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日本語教師日記77.法則がわかれば怖くない(16)知ってみればなるほど:柔らかいもの編


柔らかいもの、と とりあえず書きましたが、
ふわふわ・ぷるぷるのものに限らず、
弱い力で分断できるもの、硬くないものの意味です。

主に、どのように変化を加えたか、変化が加わったか。
それに、材質の持つ性格で言葉が分かれます。

これは、英語でも違う言葉がありますので、理解してもらいやすいです。
ただし、「翻訳はできないことが多い」です。



【切る・切れる】
柔らかいもののカテゴリーに入れましたが、固いものも含まれます。

「切る」は、必要があって、道具を使って行います。
道具はナイフ・ハサミ・カッター・のこぎりと、自由です。
手は使いません。

力士は手刀を切りますが、実際に物を切ってはいません。

切る(他動詞)とは、道具を使ってカットすることである。
・・・道具というのが決め手かもしれません。

一方「切れる」(自動詞)は、負荷がかかったり、何かの原因で、
人が手を下さずに、自然的・事故的に、切れることです。

「切る」も「切れる」も、その対象は、
 紙・髪・木材と、さまざま。
形状も、棒状・板状・紐状・布地など、自由です。

人力で切る・切れるものと、それに応じた道具の必要なものもあります。
水圧でリンゴを一瞬にして切ったり、レーザーで切る固いものもありますね。

柔らかい物では、布・レザー・野菜や果物や肉や野菜。
髪・髪・ロープ・・・。
手術では皮膚も内臓も。

固い物では棒・木材・鉄パイプも。

形状は薄い・平たい・厚みがある・塊・棒状、
これらは全部「切る」(他動詞)の使える物ですが、
これが「切れる」(自動詞)となると少しややこしい。

棒状のもの。
鉄パイプを機械で「切る」ことはできますが、
ぽきりと自然にいっちゃうときは、「切れた」じゃなくて「折れた」。

平たい物。
ピザカッターでピザを切りますが、ピザが自然に「切れる」は、あまりない。
せいぜい、

ママ〜、これ、切れてないよ〜(自動詞) 
あ、そうか。ちょっと待って、切るね。(他動詞)

これは、ママがちゃんと「切らなかった」結果としての「切れていない」です。

布地はハサミで切りますが、袖が引っかかって、びりっといっちゃったという、突発的・事故的な場合は、「切れた」では少し馴染まない。

誰かから借りたシャツをびりっとやってしまったとき、

あら、シャツが切れたわ。

では、他人事のようで、むかつかれてしまうかもしれません。

ここは、「裂けた」といきたいところ。(裂けたについてのお話は後述)

ステーキは切りますが、箸で「切れる」と言えば、
自動詞の「切れる」ではなく、可能形の「切れる」=切ることができる、
の方です。
なんとややこしいのでしょうか。

この辺、広げすぎると、生徒に混乱をもたらします。
けれど、それも必ずしも悪いことではないと思います。
じっくり話し合ってみるのも一興です。
できるだけ日本語で話すようにすれば、会話のいい練習になるからです。

「切る・切れる」両方OKなものも、もちろんたくさんあります。

ロープを、
長すぎたので「切る」こともありますし、
岩角で擦れて(自然に・自動的に)「切れた」も大丈夫ですね。

物質でないものも「切れます」

頭が切れる

縁が切れる。

「彼が切れて暴力を振るった」のは、
自動詞である「切れた」を使うことによって、
彼本人が言うのなら、
「あれは俺の意思ではない、俺を、切れる方へ何かが押しやったのだ」
という意識が必ずあります。
ブチ切れる方の「切れた」、はあまり多用したくないですね。
無責任感の少し混じった言い方です。

【千切る・千切れる】
指を使って、細かくすることです。
その細片は、あまり大きくなく、また、長くないでしょう。

ちぎり絵・ロールパン・レタス・・・は、手で千切りますね。
しかし、手で分断できても、鮭の皮を千切る、はないです。

手でそれができる材質に限りますので、
紙、羊皮紙、葉っぱ、あとは何があるでしょう。
道具を使いません、手です。

ここで、英語には要注意です。
辞書だとよく、「千切る」の英語として、shredとあります。
シュレッダー、シュレッドチーズという言葉からもわかるように、
それをした結果の形状が、違います。
長いのです。

「千切る」の意味を教えることができない、つまり、
教師がはっきり違いを理解できないからと、
辞書を見て英語を出すのはおすすめしません。

ちぎる・・シュレッドです。

と言ってしまうと、意味が違います。

この辺は、是非とも直接法でいきましょう。

例文をたくさん作れば、日本人なら違いをはっきり理解できます.
たくさん例文を作ることを、私も自分に課しています。


【引き千切る・引き千切れる】
ただの「千切る」ではありません。
千切るにあたって、かなりの力が必要なときです。
パンを「引きちぎって食べる」とは言いませんね。
キングコングや超人ハルクは、太いチェーンを引き千切ります。
犬は、リーシュを引きちぎって逃げていきます。


【裂く・裂ける】
紙・布、またそれぐらいの強さのものを、一つの方向に、
引っ張ることで分断させます。
繊維がそこにある、「その方向にしか切れません」というものに限られます。

避けるチーズはまさにそれで、シュレッドチーズと違います。

スルメイカ・繊維の方向の決まっている紙、同じく布が、
引っ張ることで、一つの方向へ分かれていくもの。
手でそれができる強さ(弱さ?)です。
道具を使いません。

千切る⇨引き千切ると同様、
裂く⇨引き裂く  は、しっかりと一体だった男女や親子を無理に別れさせること。
何かが「引き裂ける」には、相当強く引っ張ったことでしょう。



新聞紙は縦方向には裂けますが・・

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横に繊維が入っていませんので、横には裂けません、こうなります。

画像2

新聞を切り抜きたい時、ほとんどの場合無精してハサミを取りに行きませんので、あらあらあら・・と呟きながら、こんなふうに☝️ なってしまっています。

🌸🌸🌸 浪漫劇場🌸🌸🌸
錦戸亮似の若侍、町娘が何やら困じ果てているところへ行きかかる。
若侍:おお、そこな娘ご、どういたした。
町娘:(若侍がドストライクだったので、恥ずかしくて真っ赤になる)
若侍:おお、鼻緒が切れたのか。
 下駄を脱いで、わしの足に、そちのその足をのせるがよい。
町娘:お侍様、それでは、も、もったいのうござります。
若侍:何を言っておる、さ、足をのせなさい。
町娘:は、はい・・・
若侍は娘の手を自分の肩にかけさせると、
懐から出した清潔な手ぬぐいをば(間違っても豆絞りではない)
きりりと歯で糸切り歯(犬歯)で噛んで切れ目を入れてから、
つーっと裂き、手ばやく鼻緒をすげかえてやり、鳴呼!
そこが二人の恋の始まりでした。💓


・ポケットを引っ掛けて、シャツの胸あたりが裂けてしまった。
   切れてしまった、とはあまり言いません。

ところが、自動詞の「裂ける」だと、必ずしも方向は一定でなくても大丈夫。
変なところを蹴り上げられて、「いってぇ〜、・・・が裂けるかと思った!」
と言っているのは、どこぞの中学2年生男子。
ただ切れるよりも、一度に「四方八方に・・」な感じはありますね。
おお、痛そう!

以上は、例外というものがほぼありませんので、教えやすいものだと思います。



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