千葉一周旅行記_5/230601

2023年5月26日夕方

「ごめん、寝てた」

「うん、寝てたね」

友達はタバコをくわえながらなぜか少し笑って運転していた。
さすがに2時間睡眠はしんどい。

しかも車は渋滞していた。

九十九里のどこぞから千葉県を横断しているところらしく、睡魔に負けて少し寝てしまったらしい。
車内DJをしながら、少し目を閉じた記憶がある。

人がいて寝落ちなんて本当にしないのにしてしまった。
緊張していたら睡眠時間2時間でだろうとバキバキに起きているはずだし、そう思うとこの友達はいい奴なんだなと思った。

私のわがままに付き合ってくれてる気がするし、そうは言いながらもわがままとは自覚していないのでよくわからないけれど、いい奴なんだろうと思う。

「次は彼氏に連れてきてもらえよ」

恋人とはどうなるのだろうか。
依存でも情欲でもない、全く初めての恋愛をさせてくれた恋人とは、終わってしまうのだろうか。
私に初めての感情を持ってきてくれたことが嬉しかったけど、こうなっている。
だけどなぜか、終わる気もしない、なのに不安ばかりの日々。

「明後日会うんだろ？
　俺や親友に話したこと、そのまま保留が話せば良い。
　保留のことを大切に思ってたらちゃんと話し合いができるから」

車内はカラオケ大会になった。
渋滞にはこれしかない。

・オリオンをなぞる/unison squre garden
・創世のアクエリオン/AKINO
・Hero's come back/nobodyknows+

とにかく渋滞と疲労で下がった友達のあれこれを上げなければ！！！という謎の使命感に駆られた。
気づけば睡眠時間5時間を抜いて20時間以上運転している。
しかも昨晩も車で寝てるし、そもそもかなり遠回りして私の地元まで迎えに来てくれてるし、とにかく元気づけなければ、そう思った。

千葉市に入り、トイレで降りたコンビニで何やら飲み物を買っていた友達。
エナジードリンクの小さいけど強い系を持っていた。
目に入ったけど見ないフリをして、やっと私の地元に近くなってきた。

「…保留、カラオケ行こう」

「は？今から？」

「そう、だからこれ買った！」

そのためのそれだったのか、とわかったエナジードリンク。
MAXに断りたい。
きみは若いから良いだろうけどこちらはもう疲労困憊の果てだ。

だけど待てよ、本気でお世話になったし、少しなら良いのか…いや、でも車でこんなに歌ったのに？

悩みながらDJをしていると、徐々におとなしい系の曲にシフトした。
確か以前にもこういうことがあって、宇多田ヒカルが好きだったはず、と思い「宇多田ヒカルの何がいい？」と聴くと答えたので入れた。

しかし私は宇多田ヒカルの1stアルバムしか知らないのでその曲も知らなかった。
ただ、この曲調なら次はBeautiful worldだろうと思ってスタンバイさせた。
それだけは知っていたのだ。

「…保留、次、Beautiful worldにして」

「えへっ、もう入れといたから！
　気が利くよねぇ…笑」

友達はなんだか喜んでいた。
このビンゴ感は共感、感情の共有。
私も嬉しい。

家の近くのコンビニに着いた。
いつも待ち合わせるコンビニ。
誰とでも。

「20時間以上運転してたでしょ。
　人を乗せてるから疲れたんじゃない？」

「やっぱり一人とは違うよな」

「発作、出なかったね、私」

「俺は出ないと思ってた。
　それはひとえに、俺の気遣いと、ちょーどいい気の遣わなさだと思う笑」

友達は自信満々に笑顔で言った。

友達は友達なりに色々気を回してくれたのだとその時やっとわかった。
無意識にそれができるのは本当にすごい。

道の駅で買った新鮮な琵琶を持たせてくれた。
車の中で食べても余ってしまったけど、果物に興味ない私が大好きな琵琶。

友達がトイレに行っている間に車を掃除した。
後部座席の溝にゴミを投げるので全部拾って、分別して。
私にはこんなことしかできないなぁと思いながら。
何も返せないし、と。

車のドアを四方開けて掃除しているとアラームが鳴った。
車のドア開けてるからかな、と思ったら割と全方位から聞こえていて、私の鞄の中からも聞こえて「あ、緊急地震速報の音か」とわかって掃除に戻った。

船のようにゆらゆら揺れて、周りを見るとみんなも空を仰いであちこち見ていた。

3…あっても4かなぁ

友達が戻ってくると「揺れが気持ち悪い」と言ってぐったりしていた。
車内のテレビをつけると3だか4で「たった4くらいじゃん、大丈夫だよ。帰れる？休む？」そう聞くとエナジードリンクを飲んで「…帰る」と言った。

「最後に地震 笑」

「忘れらんないね笑」

震度4の地震と私の初めての旅行、逃避行はこうして幕を閉じた。