これは、わかっているようでそうでなかった日本語の表現を発見するために、
非常に有効です。言い換えができる、人にわかるように説明するというのは、かなり深く理解していないとなかなかできませんので。

1時間、画面越しに向き合っていて、ある意味逃げ場がありませんよね。
息苦しくならないように、一息ついてお話しするためには、教師の方はいろいろなことを、まあ雑学ですね、広く浅く知っておくといいかなと思っています。

私の場合は、漫画・アニメ・エッセイ・落語などが好きですので、その辺からぼんやり仕入れたことに助けられることが多いです。
細切れだったり、裏が取れないかったりする「話」を、頭のあちこちにしまってあります。

生徒に話すときはちゃんと、「本当かどうかわかりませんので、話半分にお願いします」と、逃げを打ってからにしています。

授業中の雑談のネタは、落語からはたくさんいただいています。
落語ほど、昔から日本人の中に流れている文化や、微妙な面白みをたくさん教えてくれるものはないのではないでしょうか。

「ちょっと待った。
そのあなたの、肩と肩の間にのっけているものは、なんですか?」

ーーえ?

「肩と肩の間にあるものは、なんですか」

ーー頭、ですか?

「頭ですね。重いのをせっかく運んでいるんだから、使いましょう」

なんて言うことがあります。
(もちろん、言う相手は選びます。
真面目な人や、JLPTが近くてテンパリストになっている人には
こんなことを言ってはいけませんよね)

この話、落語から。ご隠居さんがお説教をしますな。

これ長吉や、お前と言うものはまあ、何をやっているんです。
その、お前の肩と肩の間にあるのはなんだ、言ってごらん。

てやつでした。

漢字を教えながら、落語から教えてもらったものを使うことはよくあります。
番頭さんが親を粗末にする丁稚に言います。

これ次郎吉、ここへおいで。ここへおいでというに。
お前な、親という字をよくご覧。な?
親という時は、木の上に立って見ると書く。
な?
余計なことは言わず、とお〜っくから見ていてくれる、
なんと親とはありがたいものじゃありませんか。

とか。

番頭さんが、バタバタしていて忙しがるばかりの若い衆に教えを垂れます。

これ留吉、お前のようにそうせわしなくしていてはいけません。
いそがしい、せわしないという字を書いてごらんな。
な? 縦の棒がある、ボウ、ハ、と書くな、その後になんだ、ほろぼす、とあるだろう。
ボウ、ハ、(身ヲ)ホロボス・・とな?
せわしないのは、いそがしがっているのは、決していいことじゃない、
身を亡しますよと。
そういうこった、覚えておきなさい。

なんてね。


今度、インドの師匠に言ってみたくて楽しみにしているのが、栴檀せんだんについてです。

栴檀とは、今園芸界で話題のニーム・オイルのニーム、
詳しくいうと インド・ニームのことであるようです。
まだ日本ではなじみがなく、いろいろ調べてみても

 栴檀=ニーム 

とは言い切れないらしいので、インドの師匠に訊いて、ヒンドゥではなんというのか、本当にアーユルヴェーダで使うのかなど、リサーチしてきます。

使ってみますと、ニームオイルの香りは好き嫌いはあるかもしれませんが、まさに、「煎り胡麻」と似ている、香ばしいというか芳しいものです。
栴檀=ニームであるのなら、今初めて私も、

栴檀は双葉よりかんば

が、納得できるのです。


インドの師匠は、私が自分の膝・腰の悩み、長女のB企業の悩み、次女の同じ悩み、夫の悩み・・・などを話しますと(レッスンの最初の10分はお互いの愚痴タイム)、それがフィジカルでもメンタルでも、対処法が即答でいただけます。

先生それは、カルダモンを一粒口に入れて噛んでください。
食べてはいけません、噛むだけです。

とか、

シナモンをひとつまみ、お湯に入れて飲んでください。
塩はいいですが、砂糖はいれてはいけません。

とか、きっぱりと教えてくれます。

自分にとって、カルダモンやターメリックやシナモンは、食べておいしいものなので、不思議な気がします。
なんだかインドは本当にそのへんが、深そうで興味をそそられます。


これ捨吉や、まあまあまあ、こちらへおいで、おいでと言うに。
昔からな、「栴檀は双葉より芳し」と言います。
どういうことかというとな、後に大物になる者は、
もうわかーい頃から、それがもう出ている、そゆことだ、わかるか捨吉。


この感じ、インドの師匠に伝わるかしら。
ちなみに、「肩と肩の間に・・」と私に言われたのはこの方です。


次のレッスンが楽しみです。

サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。