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後に続く者を信じるというメッセージ

正直、ここまで感動することを当初は想定していなかった。革命とはこうやるのかと、ユリイカ!と大声で叫びたくなる衝動に駆られた。

「鬼滅の刃 無限列車編」この作品が空前の大ヒットを記録しているという事実が、また上記のメッセージに共感し魂が震えた人間が日本中に存在するということが、私を感動させる。

上記のタイトルは、作中では煉獄さんから弟へ、また鬼殺隊の後輩たちへのエールである。そして何よりも、映画を観た我々への激励と福音であるように感じた。

誠実に生きるということ。後輩に役割を任せ、信頼しまたそれを支えること。自己の鍛錬を決して怠らないこと。信念を曲げずに人間としての矜持を保ち続けること。決して焦らず、また最後まで諦めずにその状況の中でひたすら最善を尽くすこと。

言葉として列挙してしまえば、あらゆる少年漫画にも該当する要素はありそうではあるが、この映画の構成はとにかく胸に来るものが違った。

キャラクターの掘り下げ、列車内での顛末、一難去った後の強敵の出現、と分析してしまえば至極単純な構成ではあるが、それぞれに全力で事態を収拾せんとする姿が、胸を打つのだ。

映画の「主人公」は誰か

ご存知の通り、物語の主人公は炭次郎ではあるが、この作品では煉獄さんに主眼を置いた物語であることは否めない。

しかし私はこの映画の主人公はそれを観測した我々であると端的に受け取ってしまった。
何を言っているのか分からないかもしれないが、とにかく私の個人的な感想として「これは私の(我々の)ための物語だ」感じたのだ。
映画が終わった後、多幸感ですぐに立ち上がれなかった人は他にも多いであろう。事実、映画のクレジットで深夜帯にも関わらず、途中で席を立った者は誰一人としていなかった。

弱きを助けることが大切であり、強きを挫くことが絶対ではない

「弱きを助け」ることを求めて、ひたすらにそれを実行した煉獄さんは素晴らしい。これは必ずしも「強きを挫く」ことを求めていないことが素敵なのである。だからこそ「敗けていない」のだ。誰一人として取りこぼさないという理念を掲げるSDGsのように、崇高な目的は果たされたのである。

母の教えを守り、力への誘惑に惑わされることなく、人間としての誇りを胸に強敵に立ち向かう。圧倒的に不利な状況でも全力を尽くし、あらゆる手立てを編み出しそれを愚直に実行する様子は、無条件に素晴らしかった。

後輩たちの受け取り方もまた素晴らしい。
メッセージはしっかりと受け取られたのだ。
無力な自分を呪い、悔しさを噛み締め、明日の自分への向上を誓う。それぞれの決意の言葉には涙を禁じ得なかった。
彼らは発展途上なのである。
若者である。(煉獄さんも若者ではあるが)
だからこそ煉獄さんは未来を託したのだ。
霊的な成熟を求めた。そしてそれは過酷な現実と共に確かに受け取られた。
その様子が我々の胸を打つのだ。圧倒的なメッセージが込められている。だからひたすら感動してしまうのだ。

そして我々はどう生きるのか。
熱い言葉を何度も投げ掛けられた我々にも、やがて同じ感情が渦巻いていく。
状況をただ見守ることしかできなかった我々は、いつしか後輩たちと共に全く同様の無力感に苛まれる。それは完全な同一化である。

絶望的な状況に際して、我々は明日にどう立ち向かうのか。戦争や震災やパンデミック。
様々な困難に直面した我々の心には、それでも希望を持ち、向上し続けろという激励が、煉獄さんの言葉を通じて心に染み渡るのである。

立ち上がれ、それでも前を向け。
受け取った意味は各々で異なるだろうが、炭次郎の心の風景に触れた作中の彼が改心したように(ウユニ塩湖をモチーフにしたシーン)
我々の胸には煉獄さんの炎が燃え移っている。

コロナ禍に翻弄される毎日を過ごす我々に、とても熱いエールを、強き心を、決して諦めない姿勢を教えてくれるのが、この作品なのだ。

冒頭にも言ったが、これは革命である。
観た者の行動様式にまで影響を与える、それは一流の芸術にしかできない芸当を、現代日本で実現し続けているのだ!

物語が与える影響を、その可能性を思い出させてくれた映画、それがこの作品である。

何度も足を運びたくなる気持ちが分かる。煉獄さんの情熱を取りこぼさないように、また自分をチューニングするように求めてしまうのだろう。

何よりもこの作品が広い世代に受け入れられていることが嬉しい。老若男女問わず、希望の物語に触れることは、まさしく革命だ。

特に若い世代には意義がある。
炭次郎たちと同化し、同じように時間をかけて明日を目指せるのは若者の特権である。
それぞれの行動変革がやがてどのような結果を日本にもたらすのか、それが楽しみである。

ひたすらに前向きに、弱きを助け己を鍛え上げる。そのような素晴らしい未来はきっと我々に約束されているだろう。
煉獄さんの魂に共鳴した人々へ、この精一杯の祝福を、未来に向けて讃えたいと思う。

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