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【書評】書評、隠れたキーマンを探せ! データが解明した 最新B2B営業法

BtoB営業担当を対象にした大規模な調査結果に基づいて、現代のソリューション営業の課題と解決策を掘り下げている本について書評メモを書いてみる。

著者のマシュー・ディクソンは『チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」』も執筆されており、こちらの本をご存知の方も多いかと思いますが、そちらの続編という位置付けです。

複雑化する顧客組織内の意思決定プロセスとその対処方法に焦点を当てている一冊です。

ソリューション営業の課題

リーマンショック以降、顧客組織内での意思決定者が増加しており、大規模な案件の成立が難しくなっていることが本書の課題(私の課題でもある)

調査によれば、意思決定のステークホルダーは平均5.4人に増加しており、この複雑化は、IT、コンプライアンス、組織のフラット化などが影響している。
例えば、以下のような流れで案件の規模を小さくし、価格も安くしてしまう。
・各顧客部門(Ex.IT部門、コンプラ部門)により、対象案件によるリスク回避したい箇所がある(これを「メンタルモデル」と呼ぶ)

・リスク回避したい箇所は当然部署により異なりこの結果、ステークホルダが増えると合意できる総量は減り(ベン図の重なり面積は減ってしまう)、顧客企業内では「小さな合意」しかできなくなる

・案件の規模は小さくなり、単純な案件になってしまうため、競合企業とのコンペ案件にされやすくなってしまう。

従来の営業スタイルでの対処では、顧客企業の意思決定を促すため、各ステークホルダの「全員説得」が有力な方法とみなされた。しかし、説得を通じて案件の規模自体は小さくなってしまうため、本質的な解決にはなっていない。

「全員説得」ではなく「新規の通念」への誘導

従来の「全員を説得する」アプローチでは、顧客組織内の小さな合意に留まる傾向にある。顧客企業を意思決定しやすくするのではなく、意思決定の内容自体を変えないと解決策にはならない、よって、顧客組織内の「個人目線の既存通念」を個別に改め、「組織共通の新規通念」に誘導すること必要と説く。

単に説得力のある組織共通の新規通念を提案するだけではなく、顧客組織内の「モビライザー」を見つけ、彼らの協力を得ることが鍵となる。

モビライザーとは、組織内での変革を推進する役割を果たす人物で、彼らを通じて、新たな通念を組織内に浸透させることが求められます。

今回の観点(顧客組織を動かす)では顧客は以下2パターンにまず大別され、接触相手として適切なのは後者の「モビライザー」である(一般的に接触しやすいのはトーカーのである、販売員目線の接触のしやすさ=期待値の高さではない点に注意)

1.トーカー(話し好き)

  • 情報提供はしてくれるし販売員に時間を取ってくれるパターンが多く接触しやすい傾向があるが、社内を本気で変えようとは思っていないため、自身で社内を大きく変革するつもりがない

  • 個人的な報酬や対販売員・自社内での関係性構築に重点があり、結果として変革に対しては現状維持バイアスがある

【トーカーの判定方法】

  • 刺激的なインサイト(何らかの変革ができそうな情報「Ex.もし社内のこの問題解決したら売上爆増加すると思いませんか」)を商談で提示してみる。

  • 反応が薄かったり、関心を示さない場合はトーカーの可能性が高い

  • 話す場合の主語が「私たち(組織)」ではなく、「私」の場合も可能性が高い

2.モビライザー(変革者)

  • 自社内の大きな変化は厭わず、そのための複雑なタスクにも着手する意思がある

  • 複雑な購買や、大きな変化に伴う組織内の合意を取り付けるなどする能力がある

  • 必ずしも組織内での意思決定/予算権限ポジションにいるとは限らない

【モビライザーの判定方法】

  • トーカーの場合と同様に提示してみる

  • 刺激的な質問をしてきたり、懐疑的な態度を取ったりとにかく興味を示してきたら、モビライザーの可能性が高い(インサイトに否定的であったとしても情報を吟味しているということなので、判定としてはポジティブ)

本書にはさらにモビライザーを大別しているがそれは読んでからのお楽しみ。

「新規の通念」への誘導方法

新しい「メンタルモデル」は、顧客が気づいていない「型破りなアイデア」を含む必要があります。この型破りなアイディアの浸透と受容に向けた移行も必要。(この辺りはチャンレンジャーセールスと内容が重なる部分あり)

新しい「メンタルモデル」への移行は以下のステップで進める。

  1. 「刺激」の段階

    • 興味を引くデータや事例を用いて、顧客の既存の考えを見直させるきっかけを作る。例えば、「隠れた収益・顧客基盤」「隠れたコスト・リスク」など、顧客が今まで気づかなかった盲点を提示します。

  2. 「深掘り」の段階

    • 新しいアイデアの詳細や合理的な理由、ニーズや課題に関するエビデンスを提供。顧客が自社や業界におけるアイデアの適用可能性について考えるよう促す。

  3. 「自社への適用検討」段階:

    • 実際に顧客企業でどの程度新しいメンタルモデルが発生しているかを診断やシミュレーションを通じて定量化。具体的な損失や見落としている収益を提示し、顧客に解決策を導入する必要性を感じさせる。

総評・まとめ

本書は、前作のチャレンジャーセールスからの環境変化と、型破りなアイディアの提言だけではなく、顧客のキーマン(モビライザー)を通じて顧客組織内にアイディア(提案内容)を浸透させていくと方法論が具体的な例を用いて上手く説明されています。

営業(特に新規・企画営業)を担当している30代から40代にとって、顧客組織内の複雑な意思決定プロセスを理解し、成功に導くための重要なヒントとなると思われます。


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