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エッセイその90.翻訳の沼(6)紳士はマニキュアはしていなかったの巻

誤訳あるあるの一つの例です。

自分の誤訳は、(自分では気づけないだけに) 思いっきり棚にあげ、
面白かったものを記録します。


以下は、米国人翻訳家A氏とのやりとりです。
全く手を加えていませんので、
A氏の日本語の素晴らしさがおわかり頂けると思います。


From:  私tamadoca
To:       A 氏
件名:紳士はマニキュアをしてなかった件

Aさん

おはようございます。
面白いことを見つけました。

「グッド・オーメンズ」
の日本語訳の中に、「あれ?」と思う部分がありました。
2箇所です。

クローリーはマニュキュアを塗った爪を・・

と、

アジラフェールは美しくマニュキュアを施したその手で・・・

です。


日本では、マニキュアといえば、
まず、そういう製品=nail polish/ nail vanish 
のことです。

そして動詞としては、nail polishを爪に塗ることを
「マニキュアをする」
と言いまして、「爪の手入れをする」意味はないです。


つまり、マニキュアといえば、
女性が、おしゃれのために爪に色を塗る、
その意味しかありません。


さて。最近10年ぐらいでしょうか、
「ジェルネイル」が流行していますので、
それに引っ張られて、

マニュキュアをする、マニュキュアを買う

と言う人は、若い人では いません。
私のようなおばさんは言うかもしれませんが。
とにかくみんな、「ネイル」する  と言います。

けれど、この翻訳を日本人が読めば、100%、

「二人の男が、おしゃれのために爪をピンクや赤に塗っている」

と理解するでしょうね。

下手をすると、

「外人て、おしゃれな人は男もマニュキュアを塗るのね?」

と思いかねません。

原文では、

exquisitely manicured   ですので、

「よく爪の手入れもしたきれいな手」

ぐらいがいいのじゃないでしょうか。

どう思われますか?


翻訳者の名誉のために申し添えますと、
日本では、男性が手の手入れを人にしてもらう(床屋などで?)
習慣はなく、

マニュキュア という言葉は、
商品名、または、
nail plishを爪に塗る と言う意味しかありませんので、
このように訳しても無理はなかったかなと思います。


長々と失礼しました。

ではまた・・・


ーーー早速懇切丁寧な返信をいただきました。ーーー


From:     A氏
To:         私 tamadoca
件名: Re:紳士はマニキュアをしてなかった件


tamadoca先生

こんばんは。

面白いですね!日本ではマニキュアはポリッシュだけを指すと分かりませんでした。


<<exquisitely manicured   ですので、
「よく爪の手入れもしたきれいな手」
ぐらいがいいのじゃないでしょうか。
Aさんはどう思われますか?>>


先生の和訳が正しいです。「exquisitely」を使ったので、普通の人より丁寧に手入れをしているに違いありませんが、ポリッシュを塗っていないと思います。目に浮かぶのは爪ヤスリを使ったイメージです。それでも、私と同年代以上の男性の中では珍しい行動ですが、金持ちで豪華なものが好きな男性なら、「Get a manicure」:プロに爪の手入れをしてもらうことがしそうなイメージがあります。(もしかしてクリアなポリッシュを使うかもしれませんが、男だと大体ポリッシュなしだそうです。)

とはいえ…クローリとアジラフェールがマニキュア店で隣の椅子に座って仲良くネイルをしてもらう場面を想像すると可愛いと思います。 ^^

・・・後略・・・


私は子供の頃、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンや、ホームズとワトソン君の大ファンで、ほとんど2Dラブレベルでしたが、翻訳を見ていると、紳士方がどうも、普通にマニキュアを塗っているのです。
子供心にも、さすがに・・透明のものであろうかと思っていましたが、
実際は マニキュアという 日本語に定着した名詞に引っ張られ、
be manucured という動詞で出てきていることを見落としたための誤訳であったのかもしれません。

確認して、長年の疑問が氷塊し、とてもすっきりしました。
紳士がたもマニキュアは塗っておらず、爪の手入れをされていたわけです。
床屋さんから、アフターシェーブの匂いをほんのりと漂わせて出てきた紳士は、
爪のあたりも、ささくれなどはなくて、綺麗に整えられていたことでしょう。

こんな話がまだ少しありそうです。
今日はこれで・・・。



おすすめはこちら。現代に生きるルパン。

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