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日本語教師日記150.雑談(1)「お母さん」の呼び方

1時間まるまる1対1で向き合って日本語を勉強していると、
生徒も息詰まるでしょうが、私も同じです。

人間の緊張や集中って、15分しか保たないそうですね。
だから私は、ときどき、フラット・トマト(またはポモドーロ)
というアプリを使って、15分刻みにタスクをこなすことがあります。
これ、なかなかいいですよ。
せっかちな私に合っています。
どんなに途中でも、チャイムが鳴ったら放り出して、
次のタスクにいかなくてはいけないのです。
使っていると少しハイになってくる優れたアプリです。


さて、その途切れがちな集中力ですが、
レッスン最中に別に時間を測っているわけではないですが、
教師も生徒もしんどくなってくる瞬間があります。
そのちょっと前のタイミングで、私は一休みするようにしています。

話すことはいくらでもあるのですが、私の性格上、受け狙いが多いです。
張り切ってしゃべります。

どんなことを話しているかの例の一つ目です。

「日本人の子どもも、『ママ』は小さいときによく使いますね。
それが、『お母さん』となり、大きくなると『母』と、
場によって使い分けられるようになり、
さらに、『おかん』『おふくろ〜』になる男性は多いでしょう。
そうそう、それからもう一つありましたね」

「なんですか、先生」

「呼んでも叫んでも、『んー』になる」

「ははは、なるほど!」

「でね、あなたの言葉で、お母さんは何て言いますか?」

「・・・・ですね」

「あ、やっぱり M で 始まるね」

「先生、やっぱりって?」

「日本語ではMでは始まらないんでちょっと残念なのですが、世界の言葉で、
お母さんを表す言葉は、Mで始めることが多いんですって。

英語は mother, mammy, mum, mom でしょ?
ドイツ語は mutter ね。
イタリア語とスペイン語だと、madreとか」

(私はいつも、「母」の言葉を生徒から教えてもらっています)

「で、これがまた何でかって考えてみると、
うちの子どもが話し始める前、喃語の時代ね、
まんまんまんまん・・ってよく言っていたのです。

MとBって、両唇音というのですが、赤ちゃんには言いやすいんじゃないかな?
だから、最初に接する人であるお母さんについての言葉が、
Mで始まる言葉になりやすいんじゃないかと」

「なるほどね!」

「また、日本語の「ご飯」を、幼児語で「マンマ」と言います。
まあ、大人でも言うか。
「おまんまのくいあげ」、これは、
ごはんを食べることができなくなるぐらいに逼迫ひっぱくする
っていうことなのですがね。

これも、大人に「ごはんくれ」って言わなくちゃいけない幼児にとって、
マストな言葉だから、言いやすい「ま」で始まる言葉になったのではないでしょうかね」

「なるほど」

「それで思い出したのですが、脱線しますけどいいですか?」

「いいですよ」

「ありがとう。
私、最初の子どもができたとき、生後1ヶ月で仕事を再開して、
その当時主夫だった夫が、私がいないときには授乳していたんですわ」

「ふむふむ」

「で、ある日 赤ん坊が夫に、『ま・・ま・・ま・・』
と言いながら高速で這ってきたので、
(おお、ママと言おうとしているのかな?)
と思ったんですって。

それで、

『ママがいいの? ママ、いないんだよ。
ほら、言ってみな、ママ、って』

と話しかけたら、どうも別にママがほしかったのではないようで、
大変に怒って、じれた様子で、

「マッマッマ、マッ、マンマ!」

と言ったそうです。

それで夫が、

(おおそうか、お腹減ったのね)

と思って、母乳を解凍して与えたら、
赤ん坊はゴキュゴキュゴキュと一気飲みをしました。

飲み終わって哺乳瓶を放り出したのを、
夫が拾いに行きながら、赤ん坊に

「美味しかったですかぁ?」

と日本語で聞いたら、赤ん坊が言ったんですって。

『うーん、・・・まあまあ』

って。

嘘つけ!

夫は自慢そうに、

『私は赤ん坊と、【マ】だけで会話ができました』

と喜んでいましたけどね」

「あははは、なるほど!」

「あなたはそれよりは全然上手なんだから、
ま、頑張ってくださいよ日本語を」

「はい、わかりました」


私がこのように、「ちょっといいですか?」と言いながら脱線しますので、
私の生徒たちは、初心者でもすぐにこの「ちょっといいですか」
を覚えて使えるようになります。


考えてみたら、私が家を一歩も出ない日も多かったこれまでの3年間、まあまあ楽しく暮らせてきたのは、こんなふうにたくさんの人とおしゃべりできるからだと、思いました。
感謝しなければなりませんね。

続きます。

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