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創作その1 お芝居「ボッコちゃん」

仲間内で上演するつもりで書いたものです。
星新一氏のショートショートを勝手に展開した短いお芝居です。
(上演時にはご遺族に申し込み、許可が必要だそうです)

楽しみながら書いてみました。

自分はママのマキをやるつもりでした。


【ボッコちゃん 】


場末のレトロなバー。
インテリアは昭和な感じ。
中年のママ、マキが、上手のドアから電飾看板を持って出てくる。
下手のドアを開け、看板を置いてからバーカウンターの中に入る。
開店準備を始める。
上手のドアから、ママの夫でバー店主、タカが登場。
若い女性の両手を取り、導くようにしてバーカウンターに近づく。
女性は目を閉じている。


マキ:なんですかそれ。
タカ:まあ見てみろって。お、お前カウンターから出て?
マキ:なんで?
タカ: いいからいいから。
(マキ、女性に目を据えながら首を傾げつつ、カウンターの外へ出てくる。
タカ、女性の手を引いたままカウンター内に入り、女性をこちらに向け、自分は出てくる)
マキ:やだあなた、また変なもの作って。
タカ:失礼なこと言うなよ、見てろ?
(タカ、女性の肩にポンと触れると、女性は瞬きをして目を開く)
タカ:こんにちは。
ボッコちゃん: こんにちは。
タカ: 新しい子?
ボッコちゃん: 新しい子よ。
タカ:名前は?
ボッコちゃん: ボッコちゃん。
タカ:ボッコちゃんか、かわいいねえ。
ボッコちゃん: かわいいかしら。ありがとう。
タカ:(マキを振り向いて)な?
マキ: な?
タカ:だからさ、すごいだろ。
マキ:人形じゃないの。
タカ:失礼なこと言うな、これぞ世紀の発明のアンドロイドなり。
マキ:ばればれなんだけど。
タカ:いやいや、うちの間接照明の元で見れば、大丈夫。
マキ: 大丈夫ってあなたまさか、この子を店に出すつもり?
タカ:そうだよー、うちの看板娘。
マキ:え、いやいやいや、明らかに怪しいでしょう。
タカ:わかりゃしないって。どうせ酔っ払い相手だし。
マキ: えー、バカみたい。
タカ:なおが出て行く時、なお目当てのお客も連れて行っちゃって、
以来うちも上がったりじゃん。
だからさ。この子に売り上げ増を頑張ってもらうわけ。
マキ: ちょっと、あなたの小遣い範囲でしょうね。
タカ:へ?
マキ:制作費。
タカ: えー、あはは、固いこと言うなよ。すぐ取り返すって。
マキ: だー、もう・・・・で? この子に何ができるわけ?
タカ: ま、簡単な受け答えとか、酒飲むぐらい?
マキ:料理とか掃除は。
タカ:まー、まだ開発の余地ありだな。
マキ:って、できないってことね?
タカ: これからだよ、これから。
うちだってさ、ババァバーとか言われて、お前だってくやしいでしょ?
マキ: 誰がババァですって?
タカ: ままま。この子は飲むぜ。いくらでも、勧められたら飲む。ウワバミ。
マキ:人形に飲ませて、もったいないじゃないの。
タカ: いやいや、そこは考えてあるって。
飲んだ酒はそのまま、この足元のタンクに直行。
それを回収して、ボトルに入れて、またお客様に飲んでいただくわけ。
マキ:やだぁ、お客さんにばれたら怒られるわよ。
タカ:そこはお前がうまくフォローしてくれ。
唾液も出るわけじゃないしさ。
あっ、そうだ、この子に飲ませるのは一種類の酒だけだぞ。
ちゃんぽんになっちゃうからな。
マキ: はぁぁ・・・・やだやだもう。暇だわねぇ。
タカ:ま、ばれたってさ、ご愛嬌でしょう? 楽しくやろうよ、マーマさーん。ね?
マキ:フォローするのは私か。ま、いいや。あなた、トイレの掃除。
タカ:はいはーい。
(タカ、上手のドアから消える。マキ、ボッコちゃんに)
マキ: こんばんは。
ボッコちゃん:こんばんは。
マキ:あんた、名前は。
ボッコちゃん:ボッコちゃん。
マキ:お酒好き?
ボッコちゃん:お酒好きだわ。
マキ:高いの飲む?
ボッコちゃん:高いの飲むわ。
マキ:頭悪そう。
ボッコちゃん:頭悪いのよ。
マキ:ひゃー・・・
(暗転)
別の日、お客はまだいない。
若い男、健吾が入ってくる。
マキ:健吾さん、いらっしゃーい。ボックスの方へどうぞ。
健吾: あ、いや、いいやカウンターで。
マキ: ボトル? あら、終わっちゃってるわ、どうします?
(健吾答えず、ボッコちゃんをぼーっと見ている)
マキ: 健吾さん?
健吾: あ、あ。ビール。
マキ: うちは瓶ですけど、よろしい?
健吾:ああ。
(マキ、カウンターに入り、ビールを冷蔵庫から出す、栓を開ける)
健吾:(ボッコちゃんに)どうも。
ボッコちゃん:どうも。
(マキ、ビールとおつまみの小皿をカウンターに置き、
瓶を持ち上げて健吾を見るが、健吾はボッコちゃんを見つめている。
マキは勝手にビールを注いで、カウンターの奥に下がって2人を観察している)
マキ: 健吾さん、何か召し上がる?

前田:いや、いらない。こっちはもういいよ。

マキ:はぁい・・・。
健吾: 元気?
ボッコちゃん: 元気よ。
健吾: ぼくのこと、覚えてる?
ボッコちゃん: 覚えてるわ。
健吾: じゃ、ぼくの名前は?
ボッコちゃん: 名前は。
健吾: 何?
ボッコちゃん:何かしら。
ママ: ボッコちゃん、「健吾さん」、に灰皿、お出しして?
ボッコちゃん: はい。
健吾: な、俺の名前。
ボッコちゃん: 健吾さん。
健吾: そうか。覚えてたか。
ボッコちゃん: 覚えてたわ。
健吾: そうか、覚えてたか・・・。
ボッコちゃん:覚えてたわ。
(健吾、疲れた様子で目を揉む。カウンターに肘をつき 頭を抱える。顔をあげ、)
健吾さん:ボッコちゃんは可愛いね。
ボッコちゃん:可愛いかしら。
健吾:いい人、いるんだろ?
ボッコちゃん: いい人、いるのよ。
健吾: 本当かい?
ボッコちゃん:本当よ。
健吾: 本当に本当かい?
ボッコちゃん:本当に本当よ。
健吾: 本当に?
ボッコちゃん:(ピクッと体を震わせて)本当に本当に本当に本当に・・・
(マキ、進み出て、後ろから軽くぼっこちゃんをこづく。ボッコちゃん静止する)
マキ: 健吾さん、あんまりからかっちゃいけないわ。
この子は田舎から出てきたばかりなんだから。
ね、ボッコちゃん、田舎から出てきたばかりなのよね?
ボッコちゃん: 田舎から出てきたばかりなのよ。
マキ:ボッコちゃん、飲みすぎないのよ?
ボッコちゃん:飲みすぎないわ。
マキ:じゃ、健吾さん、お手柔らかにね?
(マキ、元のところに戻る。しかしさりげなく見ている)
健吾: 田舎から出て来たばかりなの。
ボッコちゃん:田舎から出てきたばかりなのよ。
健吾: 田舎、どこ?
ボッコちゃん:田舎、どこかしら。
健吾:だから、どこ?
マキ:あっ、ボッコちゃんほらあれ、
田舎から送ってきた、なんだっけあれ。
あー・・笹かまぼこ。
健吾:仙台の?
マキ:そう仙台の。健吾さんお好き? 召し上がる?
健吾:あ、ああ。もらおうかな。
健吾:そうか。ボッコちゃんは仙台から出てきたのか。
ボッコちゃん:仙台から出てきたのよ。
健吾:何歳だっけ。
ボッコちゃん:秘密。
健吾:いいじゃないか、何歳?
ボッコちゃん: 秘密。
健吾:なあ。
ママ:あらあら健吾さん、この子が困ってるじゃあありませんか。
しつこいと嫌われるわよ。
健吾:あ、ああ・・・。
暗転
・・・・・・・・・・
別の日。
(出だしと同じ板付。
健吾がいきなり入ってきて、案内を待たずにボッコちゃんのいるカウンターにどっかと座る)
マキ:あ、健吾さん、いらっしゃい。
(健吾、無視し、)
健吾: ボッコちゃん、こんばんは。
ボッコちゃん:こんばんは。
健吾:今日は元気かい?
ボッコちゃん:元気よ。
健吾:ボッコちゃんは彼氏がいるの?
ボッコちゃん:彼氏がいるのよ。
健吾:うそだろう。
ボッコちゃん:うそよ。
健吾:なんでうそつくんだ?
ボッコちゃん:なんでうそつくのかしら。
健吾:からかうのはやめてくれよ。
ボッコちゃん:からかうのはやめるわ。
健吾:なんだい、いつもいつもそうやって、とぼけておうむ返しをして。
そういうのを、からかうっていうんだよ。
ボッコちゃん:そういうのを、からかうっていうのね。
健吾: ああ、たくもうっ!
(頭を抱えて突っ伏す。ボッコちゃん静止している)
健吾:ボッコちゃん、俺もう、来られないんだ。
ボッコちゃん:もう来られないの。
健吾:ああ、ここに来るために会社の金に手をつけて、くびになって・・。
ボッコちゃん:くびになったの。
健吾:サラ金にもあちこち借りて。
ボッコちゃん:あちこち借りたの。
健吾:俺はもうおしまいだよ。
ボッコちゃん:おしまいなの。
健吾:なあボッコちゃん、俺が来なくなると ちょっとはさびしいかい?
ボッコちゃん:ちょっとはさびしいわ。
健吾:・・・また、心にもないことを言って。
ボッコちゃん: また、心にもないことを言ったわ。
健吾:ボッコちゃん、俺のことがちょっとは好きかい?
ボッコちゃん:ちょっとは好きよ。
健吾:ほ、ほんとかい?!
ボッコちゃん: 本当よ 。
健吾:どうせまたうそだろう。
ボッコちゃん: どうせまた嘘よ。
健吾:ああ・・・・。
ボッコちゃん、死のうか。
ボッコちゃん:死にましょうか。
健吾:殺してやろうか。
ボッコちゃん:殺してちょうだい。
(健吾、しばらく凝然とボッコちゃんを見る)
健吾:フォアローゼズ、ボトルで。
ボッコちゃん:フォアローゼズ、ボトルで。
マキ:健吾さん、いいの? ありがとうございます。
(マキ、ミネラル・氷・グラスと一緒に、健吾のまえにボトルをだす)
マキ: はいどうぞ。
健吾: ああ。
(健吾、ボトルに紙包みから白い粉を入れる。
振り返って、誰も見ていないのを確かめてから、ボトルを振る。
ウイスキーをなみなみ注ぎ、ボッコちゃんに渡す)
健吾:さ、ボッコちゃん、飲んで。
ボッコちゃん:飲むわ。
健吾:勝手にくたばればいいさ。
ボッコちゃん:勝手にくたばるわ。
(ボッコちゃん 一気に飲む。健吾もう一杯作る)
前田:お別れだ。たくさん飲んでくれよ。
ボッコちゃん: たくさん飲むわ。
(ボッコちゃん、つがれればすぐに一気飲みをする。
健吾、よろよろと立ち上がる)
健吾:ごめんママ、つけといて。
マキ: いいですとも、いつも気持ちよくお支払いただいているんですもの。
健吾:ああ。さようなら。
マキ:あら、さようならなんて・・・
(健吾、ボッコちゃんに)
健吾:ボッコちゃん さようなら。
ボッコちゃん:さようなら。
(健吾、よろよろと出て行く。音楽が一度大きくなって、また小さくなる。
タカ、上手ドアから出てくる)
タカ:お、健吾さん帰ったの。
マキ:(伸びをして)ああーあ! どうしてあんな、辛気臭いのかしらねえ。
タカ:そういうことを言わないの。
通いつめて、たくさんお支払いくださってるお客様なんだから。
マキ:ま、違いないわねえ。
だけどさ、なんか思いつめちゃったような感じで、ちょっと気色悪いのよね。
・・・・さ、ちょっと早いけど、今日はもう閉めましょう。看板入れちゃって。
タカ:はいはい。
(タカ、表から電飾看板を下げてくる。カーテンを閉める)
マキ:明日は休みだから掃除は今日はいいわね。
あ、あの口切ったフォアローゼズ、回収して?
タカ:はいはい。
(ボッコちゃんの後ろに回り、デカンタに入れたウィスキーを持って戻ってくる)
マキ:今週もご苦労さまでした。ちょっと飲みましょうか。
タカ: あれ? これ、いいほうのだろ?いいの?
健吾さん、どうせまた来るでしょうに。
マキ:いいのいいの。たまーに高い酒頼むかと思ったらツケですって。
今度来たら、フォアローゼズの空き瓶に、サントリーレッドでも詰めて出せばいいわよ。
どうせ味なんかわからないんだから。
タカ:うわお前、ひどいな。じゃ、いただきましょう。
(タカ、大きなグラスになみなみと注ぎ、氷を入れてママに渡す)
マキ、タカ: 乾杯。
(飲み始める)
マキ:あら、うちの看板娘さんにも乾杯しないとね。
(振り返って立ち上がり、ボッコちゃんに)
ボッコちゃん、乾杯!
ボッコちゃん:乾杯。
(暗転)
(音楽高まって終わる)

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