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米中の最悪シナリオは何か。高まる貿易合意破棄とトランプ落選のリスク

トランプ政権の対中批判が止まらない。
今のマーケットにとって米中問題の最悪シナリオとは何だろうか?

マーケットにとって最悪なのは、米国の中国批判がこのまま激化し、中国もそれに呼応する形で、貿易合意が破棄されること。そして、中国を攻撃したにも関わらず、トランプ政権の支持率が回復せず、大統領選でトランプが破れるパターンだと考えている。

マーケットはこの最悪のシナリオを現時点では全く織り込んでいないが、その蓋然性は高まっていると感じている。

その理由の一つは、今トランプ政権が行なっている中国批判は、昨年の貿易戦争の時とは異なり、支持率の回復に結びつかないと考えているからである。

下のチャートはトランプ大統領の支持率の推移を示したものだ。(FiveThrtyEightから引用)
4月から着実に不支持(Disapprove)と支持(Approve)の差が拡大しているのが分かる。

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トランプ政権は支持率の低下を「コロナウイルス拡大を防げなかったから」と捉え、それならば「中国が情報操作をした結果、ウイルスが世界に拡散してしまったのだ」と責任を転嫁しようとしている。

中国が情報操作をしていたか否かはさておき、トランプ政権による中国批判は本当に支持率回復に繋がるのだろうか?

確かに、昨年は中国を批判し、貿易戦争を仕掛けることで、世論もそれについてきた。

しかし、4月以降の支持率低下の原因は「なぜコロナウイルスの拡大を防げなかったのか?」というのは、理由では無いと感じている。

私はトランプの支持率低下の原因は、毎日行われていたコロナウイルスに関する記者会見やインタビューでの失言だと思っている。

特に最近、州政府の支援を連邦政府が行うか否かについて、民主党と共和党が揉めているが、トランプ大統領は「コロナウイルスが拡大し、救済を求めているのは民主党の州ばかりだ。なぜ共和党が助ける必要があるのだ」と本音をぶちまけている。(当然のことながら猛烈な批判を受けている)

コロナウイルスは全米国民が共通して直面している戦いであるにも関わらず、自身の支持基盤しか頭にない発言に、無党派層の支持が落ちてきているわけだ。

トランプ大統領の支持率低下が「ウイルス拡大を防げなかったから」ではないのであれば、中国を批判したところでトランプの支持率は上がらないのではないだろうか。

中国を攻撃した上で、支持率の上昇に結びつかないのであれば、残るのはマーケットの混乱と企業センチメントの低下だけであり、百害あって一利なしだろう。

去年は紆余曲折しながらも最終的にフェーズ1の貿易合意に辿り着くことができた。

しかし、昨年とは異なり、今年は中国側に「妥協するインセンティブが一切ない」ということにも注意が必要だろう。

まず、昨年の両国の経済状況を振り返ると、好調な米国に対し、景気減速が始まっていた中国は不利な状況にあった。

しかし、今は既にコロナウイルスが終息し、企業活動が再開した中国に対して、米国は著しく遅れた状況にある。

そして何よりも重要になってくるのは、民主党の候補がバイデンに決まったことである。

昨年の9月頃、中国の政治アナリストと面談した際に聞いた面白い見方は、「エリザベスウォーレンよりはトランプの方がマシ」というのが共産党幹部の共通見解になりつつある、というものであった。

当時はバイデンの支持率が低下する一方で、ウォーレン候補の支持率が急上昇していた。

バイデン氏はオバマ政権下で副大統領を勤めたこともあり、中国との繋がりは深い。

しかし、ウォーレン氏は人権問題で中国との対立姿勢を明確にし、香港デモの問題では、中国共産党を猛烈に批判してきた。

中国にとってウォーレン氏は、中国が外交上最も譲れない「One China(一つの中国)」の原則に踏み込みかねない危険人物として評価されていたという。

しかし、民主党の大統領候補者がバイデン氏に決まった今、中国側にはトランプに妥協し、華を持たせるインセンティブは一切無い。

むしろ米国の挑発に敢えて乗り、フェーズ1合意で約束した農産物などの購入を止めて、トランプ政権の支持率低下を狙う方が得をするのではなかろうか。

以上のように考えると、私はマーケットにとって最悪のシナリオ、つまり、トランプ政権の中国批判がこのまま激化し、貿易合意が破棄され、しかも支持率が回復せずに大統領選を迎える可能性は意外と高いのでないかと感じ始めている。


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