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エッセイその117.眠りについて(1)夜更かし


小さい頃、夜更かしをしていいのは大晦日の紅白歌合戦を家族で見るときでした。
でもどんなに頑張っても、最後まで続けて見ることができないのでした。
元日の朝、明るくなって目が覚めて 悔しかったです。

よく覚えているのは、
「夜9時過ぎに面白いテレビがあるのに見られない」
という残念さです。
子供には、残念なことが多いんですよね。

私は年齢によって寝る部屋が変わっていたのですが、一時期は襖ひとつ隔てて大人がテレビを見ているという状況がありました。テレビが見たくてしかたなかった私があるとき、細く開けた襖からテレビの部屋を覗いていたら、父親が気づいて、「しょうがないなあもう」という感じで部屋に入れてくれたという記憶があります。

大きくなって、階下に寝るようになると、階段をそっと上がって、テレビは見えはしないのですが、障子越しにちらちらする光を見たり、大人の話すのを聞いたりしていたこともありました。

このころに、「自分が寝た後、面白いことがある」と思ってしまう感覚が育ったような気がします。それはみんなそうなのか。

中学、高校と年齢を重ねると、夜更かしは布団の中にウォークマンやラジオ、カセットテレコなどを持ち込み、ラジオや音楽を聴くことでした。音楽の合間に、馴染みのDJの声がいろいろ語りかけてきたり、リスナーのお便りを読むのを聴いたり。ラジオは、顔が見えないから想像が広がるし、一体感が逆にある。今でも大好きです。
そんな時間がとても懐かしい。ですから、いとうせいこうさんの「想像ラジオ」も、内容もさることながら、イヤフォンやヘッドフォンで、隠れて深夜までDJの声を聴いていた時間を思い出し、懐かしく切なくなります。

あとは本を読むぐらいですか。布団の中で懐中電灯をつけて、息苦しい中で読んでいたのです。
一つあれが不思議なんですけど、親って、自分が夜中に目が覚めたり、自分が寝ようとしている時などに、子供のことを見に来ますか? うちはそうだったです。気配がすると懐中電灯を消したり、寝たふりをするのですが、やっぱり「もう寝なさいよ」と言います。あれはなんだったんだろうか。うちだけかしら。
もちろん、小腹が空いたからと台所でゴソゴソしているのはちょっと許されない感じでした。

なので、結婚して「もういい加減に寝なさい」と言われずに好きなだけ起きていることができるようになり、すごい解放感でした。

話が横道に入りますが、この解放感は多岐にわたっていました。
独身時代は、全てのことを親に申告して許可されないとできなかったため、その副作用で、「どうせダメと言われること」は、はなから希望しないという、若者らしくない、よくない生き方になっていました。

結婚してすぐですが、夫にはまさか、「今晩もっと遅くまで起きていていい?」とは聞かないものの、
「友達と会うので、遅くなるが、夕食は自分でなんとかしてくれるか」
程度のことは、最初のうちはよく訊いていました。
夫は、なんでいちいち訊きにくるのか不思議だったと言いますし、実際、
「君は大人でしょ。なんでそんなこと訊くの?」
とよく言われました。

「いいの?」
「逆にいけないの?」

という会話がありました。

「人に許可されて安全圏内でなんでもやろうとするより、自分が決めて、他に迷惑をかけたり、自分を傷つけたりしない限り、決めたことをやるのは自由だ」
「もちろん行動には責任が伴う」
という当たり前のことを、私は夫とのつきあいで、すごく長い時間かけて学習しなおしました。

さて、今に続く大夜更かし時代は、ビデオ・オン・デマンドがもたらしたものです。我が家がApple TVを導入したのは何年も前ですが、テレビの見方が変わりました。
チャンネルを変えつつ だらだら見続けるということがなくなりました。
もちろん、チャンネル争いということも、もうありません。
見たいものを新聞のテレビ欄や「TVガイド」でチェックして、待っているということもなくなりました。
時間に縛られず、途中で止めたり、あとで見たりが可能になりました。

私は、ビデオレンタルショップに「24」がずらっと並んでいる時代をよく覚えていますが、ツタヤに毎週末通うことも、延滞料金を計算して、「う〜わ〜」となることも、もう過去のことですね。

さて、連続ドラマは中毒性があり、次を見たくて仕方なくなるような作りをしています。ですから、1話終わって、まだ早い時間なら、一緒に観ている人と、
「もう1話?」
「そうね、もう1話」
「ほんと、もう1話だけだからね」
と言い合ってついつい見続ける、ということが起きます。
当然夜更かしです。
金土の夜は、次の朝は寝ていていいと思っているので、それが加速します。

一つのシリーズを一緒に見始めた相手とは、なるべくならずっと一緒に見ていたい。

なので、先に眠くなってしまって引き上げる側は、
「次、見ていいよ、自分はあとで追いつくから」、
言われた方は、
「そう言うけど、見ないじゃん。わかった、ここでやめとく」
と、「どこまで一緒にみられるかマラソン」みたいになります。

いつか、海外ドラマで、
「あなたは食べたものは片付けないし、
一緒に見てたドラマを勝手に進んで見て行っちゃうし・・」
という奥さんの文句が出てきて、やっぱりどこも同じなんだなと思って笑ったことがあります。

さて、ここ数年私は夜更かしに体がついていかなくなって、軽く睡眠障害になってしまいました。
そこから抜け出した話はまた今度させていただきますね。

サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。