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日本語教師日記45. 法則がわかれば怖くない(5)人称代名詞③日本語における「私隠し」の法則

今日は、日本語における「私隠し」の問題です。

神隠しではありません。
日本語では、1番初めに「誰だれ」を言うと、それに続く行為は、
最初に出したその人について言っているのだ、というお約束があり、

一度口にしたからには、
滅多なことでは人称を出すわけにはいきませぬ

という法則があります。

それは私が勝手に考えたもので、
日本語の教科書ではまだ見たことがありません。

どういうことかというと、当人たちがわかっているなら、
極力「私・あなた(の代わりの二人称)」は言わないということです。

例)
昨日 久しぶりに渋谷に行ったのですが、
人出が多くて驚きました。

すでに、「私」を全く言わない人がほとんどでしょう。

ただし、最初の「私」は言う人も多いです。
ニュースに出てきたアナウンサーが、
「私は今、台風の上陸間近の沖縄に来ております」
と言いますね。
このように、初めて姿を現し、これから「私の見たことを言いますよ」などのときは、やはり「私は」を言うのが普通です。

それにしても、

昨日(私は)久しぶりに渋谷に行ったのですが、
人出が多くて(私は)驚きました。

かっこ内ですが、外国語だと、この(   )内を、言わないことは あり得ません。


これが、日本語で、【あなたとわたし】 という、
一人称・二人称を背負った同士の二人の会話だとこうなります。

A:昨日渋谷に行ったけど、人出が多くて驚いたわ。
B:よく渋谷なんか行ったわね。
       私は怖くて無理だわ。

このように、【私・あなた】を言わない傾向は顕著です。

ちなみにBさんの「私は怖くて無理」の「私は」ですが、
これはまた別の「は」の機能があります。
2つ(もっと多い時もある)以上の、何かの違いがあるものについて、比較して述べたい場合、ハイライターとして用いられる「は」です。
ここではBさんは、「あなたは平気だろうが、私は無理である」と言いたくて、「私は」をあえて言ったのでした。

この「私隠し」、実際は「人称代名詞隠し」に、苦しむ日本語学習者が多いです。

多いというより、間違えない人や、苦労しない人はないでしょう。

うちの住み込みの外国人旦那などは、日本に来て30年以上、私と暮らして25年以上経ちましたが、いまだに、やってます。(日本語の場合です)

私:この間久しぶりに父に手紙出したんだけどね、
       昨日、着いたよってわざわざ電話してきたわけ。
夫:誰が?
私:父が。返事はあとで書くけど、とりあえず礼だ、って言って。
夫:誰が返事書くの? 誰がそれ言ったの?
私:父が。でね、母に言ったんだって。
       tamadocaにもずいぶん会ってないなぁって。
夫:誰が、お母さんに言ったの?  誰が君にずいぶん会ってないの?
私:父が。き〜〜!🙉

これは、「こう言う傾向がある」ということをお見せするため、誇張していますが、日本語を話す外国人にとって、「人称隠し」は、見過ごせない大問題です。

日本語ネイティブ以外の皆さんには、
話者が放り出した「誰かの行動動詞を受ける」受け皿、
としての人称がほとんどないことが、混乱の理由です。

夫の名誉のために申し添えますが、英語で喋るときの私も、かなり日本語的に人称を落としまくっています。それで家族からは、

もっとちゃんと、わかるように喋って

と言われています。

前日の父と私の件ですが、英語だと必ずこうなります。
日本語ではほぼ言わないのが、太字のところですね。

The other day, I sent my dad a letter, and he rung me to tell me that he received it.  
He was saying that HE would reply to Me later, but HE said that he just wanted to say thank you anyway.

おそらく英語では誇張ではなく、そういう人称を省くと、何を言っているのかよくわからなくなる、ようです。

日本語との違いは、この「英語では普通の言い方」 を、
日本語にもう一回ひっくり返すとよくわかります。

こうなります。

「この前私は、私の父に手紙を送りましたが、彼は私に電話をしてきて、彼はそれを受け取ったと私に言いました。
彼は、私に後で返事を書くが、私にお礼を言いたかったと言いました」

みたいな感じになりそうです。

私が家庭内で英語を喋るときは、日本語だと「全然情報が足りていない話し方」をしていて、英語だと、「言わずもがなのことを一生懸命付け足しながら話す疲れる話し方」をしていることになります。


ここに、非常によく使われている「みんなの日本語」という教科書があります。

第一課は 0ビギナー、13課はこの本の半分まで終えたところ、
25課はこの「初級Ⅰ」の最後の課です。

いかに「わたし」「あなた」を言わないかをご覧になってみてください。


第一課

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13課です。

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こんなに「私は」を言わないのに、いきなり、
「私は天ぷら定食」「私は牛丼」と、自己紹介?をしています。


最後の25課です。

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ミラーさんも、国に帰る頃には、こんなに「人称隠し」に慣れてしまいました。

私はこの教科書は、
「会話がかなり自然」
「学習者につっこまれることを恐れずに、
この認証隠しも含め、ちゃんと紹介している勇気」
を、大変買っています。


次回、三人称についてと一緒に、これに負けずに日本語を理解するコツ についても書いてみたいと思っています。




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