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エッセイ147.翻訳の沼(13) それが日本にないので ②ブッククラブ

「デスパレートな妻たち」のような、アメリカのホームドラマを見ていると、
よく、

「ブッククラブに行く日だわ」とか、
「今日はブッククラブがあるの」

というような台詞せりふが出てきます。

見ていると、誰かの家に近所の友達同士が集まり
(私がドラマで見たことがあるのは女性だけですが)、
お菓子や飲み物が そこに用意されていたりするようです。

そのときには、一緒に黙って本を読むのではなく、
かといって、読んだ本、読んでいる最中の本について語り合いもしない。

だいたい、ゴシップを出しあったり、喧嘩などもしているようです。

うちの旦那とその母が、毎朝オーディオブックを
こっちとあっちで一緒に聞いている(母の目が見えなくなってしまったので)
のも、便宜的に私は「ブッククラブ」と呼んできましたが、
調べると実は以下の3種類があるということがわかりました。

・ブッククラブという任意団体に入会し、
有料で、定期的に良質の本を送ってもらって読むこと。(個人です)

・アメリカの小中学校などで、生徒が本を読まなくなり、
かといって国語(英語ですが)の授業があまりにもつまらないので、
みんなで1冊の本を読んで討論したりの、
アクティブな読書方法がはじまっている、そのこと。

・前述の、友達が集って同じ本について語らうもの。
(語り合わないことも含む)


現代では、コメディ映画のネタになってしまうぐらい、本来の意味を失った、

女性たちの、本を介在させたお茶会・お喋り会

になっていることも多いそうです。

でも、それだって、自分なら本屋では手の伸びないような本に出会える機会でもありましょうから、私も日本にそういうのがあったらいいなぁと思っています。



そんな現代のブッククラブはこれで・・

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本当に余計なお世話ですが、ダイアン・キートンて、
本当に、首を見せませんよね。
たまに見せても、太いチョーカーとかしています。

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わかいときからずっとそうなので、彼女の出る映画を観るときは、
今度はどんなかなと楽しみにしています。


本来のブッククラブは、こちらを観るとわかるかもしれません。

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邦題は「ジェーン・オースティンの読書会」。
本も、読むみたいです。


さて、私は今、翻訳家の友人(アメリカ人)が書いた小説を、
英語から日本語に一緒に訳しています。

最近、同じ部分で悩みました。

小説の舞台は日本なのですが、原文で

「それは、ブッククラブの仲間に母が自慢できるようなものではなかった」

というところがあって、そこです。


昨日の、「ピリッとしたお菓子・美味しい味の、塩味の、甘くないお菓子」
じゃありませんが、「ブッククラブ」、日本にコンセプトがないようなのです。

「これはどう訳せばいいのでしょう」と訊かれ、

「ブックも  クラブも日本人はわかるけど、
ブッククラブとなると、難しいですね」

と、腕組みをして悩んでしまいました。


私:日本にはブッククラブのようなものが、多分ないと思うんです。
真面目な「読書会」はあると思うのですが。
あなたの言うこの、ブッククラブは、
これ、みんなでシーンとして本を黙読していたり、
活発に本について語り合ったしている集まり、じゃないでしょ?

彼:じゃないです。

私:食べたり飲んだり、噂話もしちゃうでしょう?  

彼:しちゃいます。


アメリカのブッククラブは、主に女性たちの小規模な気軽な集まりで、
本を絡めて集まって、おしゃべりをするのだそうです。
その中から、親しい友人ができていったりしますとのことです。


私:だとすると、そういうのは日本にはないと思います。

彼:ですよね。

私:でも、ないからって、昔の「訳註」みたいに、
章の終わりや本の末尾に説明するのは嫌ですよね。
日本にあって、「これに相当するもの」に置き換えたらどうでしょう。


彼に賛成してもらい、私が提案してみたのは、初めに「ママ友」。

まず、

ママ友=play date をする相手

であるかどうかという話になりました。

アメリカにも公園デビューがあり、
コミュニティセンターのような場で、
ママたちが赤ちゃんを連れて集まって友達づくりをする、
ということはあるそうです。
母親は孤立しやすいですからね。

♪ともだち・ひ・・ひゃくにん・できるかな♪😅

と、子供のかわりに気を揉むのは、洋の東西を問わないのですね。

そして、友達になれたママ友同士で、一緒に遊べたらいいなという子がいれば、
そのこのお母さんに、

今度よかったら、一緒に遊ばせませんか?

と申し込んで遊ぶのが、「プレイ・デート」というものです。

ここで、

「プレイ・デート」と「ブッククラブ」は、雰囲気が違うと思います。
先生、その、日本の「ママ友」とはどういうものですか?

という質問が 彼から出ました。

私も遠い昔をつらつら思い出して、答えます。

「いろいろありますよ。

幼稚園バスのとまるところで一緒に待つ羽目になった、
「気の張るママ友」「トラブルに発展しやすいママ友」も、ママ友でしょうが、
これは、友達とは呼びたくない人が多そうですね。

児童館で、母親たちを孤立させないようにと、
行政の肝煎りで行われる「赤ちゃんとママの社交クラブ」(?)
そんなところでで知り合うタイプもあります。
私はこれで、たくさん友達ができて助かりました。

それと、保育園のママは忙しいので無理だと思いますが、
幼稚園から、まだ単独行動の難しい小学3年生ぐらいまでの間に、
子どもの安全確保と、遊びのために、
かなり便宜的に、期間限定で集まるタイプもあります」

マウンティングも、楽しさも、苦しさもある「ママ友」は、
ブッククラブのメンバー同士の関係に似ていないでしょうか。

ママ友グループが、ランチ友達に発展したり、
子供が大きくなってからも繋がっている可能性もあり、
噂話ありの、旦那のステイタス比べもありのと考えると、
ブッククラブに近いのではないかと思ったのです。

ついでに以下の文章を検索して見つけてきて、一緒に読んでみました。


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素晴らしい文章です。
私の考えなかった部分もカバーしていました。

しかし、これを読んだ彼は、

「残念ですが、違うと思います」

と言います。

それではというので、「お稽古事でできる女の世界」をちょっと紹介しました。

年老いて孤独だったり、空の巣症候群に苦しむ女性に対して、必ずのように、
「お稽古事でもして友達を見つけたらどうか」
というアドバイスがありますのでね。

以下は私が書きました。

「お稽古ごと。
稽古には、練習という意味があるが、
趣味的に習うことが多いと思います。
テニス部の部員が毎日練習するのを、
テニスの稽古とは言わない感じがします。
また、稽古には「先生」というより「師匠」がいて、
一人だけではなく、生徒が「集って」習う、ニュアンスがします。
「お稽古ごと」というと、先生や生徒仲間との交流も入ると思います。
子供にさせたり、お金や時間のある女性が主にしていそうです。
ゴルフのお稽古、麻雀のお稽古とは言いません。
フラ、日本舞踊、伝統的な和楽器などにぴったりです。
若い人がやっていても、「昨日フルートのお稽古でさぁ」
という感じには使っていません」

これで上級者の彼には伝わりました。
説明長い長い。


「ただね、今は長引く不況で、

【ワーママ】vs【専業】

のぶつかり合いもできているそうです。
昼間から、フラとか英会話とか行ける人は、今の日本では恵まれた層で、
かつ、子どもの手が離れた年代の人が多いと思うのです」

そう話すと、

「それだとやはり、ブッククラブには相当しないでしょう」

ということでした。


それで私は、「ご近所付き合い」ということを持ち出しました。

長く一つ所に住んでいて、家族構成や、
お互いのやっていることもまあまあわかっている同士が、
立ち話なんかを重ねるうちに、気心が知れてくるというもの。

彼がイメージしやすいように、ロールプレイを一人でしてみました。

おはようございます。
あらおはようございます。いつまでも暑いわねぇ。
そうねぇ、でも洗濯物はよく乾くよわよね。
そうねぇ。あっ、ところで、おたくのお兄ちゃん。
はいはい。
決まったんですって?
いや〜はい、やっと内定出たのよ。
任天堂ですって? すごいわねぇ〜。
いやいや、もう、それまで何十社お断りされたことか。
でも任天堂ですもん、すごいわよ。
いやいや、もうオタクで困っちゃう。
ゲームを仕事にまでしちゃって。
いえいえ、優秀よう〜、天下の任天堂ですもの。
いえいえ〜・・・

声色を使う、大奮闘でした。

「お兄ちゃん」の部分は、やはり超オタクであるところの、
翻訳者の彼の名前を入れたので、しっかり笑ってもらいました。
(彼はゲームの翻訳もする人です)


「先生。
そういうのがご近所づきあいなら、ブッククラブに相当すると思います」

「ああ よかった」


というわけで、翻訳はめでたく、

「それは、ご近所さんに母が自慢できるようなものではなかった」

に決定しました。

ただし、ロールプレイのこの母親は、
普通に社交的な年配の専業主婦の人なのでこのようになりましたが、
富豪の奥様だったりすると、また悩ましいところです。
あまりご近所づきあいもしなそうな気がします。


今日も翻訳の沼にずぶずぶずぶ・・・。

たった1行の翻訳のことで、長いブログも書けて、本当によかったです。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


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