日本語教師日記122. 法則がわかれば怖くない(22)芋づる式の質問には普段から装備点検
レッスンの会話がだいたい日本語だけでできるようになりますと、例の
「これとこれはどう違いますか」「どちらを使うべきですか」
というような、類似語、類似表現に気づいたための質問がよく出ます。
答えるのは大変ですけれど、教え分けることがうまくいかず、冷や汗をかいた回数が、あとの自分の成長につながると思います。
中級以上になってきたり、耳が良くて、よく言葉を拾うことのできる人は、
一つの言葉の説明を受けると芋づる式に、「じゃ、これは?」「これとこれの違いは?」「いつ使うべきで、いつ使ってはいけませんか?」などと、たくさんの質問が出ます。
例えば、よく訊かれるのは「なる・する」だけが違う言葉があります。その意味の違いや使い方に迷うわけです。
「ことになる」は、自動詞的にそれが起こり、自分の意思決定ではない。
「ことにする」はその逆。
では先生、なぜ自分で結婚を決めたのに、
「結婚することになりました」と言う人がいるのですか?
出たなぁ〜妖怪!😱
いや、いい質問です。
結婚という、自分に嬉しいことを、その気持ち全開で人言うのは、日本ではためらわれるのかもしれません。ここは謙虚に、「そのようなことになりました」と言うのが日本語では自然で、偉そうではない、自慢したがっているように聞こえないため、好まれます。
その背景には、こうなったのも私一人の力ではない、支えてくれた周囲のお陰ですという気持ちが隠れていそうですねとお話ししています。
これが「転勤」なら、わかりやすいです。
「転勤することになりました」。転勤は会社の決定ですね。
それを受けて「自分はどうするか」と言いたいと、こうなります。
「転勤《することになった》のですが、子供が受験生なので、
単身赴任を《することにしました》」
こう言うのが自然と言うわけです。
芋づる式質問は、いつでもどこでも、急に始まります。
ですので普段から類似語・類似表現には意識していると良いと思います。
つまり、引き出しをたくさん持つようにしていれば怖くありません。
今は便利になり、ネットで「とうとう」「ついに」「やっと」の違いは・・などと検索すれば、すぐに教えてくれます。
けれど、それを一読して理解できるのは、それが母語である日本人で、
そうでない人には、例文をできるだけたくさん挙げて説明する必要があるでしょう。
辞書を引くと、「とうとう」も「やっと」も「遂に」も、
at last, finally と出ますね。
けれど、「どれでもいいです、みんなat lastです」と教えるのはNGです。
「とうとう」は、良いこと悪いこと両方に使えます。
過去形・未来形、両方です。
例)
がんばって病気と闘ってていたが、とうとう力尽きた。(悪い)
(やっと、とは置き換えられない )
JLPTに何回も落ちたが、今回とうとう合格することができた(良い)
(やっと、と置き換えられる)
とうとう明日は彼に会える。
「やっと」は、主によいことで、待っていたこと、期待していたことに使いましょう。
過去形・未来形両方に使えますよ。
例)
・ああ、やっとバスが来た!
・コロナが終わって、やっと今年の6月には日本に行ける。
悪いことに使えませんので、
「ずっと入院していた叔母がやっと亡くなった」はスーパー🆖です。
ただ、あなたが叔母さんの唯一の法定相続人であり、
叔母さんが遺産をちらつかせてあなたを翻弄していた場合や、
あなたが悪い人で、叔母さんの死を密かに願っていた場合は、
「叔母め、やっと死んでくれた。随分待たされたものだ」
という事は、間違いではありません。
でも気をつけて使ってくださいね。
ちなみに、「とうとう」と「遂に」は、
始めたが、理由があって、最終的にはそれが達成されなかった、
実現されなかったときにも使えます。
なので、
◯彼が 別れた妻に会うことは とうとう・ついに なかった。
× 彼が 別れた妻に会うことは やっと なかった。
この辺りは私たちも普段あまり意識していないので、
気がついたら早速、頭の引き出しに収めておきましょう。
いつ使うことになるかわかりません。
使い分けの難しい言葉については、私は
・どの時制(過去・現在・未来)なら使えるか。
・否定・肯定を使って不自然になる言葉はどれか。
・提案(しましょう)や、命令(しなさい)に使えるかどうか。
ここを考える習慣があります。
Q:いつ「に」を使い、いつ「へ」を使うべきですか。教えてください。
これは、「へ」を出さない教科書もあるぐらいですので、
答えにくい質問かもしれません。
私はその場で 3列になる表をGoogleDocで作り、
生徒にはまず左端に、「に」をとる動詞を入れていってもらいます。
その上で、「へ」が使わない言葉にだけ ×をつけます。
このレベルではこれで十分だと思います。
日本語レベルがあがってきた人は、似ている言葉に苦しみます。
特にJLPTを受ける人は、全部わかっていなくてはと思うために、とても気にします。
以下は、今までよく出た質問です。
現実・現況・状況・実情・現状の違い。
経済と景気の違いは?
街と町は同じですか?
貼ってある・貼っておく
温まっている・温めている・温めてある
この辺は、教師でない日本の人が、いきなり知り合いの外国人に訊かれたりしても、咄嗟には答えられないところだと思います。
日本語教師は、うまく教えられなかった経験ををいい反省材料にして、
あとで例文をたくさん作って自分で比べてみる
どうやって教えたら、すんなり入るかなという気持ちでいる。
そうしていたら手持ちの駒が少しずつ増え、教えるのもどんどん楽になると思っています。
サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。