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恋の終わりの初めての置き土産/230611


突然、音信不通になった恋人。

ほんのちょっと言い合いをしたけど、それが理由なのかもわからない。

一筋縄でいかない人だったから、連絡する方法はあってもしていない。
LINEもブロックされていないし、追いかける方法はある。
SNSも知ってるけど見ていない。

とにかく一筋縄でいかない人で予測不能すぎるから、どこかである日突然戻ってくるような気もしている。
それを望んでいるし、彼ならそれをするタイプだとも思う。

だけど、そうなっても何ももう始まらない。
戻ってきてくれても私にはもう何もできない。

やるべきことはやったのである意味悔いは全く無いし、彼が私を好きだったこともよく知っているから、仕方ないと思えている。
あとは彼の問題だから。
生まれ変わるくらいに何かを変えないと難しいし、それができるとも思えない。

そして何より、彼を待てるほど私は健気でもない。

どこか私のそういった覚悟の無さもこの結果を呼んだとも思っているけど、もう何もできない。

未練があるという話を聞くといつも「無駄だなぁ」と思っていたけど、今はそれがわかるかもしれない。
事実、他の誰を見ても会っても白黒のように見えてしまっていて、そう思いたくないから頑張っているのに、できない。   

顔も覚えられないし匂いも声も忘れたし、具体的な記憶はもう無い。
あるとすれば深くはないけどくっきりした二重の目に高い鼻、白い肌。
大きな背中に、大きな綺麗な絵。

まとわりつく私に眉を下げながら笑ってかけてくれた言葉。

落ち込むことがあってカフェの喫煙所で夜の街を見下ろしながら下を向いていると、笑いながら私の頭を両手で撫でて、顔を上げさせてキスをして、普段強気の私の方が人目に照れてしまって。

どんな時でも全く照れずに自然に私の手を柔らかく優しく握って歩いて。

始まるまで、
ある意味退屈なくらい順序を踏んで、
ある意味退屈なくらいただただ話して、手も握らず。

あらゆる予測不能をくれた人だった。

人を信じない猜疑心の塊の私が「戻ってくるかもしれない」と思うというのは、ある意味私を信じさせたという意味で。

人を信じられたそのことが一番嬉しかったし、結果はこうでも信じさせたあの人がすごいとも思う。

唯一腹が立つのは私の視界を白黒にさせたこと。
根気が無いから徐々に色がついてくるとは思うけど、それは希望なのかもしれない。

何事もポーズからなので無理矢理恋愛しようとして、いつもそうするのにできない。
そもそも、彼と知り合ったのもそれだったし、得意だったはずなのにできない。

いくらでも上書きできるのが特技だったはずなのに、私にしては奇妙な展開だ。
何から何まで予測不能のスーパー変人(褒めている)の置き土産は大きい。

小さくしてみせたいけど、今はできる自信が無い。

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