『囚人諸君、反撃の時間だ』感想文

ラノベを読むのは何年ぶりだったか。
アタシがラノベに初めて触れたのは、神坂一の『スレイヤーズ』、当時アニメの方から入りヒロインのリナ・インバースを演じる林原めぐみに夢中になったものだ、そこから同じく『ロスト・ユニバース』『魔術士オーフェン』等富士見ファンタジアにはお世話になったものだ。

今回読んだ『囚人諸君、反撃の時間だ』こちらも、その富士見ファンタジアの系列のファンタジア文庫から出版されたファンタジア大賞金賞受賞作品だ。
富士見ファンタジア文庫はかつて富士見書房から、出ていたライトノベルレーベルでその名の通りファンタジーラノベが多く出版されていた。
色々あって今は角川系列となり、そのレーベルを引き継ぎ、そして富士見書房時代から行われていた新人公募の文学賞ファンタジア大賞も引き継いでいる。


そして私が長年読んでなかったラノベをましてデビューしたての新人作品、最近フィクションを読む余裕すらないと嘆いて居るのにと言うのにも話せば長くなるこの因果、さてどこから語ったものかとあぐねいていても始まらないので先に進めます。

端的に言うと久方ぶりのライトノベルちょっと侮っていた。
ラノベというと最近は『なろう~』や『異世界転生』『悪役令嬢』
ドラクエ的なJファンタジーものが主流になっていると聞いていて、ちょっと偏見があったなと反省した。
それこそこの作品は、私が懐かしむような超王道ファンタジー、それこそ『スレイヤーズ』とか『ロードス島』みたいな.…だった、小手先じゃなくて真っ当に作り込んだちゃんとしたファンタジー。
この辺のファンタジーとはなんジャらホイとかなんとか言い出すと、ファンタジー警察に睨まれるので、いいんですセンス・オブ・ワンダーとかそいういうのでいいす。
あとこの作品は30代くらいの方ならきっと抵抗なく読めると思うので超おすすめ。

アタシ、フィクションは設定なりのガジェットやストーリーも大事だと考えているけれども、そこから先の何か考えさせるような考察させるようなもの好きなのね。
さっきこの作品は王道ファンタジーと言ったのだけれども、王道はある意味で手垢に塗れて驚きがないと思われがちかもしれないけれども、ちゃんと深く作り込んで行けばちゃんと今でも通用するくらい面白いのって事を再確認した。
この作品で言えば堕ちた英雄の復活劇の流れ、順風満帆だった英雄が何かしらで蹴落とされどん底に落とされるけれども、機転や仲間やらでまた這い上がっていく活劇、そこに英雄の冒険を支えるヒロインやライバルが配置されてまた英雄は成長して栄華に返り咲いて冒険は続くのような。
これがとてもテンポよく纏まってストレスを感じさせない。
個人的にライトノベルはこのキャラクターの掘り下げとテンポが重要だと思っている。
序盤から中盤にかけて主人公の転落ぶりと、監獄学園での屈辱の日々、そして人類から魔族に対しての徹底的な差別描写と主人公もまた同じ人類から差別を受け続けている描写が続くが、それもあまり気にしない程にテンポが良い。
そこを気にならないのは合間合間に小さなクエストの成功やヒロインとのつかず離れずな距離感、幼なじみ等の理解者等が主人公を後押ししているからだろう、そして終盤にかけての絶体絶命からまた巻き返すカタルシスが爽快だ。

さてこの作品は作者がどこまで意識的なのかわからないが『差別』と『セカイ系ボーイミーツガール』がテーマになっている様に思えた。
『差別』描写については細かなところまで執拗に描いている。
この作品では人類と魔族と呼ばれる人類より強力な魔力を持つ人種が登場し、その2者の間で対立が起こっている、人類領ではそこで暮らす少数の魔族もおり人類によって迫害の対象となっている、また魔族もまた人類に対して強硬な姿勢で臨んでおり、両者の溝が深い事が執拗に描写されている。
特に序盤より主人公は登場する魔族全てに対してそうした意識を持ち、登場する助けを乞う弱者魔族に手を施したりせず、当初は魔族であるヒロインに対しても心を開くことはなかった。

そして主人公もまた『絶唱者』と呼ばれる魔術を行使できない人間として人類側より迫害を受けていた、国を統べる皇帝の候補者という身分でありながら被差別側で有ることを隠し英雄を全うしていたが、冤罪により監獄学園アインズバーグに収監され、英雄というロールを外れた主人公への迫害がより一層強くなる、主人公の非力さが際立つ。
こうした描写が丹念に執拗に描かれており、立場は簡単に反転する事を表しているようだ。

またヒロインも魔族であるが、かつてとある理由により収監された魔族の王であった事が明かさる。
監獄で同室となった主人公も皇帝候補だったが、冤罪により貶され『絶唱者』という理由で迫害を受けている。
これら奇しくも同じ立場を辿っている両者は、魔族と人類との平和的共存を望むヒロインのから持ちかけられた協力関係によって、反撃を開始する。
二人の共通の目的である監獄から出所する為、魔術的な契約を結びその結果、魔王であるヒロインの強大な魔力が主人公にも共有され強力な魔術を主人公ライアンも行使できるようになるというものだ。
もちろん魔力を持たないライアンだがそこは修行次第でといった所で全体のバランスを取っている、やはり最初から強すぎてはつまらない。
またこの契約によって徐々に制約が解除されていくのだが、その方法もお互いの親密度が高くなるほど魔力供給量が多くなる、すなわちボーイミーツガール的なラブで二人は強くなっていくという寸法。
特にこのギミックは色々とお話が転がりそうで面白そうに思える。
協力し信頼しあってはいるが、目的と種族に対しての懐疑心次第では.…二人の関係性が変わってしまったら、また世界が変わるといった展開を考えてしまう…。
2巻以降に期待してみたい。

また劇中この作品のキーとなる『贖罪値』とパンをライアンとルナーラが共に分け合うという場面が描かれるのだが、ここで二人の歩み寄りが描かれ後に初めての勝利を納めるのだが、ここの描き方がまたこの作品を象徴するようで印象に残る。

とここまで推敲もせず思い出しながら慌てて書いているのだが、実は結構慌ててる。
というのも角川系のティーン向け出版物は初動が大事。
発売ひと月とかで売上を集計されてその後続刊するかどうかが決まってしまうのだ。
そのためライトノベルといえども大変である、初週は新入荷コーナーで平積みされていてもその後すぐに棚に刺されてしまう事も多い、最悪すぐに返本コースを辿る可能性もある。
いっとき話題になったタイトルの長いライトノベルや、やたら内容の説明的なタイトルというのもそのマーケティング戦略によるものだそうだ。
受賞作品といえども新人作家の作品は手厚いサポートがあったとしても、なかなか芽吹くことは難しいだろう、特にずっと出版不況と言われて久しいわけで。

という事で私は2巻以降も読みたいです。
あと本人も機会があれば書く気はあるそうです。


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