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日本語教師日記107.ホワイトボードが逆に新鮮

2022年年明けのレッスンのこと始めは、
1月4日、アメリカに住む11歳少年の初回授業でした。

彼がアニメやゲーム、コミックが大好きなのはもちろんですが、
地頭が非常によく、自分から日本語に興味を持ったそうです。
で、親御さんにせがんで、去年の8月から、
Dulingoというネット語学学習ツールで独習していたけれど、
どうしても日本人と生きた日本語を学びたいということで、
お友達のお友達つながりで、私のところへ来てくれました。


ちなみに、今までに私が出会った子供ちゃん生徒たちはこんな感じです。

・ご両親のどちらかが日本の方で、すでに多少、あるいは だいぶ、または とても上手に日本語が話せる状態で私のところへ来てくれます。
文型を0から入れる必要はなく、文法の説明をしなくても、「違うよ、こうだよ」と導くとどんどん吸収していく。
在外の子らが多いです。
今二人、こういう子たちを受け持っています。

・ご両親が日本に駐在している間に、「この子の将来の武器に」と言って始めさせる。(日本に1、2年しかいないのでそこはちょっと期待しすぎかと)
・アメリカンスクールの日本語授業では足りないと親御さんが思って始めさせる。

100%本人にやる気なし。一番エネルギーを吸われるタイプ。

あまりにおふざけがすぎますもので、
「んんもう、お父さんに言いつけちゃうから!」
と、脅かしたこともあります。

そんなこと、教師が言っちゃダメだと思いますけれど、

「私は高い先生なので、そのお金を、
あなたのお父さんに無駄にはさせられません。
そういうお金は、日本語以外のことに使った方がいいと思うので、
私がお父さんに話してあげる。
君は何がしたいですか? 遠慮なく言ってください。ささ!」

と言ってびびらせてことはあります。
本人、あまり改心はしませんでしたが、
私に消しゴムや輪ゴムをぶつけてくるのは止みました。


・ご両親のどちらかが日本人で、日本に移住してきたが、英語だけで育ってきたために日本語が0。
公立小学校の取り出しクラスによくいるタイプ。
HRや体育、音楽、図画工作だけはクラスに戻って行ったり。
4年生、5年生でも。
日本にずっと住むならこれでは困るのですが・・。
シラバスも何もなく、低学年国語の教科書のみ読ませられて終わる。
一番気の毒なタイプ。


しかしこの彼11歳少年は、上記に当てはまりません。

好奇心いっぱいに、日本語の文字の歴史、新幹線の乗り心地、
富士山は見る山であって登る山でないと聞くのはなぜか。
質問は止まるところを知りません。
すごい。

第一日目の最初に、

「何か、はじめに訊きたいことがありますか」

と訊きましたら、

「数字の4は、し、よん、とありますね。4だけじゃなくて、7と9もそうですね?
    いつ 、どれを使うかという法則がありますか?」

と、いきなりドストライクな質問をいただきました。

「いいねぇ・・・じゃあ、お母さんに送っておいた、
GoogleDocsを開いてください」

と言いますと、届いていません。
お父さんと、本人のメールアカウントにも送ってみましたが、
Googleが首を縦に振らないのでした。

ええい、時間がもったいない。

「鉛筆と紙、ありますか?」

ーーはい、あります。

「じゃあね、書いて見せるから、君もどんどんノートに書いていってね」

こんなことになりました。


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驚いたことに、これで合点した彼、

「じゃあ、10は 『いちじゅう』ですか?」

と訊いてくるではありませんか。

ーー残念、10は『じゅう』でいいです。100まで言えますか?

「やってみます。じゅう、に〜に〜・・にじゅう〜、さん〜じゅう〜・・

ゆっくりながら100まで言えまして、さらに、

「100は、『いちひゃく』じゃなくて、 『ひゃく』ですか?」

と質問してきました。

すごいですね。


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「この漢字は知っています。Person, peopleでしょう?」

ーーそうです。でも、3つの読み方があるのね。

「いつ、何を使いますか?」

ーー言葉によりますが、二つの漢字の組み合わせで決まりますので、
一回覚えれば大丈夫です。
覚えないと全くダメですけどね。
ただし、授業で漢字はやらないから、自分でやるんだよ。

ーーやります。今は僕はこれが書けます。

と言って彼が書いてくれたのが、「冬」と「夏」

な、なぜ?

「ちょっと、漢字の教科書をカメラにかざして見せて?」

ーーはい、これです。

「君ね、これ、book2ですわ。book1を買ってもらおうか。
初歩の初歩の漢字は象形文字だからね、面白いよ。こんな感じ・・」


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「Wow!  おもしろいですね!  さっそくお母さんにbook1を買ってもらいます」

ーーそうしてください。

「なぜ、1つの漢字に、二つの読み方があるんですか?」

ーー二つどころの騒ぎではありません。3つも4つもありますよ。
なぜかというと、昔、中国には焚書ということがあってね・・
とか言い出すと長いな、う〜む。
そうだ君はさ、ブラッドベリの古典の「華氏451℃」って、
・・読んだこと・・・ないよね?

「すみません(ここだけ日本語)、ありません」

ーー先生、脱線すると長いので、今度説明します。
今のところ、一つの漢字には、一つ以上の読み方がある、
ということだけ、頭の隅に入れておいてください。

「はい、わかりました」(これも日本語だった)


で、Day2も、漢字は独習がモットーの私の授業ですが、
お楽しみのために、ちょっとだけ漢字をやりました。

いそいそと文具店に行って、いいホワイトボード買ってきたのです、
100均のじゃなくて。


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そういや、

太陽の昇る日本国の王子様の僕から、
太陽の沈む国、中国の王様にお便りします、お元気ですか?

と書いちゃって、相手の逆鱗に触れた聖徳太子の話も、
したかったけど、授業は相手の時間なので、我慢しました。

それから、彼は二回目にして、
見事に「の」の使い分けができるようになりました。

所有の「の」:僕のスケボー、お母さんの靴

所属の「の」:学校の友達、日本語の先生

場所の「の」:ホテルのカフェ

これ、いちいち英語から翻訳しようとして、
結局混乱するのは大人生徒です。

彼は、ルールだけ教えたら、見事にこれが日本語で言えました。

↓ これです

「東京のホテルのラウンジのピアノのスツール」

う〜む🤔     伸びそうですね。

感動して思わず言っちゃいました。

若い者はいいね、先生大好きです。
だって君、耳から言葉が入ったら、脳を通さずしゃべってるじゃない?
それって、母語を習得するのに似ているんですよね!

なんか失礼か。

そして、ホワイトボードや、紙と鉛筆で書き合って授業を進めるという合意ができて、久しぶりに手書きでゆったりとした授業ができることになりました。
新鮮ですね。


0に近い人を教えるのは久しぶりです。

なんか、マイフェア・レディのヒギンス教授とか、
なんなら、ピグマリオンとか、あとコッペリア作った人?
そういう先生方の気持ちがわかってしまう私です。


でね!

上手になったらこれを一緒に読みたいです。私の趣味ですけど。


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